第3話 頼み
赤絨毯の道を時折貴族の人とすれ違って、軽く挨拶をして一番上の階へ。ドキドキするなあ……。
国王様の部屋へたどり着いた。一回深呼吸をして心を落ち着けてからコンコンとノックをして部屋に入る。
「お父様、お呼びでしたか?」
視線を前に向けると、その人物がいた。赤絨毯の床の上で片膝をついて話しかける。白を基調とした、豪華な服装。胸のあたりには勲章の数々。
長身ですらりと痩躯な体形に長くて白いひげ。
私ウィンストン=アスキスのお父様──そして、わが王国の国王を務めているウィンストン=ロイドだ。
オホンと咳をしてから、話始める。大きくため息を吐いて、どこかがっかりした様子をしていた。理由は大体予想つくけど……。
「さて、何とかサミットを終えた。とある問題以外は特に事故などの問題もなく進行できたことは光栄に思う」
「とある……ね」
大きくため息をついて、苦笑いをする。
「──で、わしがお前をここに呼び出した意味──分かるな?」
「まあ、なんとなく。料理のことですよね」
「ああ。我が国の食文化がすさんでいるとは聞いたが──ここまでひどいとは思わなかった」
豪華な椅子に、がっくりと肩を落として座っている。サミットについて、よほどショックを受けたのだろう。
「確かに、私たちブリタニカ王国の料理ほとんど食べてませんでしたからね」
自分のところの料理を食べていなかったことが、考えてみれば不自然だ。だから、あの異常な味に気が付かなかったのだ。
「ああ。じゃがわしらとてこのままでは終われん。国の集まり自体は来年もある。言いたいことはわかるな?」
「それまでに、おいしい自国の料理を見つけてこい──とのことですか?」
「流石はアスキス。私の娘じゃ」
なるほどね。来年に向かって汚名返上したい。そのために私に頼み込んで、素敵な私たちの料理をご馳走したいっていうことね。
私も、それには賛成だ。
あれだけ笑いものにされたんだもん。私の国の料理を。とっても悔しいし、見返してやりたいって気持ちでいっぱいだ。
「とのことで、しばらくの間ほかの国へ行って料理の勉強をして来い。そして、その学んだことで我が国の食文化を少しでも向上させてほしい。いいか?」
「つまり、参考にするってことですよね?」
「そんな感じじゃ。他国がどうして素晴らしい食文化を作ることができているか、その目で直接調べてほしい」
まあ、参考にするくらいなら大丈夫よね。他国だっていろいろな国の文化や調理方法を参考にしたりしているし。
そもそも、私たちが というのは、山がちで大きな川が 大きな統一国家ができなかった。
そのため、小さい王国の独自な国家が乱立し各王国で強さや競争を高めあう結果となったのだ。
だから料理や味に関する好みなんかは比較的似通っている。いろんな国の料理の素晴らしいところを学んで、それを私たちの文化や取れる素材と融合させていい食文化をつくればいいと思う。
待ってなさい。私たちの料理を侮辱した奴ら。今に見返してやるんだから。絶対に、他の国に負けない食文化を、作ってやるんだから。
自然と強気な表情になり、こぶしを強く握った。やってやる。
「その意気じゃアスキス。期待しておるぞい」
「まかせて、お父様」
そして、部屋から出て赤絨毯の道を歩く。いろいろと問題が山積みで、さっきは強気だったものの自然と、がっくりと肩を落としてしまう。
いったん私の部屋へ戻ろうか──。
これからどうしようか、考えながら階段を下りたその時。
「おーおーアスキスじゃない! そんながっくりとした表情でどうしたの?」
甲高い声。
思わず振り向く。まさかとは思ったが、こんな時にこいつと出くわすなんて……。
思わず「ゲッ」とささやいてしまう。
目の前にいるのは、挑発的な笑みを浮かべ、両手を腰に当てている女の子。
私より頭一つ小柄な体形。釣り目に挑発的な笑み。ピンクのリボンを付けた金髪のロングヘア。
にやりと笑って、こっちを向いて手を振っている。
「な、何よ……今からいろいろ考えなくちゃいけないの。あなたと遊んでる暇なんかないのよ、ヒータ」
「いろいろ考えるって、あんたんとこの色合いも味もベネルクス最悪と言われた料理のことぉ?」
思わず肩をピクリと動かしてしまった。こりゃ悟られたわね……。
こいつ、勘だけは鋭いのね。いつも嫌味ばかり言ってくる癖に、私のことをよく見てたり張り合ったりしてくるのよね。
ヒータ=マクシム。
フランソワ王国出身の貴族だが、以前の革命により王国を追われブリタニカにやってきた。
貴族界に人脈があるので、料理人やフランソワやその他の国との調整役を担うことで王宮にいる人たち。
ヒータはその末っ子として生まれた。
んで、いつも挑発的な笑みを浮かべて私をからかってくる。何かにつけて張り合うように。
いつもブリタニア王国の悪口ばかり言っているのだ。嫌味で──。ことあることに私に突っかかっては意地を張ったり嫌味を口にしたりしてくる困ったやつなのだ。
今回も挑発的な笑みを浮かべて、言い放ってくる。
「何よ、ブリタニアの奴らにうまいもんなんて出せるの? 砂糖をそのまま出したほうが、まだいいんじゃないの? それから、私たちフランソワ王国の料理を作るの。自分たちの料理じゃ、満足したもの出せませんってね」
「うるっさいわね。おいしい料理自体は出せるのよ。料理自体は」
顔を膨らませて言葉を返す。いつもこうだ、何かにつけて意地悪な物言いで皮肉を言ってくるのだ。
じっと睨みつける。今回はどう返してやろうか──そんなことを考えていた時だった。
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