第5話 最高の味

「当然よ、コルルが用意してるのは紅茶の名産地『コラプッテ』から仕入れたのだもん」


「マジで?? 高級品で有名な?」


「そうよ。私が以前いただいたの」


 目を丸くして驚いているヒータ。まあ、当然よね。


 ここから船で大海原を2か月ほど進んだ場所にある、ブリタニカの海外領土。そこの紅茶は世界一と呼ばれるほど香り豊かでいい味をしていると有名。コルルも、よくどうすればおいしく紅茶を作れるか研究を重ねている。私は、それや素敵なおもてなしの方法を学んでいたのだ。



 本当はこれだって貴重品でこんな個人的なパーティーで出せる代物じゃない。

 以前現地の人が自国を開発しようと東の「夏」という大国に自分の国では払えないくらいの額を借りて無理に発展させようとしたが失敗。

 借りた金が返せなくなったら王都の港湾施設や銀山などを99年も差し押さえられる結果となってしまった。それに対して私が先頭に立って交渉を続けた。



 話によると彼らは他国にも無理な貸し付けをして、返せなくなったらその国の領土を力で押収するということを繰り返していたそうだ。


 彼らも貸した代金が代金だけに渋ってはいたけど、「夏」の役人たちがアヘンを世界中から密輸入したことを追及し、強引な手法をとれば国際問題にすると強く出たら何とか矛を収めてくれた。

 それによって感謝され、この茶葉を手に入れる結果となったのだ。えへん!


 ヒータも、鼻をクンクンとさせてご満悦そうな表情をしている。とっても嬉しそう。あ、ちょっと表情が緩んだ。

 コルルはそれを見ていたようで、ヒータににこっとした笑みを浮かべた。


「お任せください、必ずご期待に備えて見せますから。アスキス様なら大丈夫です。そばにいた私が保証します」


「ありがとうコルル」


 そう言って、ゆっくりと頭を下げた。こういった仕草だって、礼儀のうち。上品な動きを心がけて体を動かす。


 上品に、軽やかにミルクを注ぎ入れる。透明なカップの中で、白いミルクのうねりは、熱と冷たさの絶妙なバランスを生み出していた。心地よい香りとクリーミーなティーは、まさに贅沢な一杯と言えるだろう。


 さらに、メープルシロップの入った銀の小物とサンドイッチをミルクティーの隣に添えた。見た目は、まるで王宮の庭園に咲く花のようで、その美しさに目を奪われる。


 じっと見てくるヒータ。興味津々そう、そしてふと視線が合うと──。


「べ、別に何でもないわよ。たまたまよ、たまたま」


 恥ずかしそうに顔をぷくっと膨らませて、すぐに目をそらした。それから、そっぽを向きながらもこっちをちらちら見ている。意外と、顔に感情が出やすいのね……。意外とかわいいところもあるのよね。まあ、すぐに素直にさせてやるんだから。待ってなさい!


 そして、サンドイッチとミルクティーを机の上において準備完了。

 手を合わせて、目をつぶる。


「できましたわ。それではいただきます」



「「いただきます」」


「じゃあ、食べてみましょう」


「楽しみですね、ヒータさん」


「ま、ま、まあね。あんたにしてはそれなりに出来たほうなんじゃない? 貴族たちにふるまうんでしょう? その時に恥かいたりしないように私がしっかり見てあげるわっ!」


 やっぱり素直になり切れないヒータ。この子の魅力、なんかわかってきた。


 そして、やっと私たちはミルクティーを飲んでみる。カップを優雅に手に取ると、一口目をすする。舌先に広がる甘みは上品で、滑らかなクリームとメープルシロップの風味が、舌の上で踊っているようだ。


「何これ、すっごい美味しいじゃない」


「当たり前じゃないですか。アスキス様が入れた紅茶です。おもてなしに関しては、私以上の腕なんですよ」


「まあ、他国の要人にやらなきゃいけないから、自然と身についてくるわ」



 何度も、いろいろな国の要人や貴族たちにおもてなしをした。失敗しちゃったこともあるけど、それが経験になってどうすれば喜んでくれるか、不快な思いをさせちゃうか学んだ。色々、公爵令嬢として経験を積んでいるんだから。


「おいしい──」



 そう、ミルクティーはホイップが乗っていて、隣にはメープルシロップの入った銀のカップ。当然全部かけた。


 サンドイッチの美味しさとミルクティーのコクが、王宮の厳粛な空間に幸せな雰囲気を漂わせる。ヒータは、この贅沢な一瞬を早くも刻み込もうとしていた。


 そして、優雅なティータイムを終えると、コルルは落ち着いた表情でテーブルを片付け始める。ミルクティーの香りはまだ、空気中に漂っている。胸に広がる暖かな感触は、これから始まる日常の生活を彩っていくに違いなかった。いい時間だった。


 こんなおいしい食事の時間、いろんな人と共有できるようにしたらいいな。

「うん、素敵な時間だわ。ブリタニカにしては、よくやるじゃない」


「うん、とってもおいしそう」


「何これ、本当にあんたたちが盛りつけたの? 信じられない」


「私だけじゃないわ。コルルと一緒に考えたのよ」


「フランソワ王国の貴族、マクシム家に仕えていた時の食事です。フランソワ王国では、貴族たちに忠愛を受けることが家を豊かにさせる最大の方法でした。私の家は、代々貴族たちを喜ばせるような食事、マナー、作法などを学んできて私もそれを実践しています」


「いいじゃない。それをね、丁寧に盛り付けてみたの」


「うん、甘くて美味しかったわ」

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