第15話【友情③】

〖新たな出会いと村の呪い〗

犬鳴村、その村は多々多くのネットの記事に様々に書かれているが実際はどんな所なのかは全くわからなかった…

 トンネルを抜けたけいぶんの目の前の光景はとても自然的で穏やかな村であった。だが、追いかけた若い男は見失ってしまい仕方なく田んぼで働いていた爺さんに話し掛けようと歩み寄った。

「すみません、此処は何処なんですか?」

すると爺さんはゆっくりと振り返って笑顔を向けながら優しく答えた。

「おぉ、お客さんかい?此処はチンケな村だから誰も来ないと思ってたんじゃが、若いのが来てくれて嬉しいぞ」

「…」

その爺さんの笑顔の奥からは少し不気味さが際立っていたがその後、村の人達に色々な場所を紹介されて歩き回っていたら気付けば夕方となっていたから旅館の1部屋を貸してもらった。部屋の中はまぁまぁ広くてテレビや大きな座卓に綺麗に並べられた座布団。そしてベランダのような場所があってそこから夕焼けと湖が見えた。

(俺はこれからどうすればいいのだろうか…)


「まさか、こんな所に子供が来るなんて…きっと、『姦姦蛇螺』"かんかんだら"様もお喜びになるだろう…」

夜の神社で村人達が怪しい顔をして話し合っていた。そして外では満月に重なる人影があった。

「…今宵は月が綺麗だな」


ー次の日ー

チュンチュンチュン…

スズメが空に向けて優しい鳴き声を上げながら羽ばたいて行く。朝日の光が窓から降り注ぎその眩しさにけいぶんは布団から体を起こして目を覚ました。

「もう、朝か…」

下着の上からハンガーにかけてた上着を手にとって羽織っていると襖を叩く音が聞こえた。

コンコン!

「失礼しても宜しいでしょうか、けいぶん様」

「入ってどうぞ」

「では、失礼します」

すると襖を開けて来たのはこの旅館の女将さんであり、丁寧に正座をして頭を下げていた。

「女将さん、頭を上げて。俺を此処に住まわせてくれてるのは女将さんのお陰だよ。だからそんなことしないで」

「いえいえ、貴方は立派なお客様なんですよ。例えまだ、幼い子供でも立場は変わりません」

「そうですか…」

「ところでけいぶん様、昨夜はよく寝れましたか?」

「はい」

そして、下へと降りると朝食が用意されていてそれをけいぶんは味わって食べ、朝食が済み部屋に戻ろうとしたら女将さんに止められ、一階の別室に連れて行かれた。部屋に着くとそこには沢山の綺麗な着物が並んでいた。

「…一体、俺は何でここに?」

けいぶんが少し息詰まってから話し出すと女将さんは笑顔で笑いながら言った。

「貴方の服、もうボロボロで着れたものじゃないでしょ?だから、この中から好きなの持っていっていいよ」

その言葉には驚きが隠せず顔に出てしまったようで周りで働く村人達もくすっと笑い出した。

「じゃあ、これで…」

けいぶんは黒を主体として白い線がある着物を選び早速、女将さんが着替えの手伝いをしてくれた。そして、着物を着終わると女将さんも周りの村人達も拍手をして歓声の声を上げていた。

「ありがとう女将さん。俺に"幸せ"をくれて」

「とんでもないですよ。貴方には綺麗な服がお似合いだと思っただけですよ」

「なんか、親みたいだよね。女将さん、こんなに俺を養ってくれて嬉しいです(泣)」

大切なことを伝えようとしたが泣き出してしまった俺を女将さんは優しく抱き締めてくれて言ってくれた。

「貴方を見捨てません。絶対にお約束します」

そうしてけいぶんと女将さんは指きりを交わし、けいぶんは外へと遊びに出掛けた。しかし、まだ朝方のはずなのになぜか森の方面は暗く、とても淀むような空気を感じた。"行ってはいけない"そう思っていても体が言うことを聞かず森の方へと足を動かしてしまい、少しすればあっという間に森の深くまで来ていた。霧が濃くて先が見えず足元を見るのがやっとだった。

「どうして俺はこんな所に来ちまったんだ…」

ガサッ!

「!!?」

すると茂みが揺れて不吉な予感が体から脳へと伝わった。が、茂みの奥から何か話し声が聞こえて来る。けいぶんは勇気を振り絞って息を殺し、茂みから覗いた。後から気付いたが"それ"の声は人間に近いものだったが姿を見てすぐにわかった。けいぶんの目には湖で釣りをするあの時トンネルで見た若者と目が身体中にある鬼のような姿をした怪異が隣に座り込んでいた。けいぶんは今すぐにでもその場から離れる為に口を塞ぎ一歩後ろへ引き下がった時だった。

パキィ…

(や、やらかした…)

枝を踏んでしまったけいぶんの頬から冷汗が流れ再びあの二人へと視線を移せば沢山の目がこちらを見ていた。

「ひっ!」

走り出そうと足を踏み込んだがそこから足が動かなくなり金縛り状態になってしまった。そしてゆっくりと足を運んで来る音が聞こえてくる。もう終わりだと感じた瞬間だった。

「そう警戒するでない百鬼目"どうめき"。彼はオレサマの友だ。少し緊張してるんだ。だから、金縛りを解いてくれないか?」

「…呉呉」

「うぉっ!?」

すると、動かなかった体が動きだしてほっと息をついた。その後、百目鬼は森の奥へと姿を消していく姿を若者は手を振って見送っていた。そして百目鬼が見えなくなるとこちらへと振り向いて険しく暗い表情でけいぶんに話し掛けてきた。

「なぜ、ここに来た。本来ここは人間が来ていい場所じゃない。さっさと引き返せ」

冷たい言葉を伝えて黒髪で片目が隠れ、淡い赤色の着物を着ていた若者が去ろうとした時にふと何かを失いかけた気がして謎の若者を止めた。

「あ、ちょっと!」

「何だ、オレサマは人間が嫌いなんだ。勿論、お前もだ。じゃあな」

口結んでいたのがほどけて堅い唇を懸命に動かした。これだけは伝えたかったからだ。

「俺も怪異の存在しりたいです」

「…」

「俺もここに来るまである親友と怪異を見て来ました。勿論、視てはいけない存在なのは知ってます。それでも知りたいんです。怪異はもしかしたら人間と共存できるんじゃないかって!!」

「…それはお前の望みか?」

謎の若者の問いにけいぶんは頭に浮かぶ親友が手を振る姿に向き合って、息を吸って優しく答えた。

「親友"ダチ"との約束です」

その言葉に動かされたのか若者の顔は少し変わり、すると唇が緩まった。

「…そうか、ならオレサマの力を貸してやる」

「ッ!」

若者はため息をついて、振り向いて森へと歩き出した時、少し顔を向かせてけいぶんへと伝えた。

「オレサマの名は狂浪"きょうろう"とでも呼んでくれ」

「お、俺はけいぶんだ!」

「そうか、けいぶん。お前に一つ伝えておく。お前の命に危機を感じるぞ…忘れるなお前は"人間"だからな」

そう言い残して狂浪は森へと去っていった。"命の危機"その言葉に疑問と不安を抱いたが、霧が晴れてきたからけいぶんは旅館がうっすらと見える方向へ走って行ったのだった。


ーーーーーー

「フフッ、あの若造は美味しそうだな。愚民共、見張りを忘れるなよ」

「わかりました。姦姦蛇螺様」


〖異変は更に複雑になる〗

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