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「マスターは結婚されてるんですか。」

左手の薬指に銀色の指輪をしているのがわかっていたけど敢えて聞いた。

「してますよ。こう見えて。」

「どこで知り合ったんですか。」

「学生結婚です。」

「そうなんですか。」

「この仕事をするときは反対されました。」

「なんでですか。」

「一応大学出なわけですから。」

「そうですかあ。企業とかに就職しなかったんですね。」

「まあやくざな職業ですからね。」

確かに企業に就職するのに比べたら。


「どうやって就職したんですか。」

「酒が好きで通っていたんですよ、別の店ですけど。それからそこで修行させてもらいました。」

「じゃあ最初はお客さんだったんですね。」

「そうです。周りが就職活動している時にも私は他人事のようにカウンターに立っていました。」

「それじゃあ奥さんも心配しますね。」

「今じゃあ私より稼いでます。」

「奥さん、就職されたんですか?」

「はい。ちゃんとした企業に。」

なるほど。共働きか。


女子ふたりが会計をしに席を立ってカウンターまで来た。

さっきまで顔はよく見えなかったが、かわいい子たちだった。

「ウィスキーが好きなんですか。」

ひとりがこっちを向きにこっと笑った。

軟派な男と思われてしまったようだ。

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