6話 魔力の虜

 爆発音とともに、破裂したタンクは、見えない魔力を空気中にばら撒く。


「できるかどうかは賭けだったんだがな、これの使い方もわかってきたよ」


 そういいながらもジグルゼは少しだけ額に汗をつけていた、どうやらできるかどうかは半身版木だったようだ。


「こざかしい真似をするんだな、君も」


「おっさんに言われたくねぇよ、で?その機体で次魔力を吸収したらどうなんのかな」


 その言葉と共に、乱雑にジグルゼは疑似魔法を放つ。炎、水、雷、もはやそこに統合性も持たず、ただ魔力を食わせるために放たれる魔法、そしてそれを、狙い道理戦闘機は捕食する。


「どうにもならんよ、ただ空気にばら撒かれるだけだ。私には何の影響もない」

 

 その考えは正しかった。空気中に散布する魔力は、戦闘機にたどり着くことはあっても、またそれを捕食し空気に散布するだけ、無限の魔力がなだれ込むことでもない限り、戦闘機が魔力に犯されることはない、はずだった。


しかし、それはジグルゼの狙い通り、戦闘機の周りを覆う様に、ジグルゼが空間を隔絶する。


「《空間魔法 魔法監獄マジックプリズン》」


 作られるは魔法の監獄、それは男の乗る戦闘機はもちろん、炸裂した魔力すら逃がすことはない。


「まださっきの感覚が抜けねぇからよ、こういう空間魔法は展開できねぇと思ってたんだが、お前は漏らした魔力を食うので手いっぱいだもんなぁ」


 そう、ジグルゼの魔法は今、魔法陣を介していても、中途半端に残る虚獣と同じ疑似魔法の感覚が残っていた。


 だからこそ、高度な技術を要する空間魔法では、魔法陣を使用したとしても、監獄の構成途中で魔力が吸収されるはずだった。

 

 が、戦闘機の魔力タンクは破壊され、吸収機能は生きているが自らが散布した魔力を吸うので手いっぱいの機体では空間魔法の魔力を吸収できない。


「ま、まさか、これを狙っていたのか、魔力の同時吸収量を……、貴様、それでも兵士か!?」


 自分の置かれた状況を理解した男は、危機を理解し焦りだす。戸惑い故かいきなり正義に似たものを問いだそうとした男を嘲笑う様にジグルゼは魔法を構える。


「じゃあな、おっさん。

 最後は歪んだあんたの魔法で占めてやるよ」 


「《亜弾》」


 それは、先ほど《ダウナー》が見せた懲り固められた魔力。ジグルゼにより名づけられたその名に呼応するように、放たれた不細工な魔法は身動きの取れず、魔法の吸収もできない戦闘機を穿つように思えた。


 刹那、大きな爆風が《サテライト》内部を襲う。

 その影響で放たれた《亜弾》は起動を反れ、戦闘機は危機を逃れる。


 そして、二人を襲った爆風の方に目をやると、それは真上からの物だった。

 そこで二人の目に映る光景は、爆散する虚獣と、片腕と片足を失い、機体のあちこちに損傷を受けながらも勝ち切った《ダウナー》の姿だった。


 その周りには二機の戦闘機が、今にも羽が欠け墜落しそうになっているのを、《ダウナー》がつかんでいた。

 まるでまだ物心つかない幼い子供が、翅が欠け飛べぬ蝶をつかんでいるようだった。それは、まるで今からパクリと食べてしまうかのようにすら見えた。まだ生まれたばかりの子供が蝶をつかんでいるように。


「どうやら、神は私達に味方したようだな。」


 その光景を見て、男が安堵したように言う。

 見えるのは形を失い崩壊していく虚獣、やがてそれは、まるで何もいなかったかのようにその死体の一切は消え去り、残るのは獣の残した被害のみだった。


「終わった…のか?」


 すべて終わった、かのようにジグルゼの目に映る。

放たれたが的をなくしたミサイルは《サテライト》の穴を通り抜け宇宙で弧を描き、《サテライト》の中んはむなしくも役目を終えた炸裂音だけが響き渡る。


 すべてが終わったと実感させるほどの静寂が《サテライト》の内部を支配したその時だった。


 パクリと、《ダウナー》は自らが捕まえた虫を口にくわえた。

 好奇心旺盛な《ダウナー》は、自らがつかんでいた墜落しかけの戦闘機を、捕食した。

 が、しかし、《ダウナー》には捕食機関などはない、口など、機械は必要ないからである。

 それでもなお、そこにいた者たちは見た、《戦闘機》に乗り込み監獄にとらわれた男も、人を助けるティレイも、宙を舞うジグルゼも、その異様な光景を目にした。


「おいおいおい、なんだよあれ、なんで戦闘機食ってんだよ、おっさん、あれ味方の機体なんだよな?」


「あ、当たり前だろうッ!! あれは私たちの主力機だぞ!! だが…あんな捕食機関、設計には…」


 その光景は、仲間どころか指揮していた男にまでも異様な光景だった。

 焦る二人となおもかみ砕かれる戦闘機、二人の目には映らなかったが、それは確かにかみつぶしていた、戦闘機に乗っていたはずの”人間”を。


 そして、すべての謎は、答えを一瞬にして披露する。絶望にまみれた、真実の答えを。


―———パリンッ


 その光景から目を離すことができなかった二人を隔絶していた監獄が割れる。

それは、魔法によるものだった。創られた雷撃は、監獄を打ち抜いた。


 それを放ったのは、《ダウナー》だった。


「おっさん、あれに乗ってるのは”人間”で間違いねぇんだよな?」


「そのはずだが…何が言いたい」


 その答えに、ジグルゼは早く気が付いた。

 ”人間”は魔法を使えない、それは、《ステア》だとしても同じこと、”人間”乗れば、魔法は出力できない、いくら”人間”用であっても、それは変わらぬ事実だった。


 二人をにらみつける《ダウナー》の眼光、無理やり放たれた雷撃は、まちがいなくその機体からだった。


「なぁ、なんで”人間”が乗ってるはずのアレが魔法なんか打ってんだ?」


 それは、ジグルゼの中で確信に変わっていた。

 無理やりな魔力吸収、事実上ステアであろ《ダウナー》一機での推定ステージ3相当の虚獣の討伐、大きな機体への損害、貯め込んだ魔力が内部へと漏出したとしても、納得できる条件である。


 そしてその事実に、監獄から解かれた男も気づく。


「ま…まさか、犯されたというのか、魔力にっ!!」


 その発言が宙を流れるとともに、《ダウナー》のそばで宙を舞っていたもう一機の戦闘機も《ダウナー》に捕まえられる。


「ッたく、最悪な機体だな、アンタらのはッ!! アレは完全に魔人だ!! もう完全に、魔力の虜だ!!」


 それを肯定するように、その機体は眼光を光らせ、あるはずのない大きな口を開いて捕食した、同胞である、いや、同胞であった”人間”ごと、味方のものだった戦闘機を、嚙み潰した。




 


 

 

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