5話 魔力に愛されるということ

 出撃した《ダウナー》に、虚獣からの歓迎の証が送られる。

 放たれるのは魔法にすらなっていない魔力の弾、不安定な形のままに吐き出される数発の弾は、《ダウナー》をめがけて放たれる。


 が、しかし、それはあっけなく捕食される。それはジグルゼの獄炎を飲み込んだ光景と同じだった。

 幻想抽出機構ルナリングシステム、それは魔法と同じく月からもたらされた未曽有の技術である。


 それは、魔力吸収装置として、今もなお魔力に汚染され続ける地球から、絶えず広がる魔力汚染によりその星の外へと漏出した魔力や、魔力を懲り固めた虚獣の魔法より《サテライト》を守るための物である。

 

 が、しかし、それは本来 《サテライト》を守るもの、未だ月の知識人ラプソドス以外その作成方法知らないはずの代物、それが”人間”の手にあることありえないことである。


 またそもそも本来、地球の2分1ほどの大きさの球体である《サテライト》を覆い、《サテライト》の外殻とまで呼ばれる、代物が戦闘機や《ステア》に搭載されることすら異常だった。


 が、しかし、そんなことは過去のことだと言わんばかりに、ティレイとジグルゼの目の前では、食事をするようにあたりまえに行われる魔力の捕食。


 虚獣の放つ疑似魔法のことごとくがあっけなく飲み込まれる。


 もはやピストルの銃口にすら相手をされなくなった二人は、ただその光景を見ることしかできなかった。


 捕食された魔法は、取り込まれた時点で魔力へと分解され、《ダウナー》の背負うタンクのようなものへと溜まっていく。


 そうしている間にも、乱雑い撃たれるミサイルと、《ダウナー》への攻撃を防ぐように空を舞う戦闘機たち、洗浄は完全に”人間”の物だった。


 《ダウナー》はその間に、タンクからむき出しのパイプでつながれたマグナムを手に持ち、鉄ではない”何か”の弾丸が放たれる。

 そしてそれがなんなのかは、人生を魔と共にしてきた二人んは簡単に分かった。


「魔力を…撃ってる…」


「でもあれ…魔法じゃないよな、まるで魔力を懲り固めているような…」


 二人の面入った光景は、魔力を放つ《ダウナー》の姿、がしかし、その異様は弾丸は、魔法と呼ぶにはあまりにも不細工で、まるで魔力を無理やり固めているようだった。


「あぁ、あれはスポンサーからのサプライズ品なんだ、魔力を固めているから”人間”には有害なんだがね、もはやここまで被害が進行すればそんなことも言ってられない。」


 淡々と語られるその言葉に、二人は言葉を失った。なおも続く毒の弾丸、まるでそれは、虚獣ではなく”人間”を殺すように放たれるようにすら二人の目には映る。


「で、どうだね”人間”の力は、見てわかるだろう?もはや我々は、貴様らを必要としていない!!

 星の獣も、貴様ら魔の忌子も、我々からすれば!! もはや取るに足らないものなのだよ」


 その言葉への歓声は、未だ逃げ惑う救われることのない者の悲鳴と、工房を繰り返す虚獣の咆哮、それに重なるミサイルの炸裂と、放たれ続ける毒の弾、まるで地獄のような光景が二人の目には映っていた。


 自らの真上、地球なら空があるはずのそこで見せられる地獄、被害者は人で、悪魔もまた”人間”だった。


「そういう割には、まだ足りてないじゃねぇの?」


 そういいながらジグルゼが指をさした方向では、攻防の影響で今もがれきや爆風に殺される人々の血が空に集まって宙に浮かんでいた。


 それを指さされてなお数秒気が付かなかった男に、二人は絶句した。


「なんで…なんで、人が、お前らの同胞が死んでんのにそんな無関心でいられるんだ」


「ぁぁ、あれのことか、足りない…あぁ、救いか、君たちは私たちに一般人を救ってほしいのか」


 無関心のままだったらまだよかっただろう、がしかし、そのうえ笑い出した男の憎悪に、二人はもはや怒りすら感じられなかった。


「そうだ、そういえば、救うと言ったのだったな。まぁだがそれは準備ができればの話、もともと私たちはそんな準備していないのだよ。

 当たり前だろう?だって君たちがいれば、そもそもあんな怪物がここにいることもない、それが世界の形だ」


 悪魔、いやそれ以上のものに、男の姿は二人の目に映った。

 ピストルも、剣も、盾も、武器と呼ぶものを握っていないはずなのに、その男の姿は、あまりにも異様だった。


「…なんで、助けないんですか?…」


 少しためらいながらティレイが問いかける。


「簡単な話だ、私たちは世界の形を歪めようとしているんだ、君たち《ウィザード》が救えなかったが故の被害の大きさは、大きいほど、終わらせた私たちは英雄的だろう?」


 悪びれもなく語られる、憎悪の凝り固まった英雄論。その論理に、ジグルゼは正気のままに、魔法を構えた。


「悪いティレイ、お前だけでもあいつらを助けてやってくれ。俺はこいつを、ぶっ殺す。」


 そういいながら魔法を構えたジグルゼの手から、ティレイへと魔法が放たれる。

 ティレイの体を優しく包み込んだそれは、限界に近づいていたティレイの体と魔力を癒した。


「わかった。」


 そう一言だけ言い残し、ジグルゼは自らに魔法をかけ、真上の市民区へと飛び立つ。


「君は行かなくていいのかい? 彼一人じゃ助けられるのも数人だろう? そもそも《ウィザード》がの手を取る人間など、何人いると思う?君たちは嫌われ者なんだ、ちょっとは生きていることがおこがましいとぐらい思ったらどうなんだ?」


「お前、さっきからペラペラうるせぇよ。こっちが黙ってたら好きなだけ言いやがって…、今度こそがちだ、ぶっ殺す。」


 正気ゆえの怒り、それは魔法となって現れる。魔法陣を介さず、無詠唱で生まれる魔法。それは先ほどの虚獣ともの同じ、疑似魔法のように、男の目には映った。


「ならば、私も少し遊ぶとしよう。本来は私も前線の人間なのでね、遊び足りないのだよ」


 そういうと男はどこからかピストルを取り出し、ジグルゼに向けて照準を合わせる。


「それだけで”人間”が《ウィザード》に抗う気かよ」


 その言葉が言い終わるまでもなく、弾丸は放たれる。

 容赦のない一撃。が、しかしそれが当てるためのものでないことは、ジグルゼにも理解できた。


 かすりもしないどころか、ジグルゼがよけなくてもあたらない弾丸、それは明らかに罠だった。


「すまないな、私も”人間”なのでね、アドバンテージをいただくとするよ」


 その瞬間、青年の周りの重力が一変する。

 さっきまで地球と変わらなかった重力が、なんの前触れもなくその重さを変える。それに対応できなかったジグルゼは地面に這いつくばることしかできない。


 その隙を逃さなかった男はすぐさま後ろに控えていた戦闘機へと乗り込む。


「これで、フェアというところかな」


「重力魔法 《反重力アンチグラビティ》」


 戦闘機に乗った男を見て同じ空中戦というフィールドに立つため、ジグルゼは自らに魔法をかけ、宙に舞う。


「戦闘機に乗ったところでぇぇ!!」


 戦闘機にのった男の方へと魔法で作った剣を構えとびかかるが、戦闘機と生身の《ウィザード》では、魔力があろうとその機動力の差はぬぐえない。


「やはり《ステア》にさえ乗せなければ空を舞ったところで的だな。」


 そういいながら男は戦闘機のマシンガンを放つ。


 いくらそれを飛べると言えど、《ステア》の生身での戦闘経験の少ないジグルゼは放たれる無数の弾丸を避けることはできず、無理やり作った盾で自分のことを守ることしかできない。


「なめるなよってぇぇ!!

 《雷魔法 轟雷ロア・サンダー》」


 その魔法は盾の中の自分を中心に大きな円を描くように強大な電気が放たれる。


「不細工な魔法だな、それでも魔術師か?」


 慣れた動きでその電磁力空間を離れたあと、盾を割るように数発のミサイルを放つ。


尚も防ぐことしかできないジグルゼは、防ぐことしかできない。


「っチ、こざかしい真似をぉぉぉぉぉ」


その言葉と共に、もう一度雷が放たれる。が、しかしそれは魔法陣を介さない疑似魔法、虚獣と同じその原理では、魔法はことごとく補助される。


「まだ感覚が抜けきってないんじゃないか?」


 やはりというべきか、ジグルゼは防ぐことに手いっぱいの様で、その状態で放つ魔法は魔法陣を介すことができず、すべて捕食されてしまう。


「防戦一方じゃないか、さっきの威勢はどこにいったんだ?」


 煽るよう言葉を放ち、に同じ攻撃を繰り返す戦闘機も、弾が枯渇しているのか少しだけジグルゼの目に焦りが見える。


「そこまでいうならやってやるよ!!」


 それは魔法を介さずに放たれる魔法、炎を形どったそれは、簡単に捕食される代物のはずだった。

 が、しかし、捕食した瞬間、分解された魔力が戦闘機のタンクに流れたそのとき、内部で魔法陣を描く。見えないはずの透明の魔法陣、ジグルゼの狙い通り、タンクの内部が爆発する。


 「《疑似魔法演出 魔法陣構成 偽爆弾フェイクボム


 



 



 






 





 

 


 


 


 


 

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