7話 魔人と化した者

 噛み潰される戦闘機、徐々に《ダウナー》としての形を失っていく機体。その光景は、新たなる敵の誕生を二人に見せた。


 その光景は、二人を絶望に落とし込む。


「そ、そんなはずがあるわけないだろう!! 内部への魔力漏出のテストもしてあるんだぞ!? こんなことあるわけが!」


「実戦はどうなんだ?」


 映し出された光景に、焦り現実を受け入れられない男に、ジグルゼが冷静に問いかける。


「実戦!? そんなことしたことがあるはずないだろう!! そんなことしたら、どれだけの罰を食らうか! そもそも虚獣だって、ステージ2だと聞いていたのに……」


 焦りだし、聞いていないことまで愚痴を吐くように吐く男に、ジグルゼはなにかに感づきながら言葉を返す。


「なるほどね、全部予定通りで、こっから予定通りじゃないってわけだ」


 お気に召さなかったのか、それともおいしいところは食べ終わったのか、食事の途中で吐き出された戦闘機が、重力を失い二人のもとへと落ちてくる。


 焦り故か、もはや男はまともに戦闘機の操作すらできず、避けることすらできない。


「ッチ、しゃあねぇな。あんたには聞かなきゃいけねぇこともあるんだ、しっかり生きて、罪償えや!」


 そういって露骨に嫌な表情をしながら落ちてくる戦闘機を魔法で弾き飛ばし、戦闘機をその場から退ける。


 「おっさん、離れてろよ。こっからはもう、”人間”の出る幕じゃないぜ」


 言ったはいいものの、ジグルゼはそれが自分も同様であることに気づいていた。

 通常の魔人なら大きさは”人間”のままのはず。が、目に入るのはジグルゼの10倍はある大きさの《ダウナー》に乗り込んだまま魔人化し、機体ごと魔に犯された怪物。

 

 自分が同じフィールドに立っていないことなど、ジグルゼは分かっていた。


「《ステア》に乗ったりしたまま魔人になるとあぁなるわけね、うわさでは聞いてたけどマジできめぇな、そのまま宇宙に消えてくれたらいいんだけど……」


 宙に舞ったままのジグルゼの願いを無視するように、無理やり開かれた口を腕で吹き払う仕草は、まるで人そのものだった。


 やがて、自らに魔法をかけ、傷をいやすように、機体にあった損害は、きれいさっぱり魔力に補強されていく。

 失った片腕と片足すらも、魔力によって生え出す。


 その光景はいくら仕草が人らしくあろうと、人であることを否定していた。


「消える気はありませんってか、たく。うれしい限りだよ。」


 そういいながら《ダウナー》だったものをにらみつけると、それは新たなる獲物を見つけたようにジグルゼの方をにらみ返す。


「次の獲物は、俺か?」


 その言葉を皮切りに、戦闘は始まる。

 ジグルゼは逃げることはせず、向かってくる機体に魔法陣を使い魔法を放つ。


「《水魔法 流水フロウウォーター》」


 その言葉通りに、魔法は水を召喚し、滝のような水を真上から向かってくる魔人へと放出する。


「《雷魔法 雷砲シェーリングサンダー


 後を追う様に放たれる雷砲は、一直線に空を駆け、空を駆ける滝と重なる。


 混ざり合った二つの魔法はその威力を上げ、魔人へと向かう。が、空を一直線に飛ぶことしかできないそれは、簡単に避けられる。


「やっぱ当たってくれねぇよな、んじゃまぁ、おとなしくしろよ

 《土魔法 土のソイルハンド》」


 ジグルゼに突撃するように無防備に近づく魔人に土の手が行く手を阻む。

 空に現れた二つの手は、巨大な魔人を逃がすことはなく、ジグルゼの狙いどおりその体をつかんで離さない。


「さぁて、こっからこっからぁ、知ってるか?今の俺はあとづけだってできるんだぜ?」


 瞬間、土の手につかまれた魔人を、避けたはずの雷水が襲い掛かる。

 

 魔法のあとづけ、それは魔法陣を介して行う魔法では不可能なはずの行為、がしかし、さきほどのタンク内での魔法陣構成の疑似魔法と混同した状態の空間魔法の使用により、ジグルゼはみずからに課せられた虚獣と同じ疑似魔法という技術をものにしていた。


 そしてそれは思うがままに魔力を操る力、放たれた流水に別口で魔力を与え、あとからの誘導をジグルゼは可能にしていた。


 狙い通りの攻撃を魔人に与えたジグルゼ、しかし、そんなことはなかったかのように魔人は新たなる進化を遂げる。


「……まっさか、こっから進化かよ……」


 目に映る魔人は、向かってくる雷水を防ぐように新たなる腕を後ろへと生やし、その腕に盾を作り出す。


 現れた3本目の腕、それを追いかけるように何本もの触手が背中から現れる。


「ありゃりゃ、お気に召さなかったかな」


 現れた何本もの触手は、その怒りを表すかのように魔法を放つジグルゼを狙って追いかけていく。


「《身体強化 魔法装甲・青》」


 青く包まれるジグルゼの体は速度を上げ触手を突き放す。


 逃げながらも慣れた動きで身体から適当な魔法を放ち、牽制を行うジグルゼは、すでに虚獣の疑似魔法の発動と《ウィザード》の通常魔法の発動を使い分けていた。


「これでも、マホウツカイなんでね、時間稼ぎはさせてもらいますよっと」


 急激に速度を上げ、身体がボロボロンならないよう自らに装甲を纏いながらも、ジグルゼは同時に牽制を行い同時に3個以上の魔法を使い続けていた。


 それは、時間稼ぎを狙ったジグルゼからすれば魔力の使用量が果てしなく、あまりやりたくはなかった、がしかし、せまりくる魔人を斗座けるにはそれしかなかった。


「そろそろ次のデカいの行こうか」


 そういいながら一枚のカードを手に取り、腰についたレコードに通す。


「《空間魔法 無魔力空間アンチマジックエリア》」


 それは、魔力を一体から消し飛ばす魔法、であった。

”人間”用の《サテライト》ではそれが当たり前であるはずだった。

 

 が、度重なる虚獣とジグルゼの魔法で魔力に犯された一帯は魔力で満ち溢れていた。ジグルゼはそれをもう一度それをなくすことで魔人に必要な魔力供給量を減らし続ける持久戦に持ち込もうとしていた。


「《疑似空間魔法 隔絶空間アイソレーション》」


 内部の魔力を使い空間の隔絶する魔法監獄マジックプリズンではなく、自らに与えられた疑似魔法という新たなる技術を使い、魔法監獄マジックプリズンを応用し外部に魔力を使い、魔力のない空間を魔人の一帯に縛ることで魔力消費量をジグルゼは抑えた。


 その代償に内部に付与できる効果は0となり、ただ魔力がないだけの空間が出来上がる。

 それは防御性もなく、たった一発のミサイルで壊れるガラスのようなもの、しかしそんな陳腐な空間が魔人んは効果的だった。


「あとは耐えるだけ…か」

 

  魔人から内側から放たれる魔法の数々、それをできる限り内部に魔力を残さないようレコードにカードを通して相殺する。

 

 その時、離れさせたはずの男の声が耳に入る。


「”人間”に栄光あれ!!」


 それは、壊れかけの戦闘機から聞こえた、もはやルナリングシステムを使うことはやめ、自らの肉体すら魔力に染め上げた最高の餌を、魔人に与えるために男は隔絶された空間に飛び込んだ。


「な……何考えてやがる!!」


 ジグルゼがそれを阻止しようと魔法を放った時、ジグルゼの魔力はそこを尽きた。

 行く手の拒むことのされなかった戦闘機は、そこをついた魔力により崩壊しかけの魔力のない世界に魔力をもたらした。


「すべては世界を歪めるためにッ!!! 

 ”人間”の世界をッ!!に、ンげ……」


 それが最後の言葉だった。魔力に染め上げられた肉体と戦闘機、魔人の前に他とりついたその餌は、男の最後の言葉を聞くこともなく噛み潰す。


 底をついたジグルゼの魔力と、魔人に与えられた最高の餌、魔人は新たなる進化を遂げる。

 それは”人間”に近づいたモノだった。

 半機械的だった身体を魔力に溶かし、半透明的な魔力生命体と化した魔人に、mもはやパイロットなど見えなかった。


 半透明、水色の巨人、魔力で完成されたその体は、ジグルゼすら捕食しようとした。

 その時だった。


「よぉ、間に合ったか?」


 それは、さっきまで赤い血を垂れ流し、死にかけだった男の声。

ありえないはずの声、がしかし、それを肯定する白い騎士。

 ジグルゼは実感した、未だ見ぬその騎士が、新たなる《ステア》であると。

 

 声と共に放たれた無数の魔法は、巨人の体を地面へと突き飛ばし、ジグルゼを救う。

 

「よくやったじゃねぇの、マホウツカイ」


ファフニール・ファーフナーは、白い騎士となり現れた。


 


 





 


 


 


 


 


 


 

 


 


 

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