第14話【友情②】

〖ここから始まる親友ストーリー〗

卒業式まで残り…3日。

 あの日から親友となったけいぶんとまるしぃはそれから毎日登校と下校を共にし、気付けばけいぶんの周りにはまるしぃだけではなくクラスメイト達がよく話しかけてくれるようになった。ある日の体育の授業の時、けいぶん達は準備運動をしていた。

「じゃあ今日は100m走を測るぞ」

「マジか…」

準備運動が終わり、先生の言葉を聞いたまるしぃが顔をしかめた。なぜならまるしぃは圧倒的に持久力が低いからだ。ふと隣のけいぶんを見ると余裕そうな顔で腕を組んでいた。過去の話ではけいぶんは運動も勉強も出来ない奴だと言われていたのだが昨日の出来事をまるしぃは思い出した。

(そう言えば異形から逃げる時、コイツの脚力人間じゃなかったなぁ。やっぱり凄いのかなけいぶんって…)

(何かめっちゃ見られてる…)

ジィーっとまるしぃは目を凝らしてけいぶんを見るがけいぶん的には何をやってるんだ?くらいにしか感じなかった。

 そしていざ走る順番が決まりスタートラインに4人組がつく。最初の走るメンバーにはまるしぃが入っており走り出すと段々と皆に抜かされていき最終的にタイムはなんと20.1秒だった。

(アイツクソ遅すぎだろ!!?)

「ハァハァ、ハァ…もう、無理ぃ」

向こうのゴールでへなへなになって死にかけていたまるしぃを見ているとこっちも疲れる程だった。そして2チーム目、3チーム目と走っていき遂にけいぶんが走る番になった。麦茶を口に含めながらけいぶんを見届けるまるしぃはどんな走りをするか期待大であった。

(アイツ、本当だったらどれくらい速いんだろぅ)

トーントーントーン…

するとけいぶんはその場でジャンプを始めた。その行動には「?」のつくような表情だったが位置へとついた瞬間に感じた。

クグッ…

(!!!)

「よぉ~~い…」

「ドンッ!!」

先生が笛で合図をした一瞬でけいぶんは誰よりも速く走ってあっという間に100m走のゴールに辿り着くと足を踏ん張った瞬間には土が抉れていた。

「えっ~と、けいぶんのタイムは…2.9秒!!」

「「「「「えェェェェッ!!!」」」」」

クラス全員が驚きを隠せずに口に出すとけいぶんは頭を掻きながら小さな笑みを浮かべた。

(やっぱりけいぶん、凄いじゃん!流石私の親友!!)

クラスの皆からちやほやされているけいぶんの姿を見て嬉しい気持ちになったまるしぃであった。

 その日の授業が終わって下校中のことだった。如何にも廃墟と化したアパートの横通りかかった瞬間に寒気と前とは比べ物にならないくらいの殺気を感じた。

オオォォォォォォォォー…

自然とアパートの目の前で足が止まってしまいそこから一歩が踏み出せなかった。

「…ヤバい。足が…動かない…」

「生憎だが俺もだ」

まるで招待をされてるかのような雰囲気であり、更には周りの道から濃い霧が迫って来ていた。道はアパートへ逃げるしか選択肢がなく手段を選べなかったまるしぃはけいぶんの手を引き一番近い部屋へと駆け込んで鍵を閉めた。

「はぁ、もう何でこんなことに…」

「…」

「ねぇなんか喋って…よ?」

後ろを振り向けばけいぶんは気を失って玄関に倒れていた。その先の扉に異様な形をした影が複数うねうねと動いているのが見えた。

(逃げないと、流石に私の札でも無理…)

ガチャ、ガチガチッ!!

(あっ、これ…開かないパターンだ!?)

ガチャガチャ!!

必死にまるしぃは玄関のドアノブを捻ってはタックルするがビクともせず動かなかった。すると…

ギィィィィ…

(…)

後ろから扉の開く音に冷汗が止まらなくなり更に下を見れば盛り塩が二ヵ所に置いてあったがその塩は黒く焦げていた。そして鼓動が速くなっていく心臓、頭はいつもより痛くて後ろを振り向く勇気すらなかった。だがふとけいぶんの笑顔を思い出すとまるしぃは勇気を振り絞って振り向くと驚きの光景があった。そこには誰も居なく、けいぶんの姿も無かったが奥の部屋から買い忘れをする声が聞こえて来た。まるしぃは恐怖に染まった心を落ち着かせながら少しだけ開いている扉をゆっくりと開けるとそこにはお爺さんの霊とけいぶんが座卓を挟んで会話をしていた。

「お、まるしぃ気付いたか」

「何で貴方普通に起きてんのよ!!」

「ふぉっふぉっふぉ、若いのはええのぉ」

お爺さんの霊が満面の笑みでこちらを見てくれた。その後、お茶を貰ってけいぶんとまるしぃはありがたく頂いた。するとお爺さんは座卓に何かを置くとそれを差し出してきた。

「これは?」

けいぶんの質問に少し寂しい顔をしながらお爺さんは答えた。

「儂(わし)と隣に写っておるのは妻なんじゃが…」

お爺さんは一回行き詰まってから表情を穏やかに戻して話を続けた。

「儂の妻、文子(ふみこ)が突然居なくにってしもうて、もしかしたら此処にまた帰って来てくれると信じてたんじゃが、もう儂は朽ち果ててもうたんじゃ。すまない、文子。お前を一人ぼっちにさせてもうた…」

顔を隠して泣いてしまったお爺さんにけいぶんは隣に座ってお爺さんの肩に寄り添った。

「爺ちゃん、もしかしたらだけど一人ぼっちになってるのは文子さんなんじゃない?」

「え?」

「どういうことじゃ?」

お爺さんは涙を拭ってけいぶんの顔を見た。けいぶんはお爺さんを宥めるように肩を優しく叩いて告げた。

「もう文子さんは天国で待ってるのに爺ちゃんが待たせてしまってんじゃねぇかって思ったんだ」

「…」

(けいぶんこう見えて人や霊の気持ちが尊重できる奴なんだね)

まるしぃは心にそう言ってけいぶんの方を見つめた。すると、お爺さんは手に持っていた写真に涙を溢した。

「そうか…そうか、儂が待たせてしまってたのか…

すまなかった。今、そっちに逝こうじゃないか」

「「!?」」

そして徐々にお爺さんの姿は透けていった。最後にお爺さんはけいぶんとまるしぃの方に振り返って優しく声を掛けた。

「ありがとなぁ」

完全に消えてしまったお爺さんの所には写真が落ちており、二人共笑顔で写っていた。けいぶんはそれを拾い上げて座卓の上にそっと置いた。気付けば玄関のドアは開いており、外に出ると夕暮れだった。

「ヤバッ!急いで帰んないと!?」

「だなぁ~」

 その後はまるしぃと解散して一夜を普通に過ごし次の日の朝を迎えて支度をし、相変わらず誰も見送ってくれない玄関を飛び出してまるしぃの家まで走って行くと何やら沢山の人が集まっていた。

「どうしたんですか?」

近くにいたお婆さんに尋ねると、お婆さんは固い唇を噛み締めて言った。

「ここのねまるしぃちゃん。事故で亡くなってしまったのよ…」

「…ッ!」


卒業式まで後…2日。

 学校に着けば担任はまるしぃのことは休みだと言って普通に授業が流れた。それでもけいぶんの頭の中で何度も何度も駆け巡って来る楽しい日々。そして、学校が終わりまるしぃの家を見に行けば誰も居なく不在であった。道端に落ちていた石を無意識に蹴って家に帰って来れば親達はいきなり物を投げてきた。

「いつまで帰って来るんだよ!もうお前なんて要らねぇんだよ!!」

「そうよ。いい加減に出て行きなさい!!」

父と母が冷たい目で吐き捨てながら物を投げてはけいぶんに当たる。すると、部屋から弟のフィートが出て来るとけいぶんに指を指して外道を見るような目で言った。

「早く出ていって。このくそヤロウ」

「もうそんなに言葉覚えたの!偉いねぇ」

「やっぱフィートは天才だな!」

父母はフィートを撫でて喜んでいた。けいぶんはそんなことは日常だったが気にしなかったかのにある一言でけいぶんは一気に頭に血が登った。

「そう言えば近くに住んでたまるしぃって子。車に轢かれて死んじゃったんだって」

「あ、それ俺達やん~」

「あ、そうでした。私としたことが、うっかり飛び出して来るから轢いちゃってそのまま逃げたんだった」

「あ"?」

ビキビキ…!!

けいぶんの口から今までにない憎悪と怒りの混ざった声が溢れた。その声にビビりもせず逆に嘲笑う父母達。

「アッハッハッハッ!何その声チョー受ける(笑)」

「どうしたどうした??もしかして友達だったのか?だったら俺達が殺ったこと内緒にしてくれよな?」

「ナイショ~」

三人の笑い声を聞いていると何処かでまるしぃが泣いている気がしてきてけいぶんは自分の髪を握り、唇を血が出るほどに噛み締めて言った。

「テメェらはクソの塊だ。ゴミよりも存在のない無価値な存在だなぁ」

「何だと?」

「コイツも殺っちゃう?どうせ燃えるゴミの日に出せばいいし」

「そうだな」

すると父母がカッターをポケットから取り出して向かって来るがけいぶんが裏で死ぬ程の鍛練を続けていたことを知らなかった為、けいぶんは素早く動いてカッターを交わしては刃を折って最初に父の顔面を掴みそのまま壁に勢いよく叩きつければ壁は壊れて父の顔は血だらけで動かなくなった。

「えっ…は?」

戸惑う母に向かって今度はけいぶんが歩き始めた。母は弟に包丁を持って来るように頼んで部屋のドアを閉めて襲い掛かって来た。

「アンタなんかさっさと死ねば良かったんだァァァァァ!!!」

「死ぬのはお前だ」

シュッ!スッ…

バキィ!!!

カッターを顔面目掛けて突いてきたのをけいぶんは容易く避けてその片腕を有り得ない角度に曲げて折った。

「嫌ァァァァァ!!痛い痛い痛い痛い!!!アンタ何すんのよ!!実の父親と母親にそんなことするのか!!?」

「"本物"の家族ならそんな軽く命を見たりしねぇ」

「…ッ!…クスッ。今よ!!殺りなさい!!!」

後ろから弟が包丁を握って振りかざして来たが元々感じていた殺気で軽々と避けて弟の首を180°回転させて殺した。その後に包丁を奪いけいぶんはわざと足音を立てながら腰が抜けて立てなくなって後ろに下がる母をゆっくりと追い詰めていた。

「や、止めなさい!!貴方だって本当の親を殺したくないでしょ!!?」

「は?知らねぇよ。産まれて嬉しいなんて一度も思ったことねぇし」

「わかった!!謝る、謝るから許して!!!」

「いいか、俺の"親友"がどれだけ楽しい人生を俺に捧げてくれたか、どれだけの思い出を作ってくれたかお前にわかんのかよ…」

「ヒィ!ごめんなさい!!!ごめッ…」

ジャキィン!!ゴトッ…

「もういいよ。時間が勿体ない」

けいぶんは無の表情で母の首を包丁で切り落とし、包丁を投げ捨てて家を出て行った。

 時は過ぎて…

「宅配でーす!あれ、居ないのかな?でも扉が少しだけ…うわぁぁぁ!!ハァハァハァ、警察警察!!」

宅急便の人が家の中を見れば父は壁に叩きつけられていて、まだ幼い子供の首は折れ曲がっていて、母は廊下で首を落とされていた。

その後、たちまちニュースとなり犯人探しの為に警察が動き出していたがその頃けいぶんは遠い山の深い森の中で石に座って写真を眺めていた。

「卒業おめでとうまるしぃ。今日はお前が式にいけねぇから俺が代わりに祝ってやるよ、、、クソッタレが!!どうしてアイツだけ…(泣)」

ザッ…

「!!」

「誰だ!!?」

目の前の茂みが微かに揺れたような気がしてけいぶんは写真をしまい、戦闘体勢に入った。すると、出てきたのはただの兎だった。

「何だよ驚かせやがって…」

一息ついた瞬間だった。少し先にトンネルが見えて、若い男が赤い瞳を光らせてこちらを見ていた。

「ッ…!」

"此処へ来い、ニンゲン。貴様には此処は危ないし後ろには、大勢憑いている。死にたくないならついて来い…"

(何だ…頭の中で声が聞こえた…)

すると、若い男はトンネルの中に入って行ってしまった。それを追いかけようとしたが足が動かず、足元を見れば大量の人の手が纏わりついていた。それに恐怖で満ちたけいぶんは、足をバタつかせ手が離れた瞬間に走ってトンネルまで向かいそのまま振り返らずに走って行ったのだった…

 苔むした看板には『犬鳴村』と書いてあった。


〖過去は恐ろしく進んで逝く〗

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