第17話【親友】

〖まるしぃの過去へと…〗

朝食後、けいぶんがリビングから出て行くのをまるしぃはぼーっと見ていた。急に眠気が襲って来るからまるしぃは少しだけ机にうつ伏せで目を閉じてしまった。

ーーー

ブゥゥゥゥゥゥン!!

ガシャァァァァァァァァァァァンッッ!!!

(私は…何も、意識が…)

あの時、まるしぃは帰り道で事故に遭いそのまま死亡した…はずだった。しかし、意識が遠退いていく中ぼやけて見えたのは人影だった。


 ザァァァァァァァ…

「!!?」

そして、目を覚ましたまるしぃが辺りを見渡すがどうやら都会の建物の路地裏らしく薄暗くて雨が降っている。

「ここは…どこなの。けいぶんに会いたいっ」

知らぬ場所で独りになってしまい悲しさのあまり体育座りで踞って泣いていると、足音と共に雨粒が体に当たらなくなった。ふと、視線を上げると若くて丸い眼鏡を掛けている優しそうな人が傘を差し出してくれていた

「お嬢ちゃん。どうか、泣かないで」

すると若い男性が片手で眼鏡をくいっと上げて困った顔で暖かく喋り掛けてくれた。それにまるしぃは涙を止めて、自分の心を落ち着かせてから口を動かし出した。

「あ、ありがとうございます。でも、私には居場所が無いので…」

そう言うと若い男性は傘を持ちながらまるしぃに手を差しのべた。

「だったら、家(うち)に来るといいよ」

その言葉はとても暖かく優しく包まれるような感じがしてまるしぃは男性と手を繋ぎながら雨の中を歩く。少しすると、一件の喫茶店「陽光」"ようこう"に辿り着いた。そして、扉を開けると小さなベルが音を立て、中に入る。喫茶店の中は広く、おしゃれな家具や電灯、心が落ち着くbgmが流れていた。

「まぁ、何処でもいいから座りな。はい、タオル」

「あ、ありがとうございます」

まるしぃは男性からタオルを受け取り、濡れた部分を拭いてバーの近くに座った。すると、コトッっと小さな音と共に目の前にオムライスが置かれた。それと同時にまるしぃのお腹が鳴る。前を見れば笑顔を向けてくる男性。思い切ってまるしぃはオムライスを頬張る。

もぐっ…

パァァァァァァ!!

そのオムライスはとても美味しくまるしぃの美味しく食べてくれている顔に男性も満足だったようでフフッと笑った。

「美味しいです!これは貴方が?」

「そうだよ。そう言えば名前がまだだったね。私はここ『陽光』の喫茶店マスターだよ。マスターって呼んでくれればいいよ」

「はい!私はまるしぃって言います。宜しくお願いします!」

その後、まるしぃはオムライスを食べ終えるとマスターは奥の部屋に移動して数分すると、まるしぃを奥へと招いた。その声に呼ばれて奥に入るとマスターが色々な服を投げ出していた。

「あの、一体何をしているんですか?」

まるしぃの声に気付いて振り返ったマスターは自分が持っている服を見つめていた。

「あぁ、来てくれたんだね。実は君の服が汚れているからどうにも代わりを選んでいたんだけどどれが似合うかなって思って…君に選んで欲しいんだ」

マスターのお願いに答える為にまるしぃは右側のシンプルなパーカーを選んだ。更に黒がメインの長ズボンも一緒についていたから、まるしぃは別室を借りて着替えた。少ししてまるしぃはその服を着てみてマスターに見せてみた。するとマスターは拍手をしながら喜んでいた。

「うんうん。凄くいいね!!選んでもらって良かったよ!!」

「そ、そんなに似合いますか?」

「うん!勿論だよ!!」

そんな周りが弾むような会話が過ぎていき気付けば外の雨は収まり、夜になっていた。マスターは店を閉め、今度はハンバーグを作ってくれた。

「モグモグ…」

「よく食べるねぇ。そんなに美味しい?」

「美味しいです!!」

「そうかぁ、嬉しいな」

そうして時は過ぎて店の電灯も消して二階へ続く階段を上って扉を開ける。すると1LDKの広さのマンションのような場所となっていて綺麗な家具や装飾品が置かれていた。

「凄く綺麗…」

「そんなにかい?まぁ狭くてごめんよ。体も冷えてるだろうし、先にお風呂入っていいよ」

「えっ?もしかして私の裸姿を見る為に…」

「そんな訳ないだろう」

目から切ない涙が流れるマスターに対し、「冗談w」と言ってマスターをホッとさせた。

 そして風呂を交代してマスターが出した部屋着を着替えてベッドルームに入るとやはりベッドは一つしかなかった。すると、マスターは眠そうに眼鏡を取って目を擦り、まるしぃに伝えた。

「まるしぃさんはここのベッドを使って寝な。私は隣のソファで寝るから、じゃぁおやすみ…」

「待ってよ。流石にそれはマスターが風邪引いちゃうよ!」

その言葉にマスターは微笑んで首を横に振った。

「心配してくれるのは嬉しいけど、君は雨の中に居たから君こそ風邪引いてしまうから、今日はここで寝て欲しいんだ」

「わ、わかりました…」


時刻午前08:00

「う、う~ん?」

まるしぃは窓からの朝日により目を覚ました。部屋を出るとマスターの姿は無く、下が何やら賑わっていた。まるしぃは顔を洗い、髪を整えて着替えると階段を下りて喫茶店に戻るとマスターは忙しそうに料理や飲み物を用意していた。その他に二人の女子高校生が接客をしながら楽しそうに話していた。

「あれ?マスター。もしかしてだが、遂に犯罪に手を染めたかぁ?」

「んな訳ないでしょう。さっさとコーヒー飲まないと冷めますよ?」

バーに腰かけていたサラリーマンがマスターににやにやと喋り掛けていた。呆れた顔でマスターはコーヒーカップをタオルで拭きながらため息をついて返した。

まるしぃは極度の人見知りだった為、おろおろしているとマスターが話し掛けてくれた。

「ごめんなまるしぃさん。うちは朝が早くてね、何もできなくてごめんよ。いきなりで申し訳ないんだけどあの娘達と接客を手伝ってほしいんだ。任せてもいいかい?」

「で、でも…」

もじもじしながらマスターの顔を見上げたが忙しそうに額に汗が浮かびつつも仕事に熱心な姿を見て、まるしぃは女子高校生『JK』に話し掛けに行った。

「あ、あの…私にもお手伝いさせてください!!」

「ありゃま、君がマスターの言ってたまるしぃちゃんだね?可愛い!」

「こら、朝陽(あさひ)!!ちょっかいかけない!困ってるでしょ!」

「しょもん…」

そして、JK二人にまるしぃは仕事内容を優しく教えてもらいながら接客を繰り返していった。その後、お昼休みになり皆は集まってマスターのカレーを食べ始めた。

「はぁ~、やっぱマスターの飯。美味しい~!!学校の給食の100倍くらいだわぁ」

「もう全く、もうちょっとよく噛みなよぉ」

「ハハッ。喉に詰まらせないでね」

マスターが二人を見ながらコーヒーを口に入れた。まるしぃはその空気に少し入り込めず、黙りながらカレーを食べていた。確かにマスターの料理が美味しいがまるしぃの心の中ではもやもやが浮かんでいた。

「…」

「まるしぃちゃん!一緒にしゃぁ~べろ!」

「うわぁ!?」

横から抱きつかれたまるしぃはびっくりして思わず声を上げた。

「もう、驚かせるのは辞めなさい!!」

まるしぃから引き剥がされてたJKは「ぶーぶー」と言いながらぷんぷんしていた。

「ごめんねまるしぃちゃん。私達の名前がまだだったね。私は稲井菜那(いない なな)でこっちは守谷朝陽(もりや あさひ)。宜しくね!」

「私、ななって呼んでぇ~!」

「コイツらはどちらも優しいからきっと、すぐに仲良くなるからな」

マスターは微笑みながらまるしぃに伝えた。そして、午後の仕事が始まって午前の時よりてきぱきと働き、夕方になると朝陽と菜那は更衣室で制服に着替えてはバッグを持って帰って行った。その後ろ姿をまるしぃは見守っているとマスターが肩に手を寄せて話し掛けて来た。

「お疲れ様。私達も夜ご飯にしようか」

「はい!!」

マスターはまるしぃを連れて店に入り、店を閉めて今度はトマトスープを作って貰い、風呂もパジャマにも着替えて深い眠りに堕ちた。

「~~…~…げろ!…」

「「逃げろ!!」」

「ハッァ!!?」

真夜中、まるしぃは暗い闇の中から聞こえた声が一体何なのか、不思議と恐怖で咄嗟に目を覚ました。冷汗をかいてしまっていたからとりあえず落ち着く為に水を飲みに部屋から出た。

「う、う~ん?おや、起きてしまったんかい?」

眠そうにマスターの目は数字の『3』の状態になっていて言葉が少し浮かんでいた。

「ごめんなさいマスター。ちょっと喉が乾いて…」

 結局水を飲んでも寝れず、夜が明けた。昨日の夢に魘されたことを菜那と朝陽に言うと、かなり心配してくれてその日は休んで次の日を迎えた。でもその頃にはもうすっかり元気になり、夢のことは忘れていた。


 あれから、もうどれくらい経っただろうか…まるしぃはもう19になり、マスターや朝陽と菜那はもうすっかり大人になっていた。この喫茶店で働くのにも慣れて今や何でも出来るようになった。

「マスター?そろそろ店閉める?」

朝陽が疲れ果てた顔でマスターに話し掛けた。

「そうだね。じゃあそろそろ皆~準備するよ~」

「ごめんねまるちゃん。少し待ってね」

「えっ!?何々!!」

すると朝陽が急にまるしぃに目隠しを被せた。まるしぃがおろおろする中、聞き取れないけど聞こえるマスターと菜那。少しして目隠しが外れると目の前には喫茶店がパーティー会場のような明るい装飾が広がっていた。

「えぇ~!!?」

「驚いてくれて嬉しい。まるちゃんの為に皆頑張ったんだよ」

「そ、そうなの!?」

まるしぃは菜那の言葉を聞いて朝陽とマスターの顔を見ると照れ草そうなマスターと嬉しそうな朝陽がこっちを見て頷いた。

「それじゃ、まるしぃさん。ここに来て貰ってから皆楽しい日々になったよ。それを祝い…」

「「「「乾杯~~~!!」」」」

カチャァァァァン!!!

それから楽しい時間を過ごして気付けば10時を過ぎていた。

「ありゃま、もうこんな時間!」

「そろそろお開きにしないとね」

「じゃあ、片付けるから朝陽、菜那~手伝って!」

「「は~い!!」」

まるしぃの瞳には朝陽や菜那、マスターが楽しく片付けていた。

(いつまでも、こんな日々が続きますように…)

まるしぃはそう思っていた、瞬間だった…

ガッシャァァァァァァン!!!

突如、カーテンが千切れて窓ガラスが飛び散った。

咄嗟に朝陽はまるしぃを庇う。すると飛び散ったガラスの破片が朝陽の背中に刺さる。

「あ"ぁ"」

「朝陽ちゃん!!」

そして、まるしぃを立たせてマスターに渡した。その後、朝陽と菜那は窓の外を見た。すると、黒い粒子を漂わせていて以下にも人間ではない異形な存在が3体窓から入って来た。

「マスター!!早く、まるちゃんを連れて逃げて!!」

「でも、二人は?」

「いいの!!だから、まるちゃんを早く!!」

「…ごめん、二人共!!」

「駄目!!朝陽ちゃん、菜那ちゃん!!」

マスターに連れて奥に行く時に振り向くと朝陽と菜那は異形に貫かれて殺されていた。それにまるしぃは怒りと悲しみで視線を反らし、マスターに引っ張られて走った。

 泣きながら、悔やみながらマスターと一緒に裏路地から逃げようとしたが、上から奴らは降りて来た。咄嗟にマスターが庇おうとしたが奴らの能力?によってマスターは影に堕ちて逝ってしまった。

「マスターァァァァ!!!」

マスターの手を掴もうとしたが届かずに影の沼は閉じてしまう。そして、徐々に奴らは近付いて来る。恐怖で立てなかったまるしぃは懐から札を取り出したが、札は黒く燃え尽きていた。

「何で…」

だが理由は何となくわかっていた。自分は霊媒師の家庭で生まれたから少しは他人より身分の高い存在だと浮かれていたが決してそんなことはなく、ただただ、自分が『弱かった』。

バゴォォォォォォン!!

絶望してた中、まるしぃは異形に蹴り飛ばされ壁に打ち付けられた。

「ガハァッ…!!」

血を吐き、目眩がする。それでも立ち上がろうと震えた足を動かすが、異形達は自身の体に手を入れると、黒く鋭い剣を取り出した。キラリと光る刀身に身震いしたがそれでも拳を構えてギラつかせた瞳を向けた。

ブンッ…!!

(皆、守れなくて…ごめんなさい!!)

そう思い、目を瞑った瞬間に月に人影が重なり…

ドガァァァァァァァァン!!!

「!!?」

目をそっと開ければ目の前に面影のある人物が立っていた。後ろ姿でもわかる金髪に、横顔。

「もしかして…貴方は…」


 そして、次に目を覚ましたのは狭い部屋の中であり、金髪の男が地面に寝ていた。

(もしかしてだけど…)

その姿とあの時の親友の姿が一致する。もし、本当であるなら気付いてほしいと願ったまるしぃだったのだ。


〖思い続け、受け入れて…〗

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