第15話 美味しい味

 そして、キッチンの厨房で料理を作り始める。

 素材に目を通す。違う国と入っても、海を隔てただけの国、気候もそこまで違いはない。

 だからブリタニカと素材がかぶっているところもある。あのあたりはーー調理したことがあるわ。


 ブリタニカで料理を作った経験をうまく生かして、素敵な料理を作っていく。


 半分はこの国の文化、でも──残りは私の祖国ブリタニカの文化や味付けを生かした料理にしたい。


「味付けは、どうしますか? シンプルに塩──それとも自分で味付けしますか?」



「それもいいんだけど、せっかくふるまうんだし、もっといい料理をふるまいたいわね」


 無難に使うのも悪くはないけど、普段は食べれなかった料理──それを食べさせてあげたいという気持ちだってある。


「ちょっと手間になっちゃうけど、いろいろ研究してみましょ」


 それから、いろいろ食材を使って味付けの実験。

 いろいろ眺めて、話しかける。


「ブドウなんか使ってみたいわ。それにしょっぱい系をませて味付けをしてみましょ」


「子供もいるし、甘めにしない?」


「それいいわね」


 コルルとヒータと意見が合った。

 彼ら、大家族で来ただけあって何人か子供を連れているのを見た。子供たちからみんなまで、みんなが食べられるようにしていきたい。みんなで美味しく食べたいからねっ。


 牛すね肉や豚でとった出汁に、牛骨をベースとした味を取って、ニンジンやジャガイモなどを加えて煮立てた。コンソメに近い味だ。


 それに、はちみつや塩、砂糖などを混ぜてとろみを入れる。比率を何パターンか変えてみて何種類も用意し、最もおいしそうなバランスを見つけた。


「これがいいんじゃないかしら──とろみがあって、ちょっと甘め──素材の風味も死んでない」


「いいんじゃないですか?」


 2人もペロッとソースをなめて賛同してくれた。じゃあこれで決まりね。完成したソースのレシピを記録しておき、肉の調理に入る。


 フライパンを取り出して、油をひいてから肉を入れる。焦がさずにステーキを焼き──前方の赤ワインのボトルに視線を向けた。


「持ってきます」


 コルルがワインを取ってきて、受け取る。コルクの蓋を取って、フライパンに向けてワインを傾けた。

 あれ……言ってみたい。


「ワイン──ちょっとやってみる!!」


「あれですか……コツを教えます──うまくいくにはですね……」


 ごにょごにょとコルルからコツを教わる。フランベ──昔見たとき、あの迫力。レイノーのもすごいと感じたし、決まれば場が一気に盛り上がる。確か、アルコールが強いお酒じゃないとダメなんだっけ?

 絶対にやりたい。


 大きく深呼吸してから、神経を集中させる。ワインとアルコールの強い度数のブランデーをフライパンに注ぐ。ワインが厚い鉄板に触れた瞬間──。

 ジャァァァァァァァァァァァッッッ!!


 豪快な音を立ててフライパンの炎が大きくなる。たちまち火柱が上がって、急いでフライパンの中のステーキをひょいっと宙に持ち上げる。おっとっと!


 ステーキ肉は一回転して宙を舞い、さっきと違う面がフライパンに落ちる。

 できるかなって心配だったけど、何とか成功。よかった……。


「フランベできるのね、なかなかやるじゃない」


「な、何とか出来たわ!」


 初めてだけど、コルルにコツを教わって、うまくやることができた。ちょっと冷や汗をかいてる……。

 よ、よかった~~。



 そして、ちょっとレアな焼き上がりでステーキが完成。そこに味付けしたソースをかけてみる。

 3等分に切って、3人で食べる。


「へぇ~~おいしいじゃないこれ」


「レイノーのソースよりも、コクがあっておいしいわね」


 レイノーの味付けは、おいしいんだけど素材の癖が残ったり味が十分混ざってなかったりしていた。

 おそらく、素材の美味しさを残したかったのだろう。ただ、癖がある味だと食べられる人と癖そのものが受け付けないって人がいる。証拠に、レイノーの料理は一部の子供が食べられずにまったく手を付けなかったのだ。本人は、俺の天才的な味がわからない遅れたやつとか言っていたが。


 今回は、初めてここに来る人のおもてなしということでどんな人でも満足して食べてもらうということが大事、まず第一に受け付けないという人をなくすことが大切だ。


「万人向けで、悪くはないですね。これにしましょう」


 コルルも満足げだ。もう夜も遅いし、もう一つの料理についても考えなきゃいけないし、それがまた時間がかかりそう。とりあえず、ステーキはこれで大丈夫だ。そして、もう一つの料理に取り掛かる。


「もう一つは、この料理。わかる?」



 そう言って、その料理に使用する食材を机の上に乗っける。2人はしばしきょとんと考え込んで──コルルが言葉を返した。


「まさか……あれ、スターゲイジーパイですか?」


「まじで?? あの見た目がグロくてそんなにおいしくないやつ?」


「そうよ、まあ味についてはこれから考えるけど」


 驚いたヒータの言葉通り、もう一つ提供しようとしているのは、わが王国の伝統量にの一つであるスターゲイジーパイというやつだ。


 焼いて魚を大きなパイ生地や、ジャガイモや卵を包んで焼いた料理だ。

 そして、魚は頭部や尾部を突き出すように作る決まりがある。それか、魚が天を仰ぐようにして突き刺すか。


 ただ、さすがにそのまま出したりはしまい。ご想像通り見た目はグロいしまた笑いものにされる。

 だから色々と工夫をする必要がある。



 具体的には味──うちでは味は自分で味付けをするという考えの元何もない。机に塩とかを置いて自分で好きなだけかけてくださいというスタンスだ。


 しかし、それだと知らない人はそのままパイを食べてしまい「味がなくてまずい」とまた馬鹿にされてしまうだろう。そのあたりは、改良する必要がある。


「食事もそうだけど、楽しかったし何より一緒に食べて楽しいってことが重要だと思うの!」

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