第4話 美味しい、料理の時間
「とりあえず、休憩にしましょう。アスキス様もいろいろ煮詰まってるでしょうし。ヒータ様もどうですか? 同じフランソワ王国出身ということもありまして。もてなしますよ」
コルルが割って入ってきた。私のことが気になってお父様の部屋まで行こうとしたのだろう。
ヒータは、フランソワ出身ということでコルルに関してはよい感情を持っている。同じフランソワ出身だからだ。
良く、ちょっかいを出してくるヒータに大人の対応をしているコルルを見かけていた。いつも冷静に軽くあしらってたのをよく見る。
コルルの言葉に、腕を組んで顔をほんのりと赤くして、ヒータが言葉を返す。
「だ、だ、大丈夫なんでしょうね? ちょうど食事時で、小腹がすいてるし。そ、そこまで言うなら食べてやらんこともないけど」
「はいはい。それは料理を食べてから言いましょうね」
「わ……わかったわよ。いろいろ話もしたかったし、一緒に行きましょう」
コルルは料理人としても名前が高い。本当はうれしいのが、私から見てもわかる。
コルルを先頭に、しばらく歩いて私の部屋へ。
日の当たるベランダに面した広い机。そこでティータイムをすることになった。
ちょっと、いろいろ話を聞いてみようか。
「それでは、おもてなしをさせていただきます」
「お願いね」
ヒータがご機嫌そうに言う。コルルが持てないしてもいいんだけど──ここは。
私はパッと手を上げた。
「私がもてなしたいんだけど、いい? 料理だけでも」
「本当ですか?」
びっくりしているコルルとヒータ。確かに、本来ならコルルの仕事なんだけど、ヒータにそこまで言われた手前それに対する答えを見せたい。だって、悔しいじゃん──あれだけからかわれて何も言えないなんて──。
ヒータは、ジト目でこっちを見ている。
「あんたにできんの?」
「できるわ。もてなし方だって令嬢として精いっぱい勉強したんだから」
私は、ヒータをじっと見てにらんで言葉を返した。やってやるんだから。コルルは強いまなざしでこっちを見ている。
「わかりました。よろしくお願いしますね」
「ありがとう。じゃあ2人とも部屋に戻ってベランダにいて」
「ほ、本当にできるの? 変なものだしたら言いふらして王宮の中で笑いものにしてやるんだから!」
挑発的な笑みで、髪をなでながらヒータは言う。まだ疑ってかかるようね。
各国の国王様たちにだって十分通用する私のもてなし、しっかり堪能させてあげるわ。
「まあ、実際に味わってみなさい。私だって、おもてなしくらいできるんだから」
そして、私は3人のティータイムの準備を始めるのだった。
部屋に戻った私たち。王都──そしてその先にある海を一望できるベランダの部屋。
王宮に佇む白いメイド姿の私。良好な天気のベランダで、優雅なティータイムを準備していた。
食事の準備はある程度コルルが終わっていて、あとは軽く味付けをしたりいつものコルルみたいに正装でもてなしをしていくだけ。
ミルクティーにサンドイッチ。でも、ただセットするだけじゃ芸がない。それじゃあヒータに何を言われるかわからない。
軽くセットを終えて──隠し味は、あれで決まりね。棚から青い瓶を取り出し、人数分円形になってる例の食材を取り出す。
ちょっと、見せつけてやれ。
自慢げにヒータとコルルに瓶越しに見せつけると、2人ともそろって目を丸くした。
紅茶に入れる、ミルクに──蜜。それもただの蜜ではない、飴玉のように丸く固体になっている飴蜜。
「それ、妖精『エインセル』の蜜ですよね?」
「マジ、それすっごい希少価値じゃない。なんであんたがそれ持ってるのよ」
「ふふ~~ん。知り合いの貴族からもらったのよ~~」
そう、2人が驚くのも無理はない。
この蜜は、ここから北にあるルアインランドに住んでいる希少価値のある珍しい「マルテナ蝶」からしか取れない高級品。
本来であれば、その地域の領主の貴族「ロイド家」がおもてなしのために使うためだけに使い王都には出回らない品物だった。
そんなものを私が持っている理由。それはそんな彼らが以前、食料が不作続きだったので相談に乗ってきたときのこと。
「毎年、収穫量の多いじゃがいもを育ててきたのだが最近奇病にかかってしまうことが増えてしまいまして」
「わかりますかね」
食糧不足で争いまで起きていて困り果てている領主の貴族たち。
私はじゃがいもばっかり育てていたことから、以前古文で目にしたことがある同じ作物ばかり育てていると連作障害──みたいなことになって病気にかかりやすくなってしまうというのを思い出した。
それを指摘して同じ場所で何年も同じ作物ばかり作らない、別の作物も作るよう指示したら障害がなくなり、飢餓を克服することができたのだ。
「ご指導ありがとうございますアスキス様、これは私たちのお気持ちです」
そして、この蜜飴をいただいた。ちなみに、今も交流を取りつつ定期的にいただいてる。
あと、あの後博物館のティータイムで各国王たちにごちそうしたのだが大好評だったとか。
それを紅茶の中に入れる。蜜飴特有の甘くてとろけるようなにおい。
ヒータはそれをじっと見て、ごくりと息をのんだ。さあ、料理の続きよ。期待にこたえられるようなミルクティーを作らなくちゃ。
優雅に広がるテーブルクロスの上には、白亜できれいな模様をしたティーカップと皿が置かれている。カップに瑞々しい紅茶が注がれた。その香りは、部屋中に広がりながら私の鼻腔をくすぐる。
「うん、いい香りじゃない」
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