雷妄滅煉編

第13話【友情①】

ここから全ては始まった…神の器として、人としてその思いは固く結ばれるのだった。

【雷妄滅煉編】

〖幼きけいぶんの過去〗

あのscpが東京を襲った日から3日が過ぎた。無事だった他の自衛隊や警察は壊れたビルなどの復興を手伝っていてまだ完全ではないが、東京は前の美しい風景を取り戻そうとしていた。良き朝を迎えたけいぶんは目を擦り、だほだほなシャツの裾をズボンに入れながら階段を降りてリビングへと足を運ぶ。そしてリビングに入ればいつもの穏やかで安心できる空間となっていた。

「そこは強攻!責める!!」

「空上、空前、空下!ドーン!!」

「そのコンボはダル過ぎぃ!!」

リビングのテレビとソファを使ってやるっきーとさかなは対戦ゲームをしていた。キッチンでは、はむとるる、そしてまるしぃが料理を分担して行っていた。部屋の隅では特攻隊全員とアミ達がトランプをして楽しんでいる。けいぶんは寝起きなのであまり皆と遊ぶ気分ではなかったのでキッチンの近くにあるテーブルへ向かってそこにはたくとが居たからその隣に座った。

「ん、起きたんだな」

「まぁな。まだ眠いけど、もうそろそろ起きないとって思って」

「目覚めの一杯、お前もいるか?」

「欲しいな」

すると、たくとはカップを手に取り、カフェオレを入れに行ってくれた。それをけいぶんはいつもよりゆっくりと飲み始めた。その隣にたくとが戻って来て如何にもブラックのコーヒーを飲みながらスマホをいじり始めた。その後、朝食が出来たから皆で頂き楽しい会話が飛び交いながら時間が流れて再び皆は、好きなことを始めた。けいぶんは自分の部屋へと戻り、ベッドに腰を下ろした。そして、ゆっくりと目を閉じて心境へと入っていった。

 心境では最近名前を知った朱雀に玄武、青龍や白虎が話し合っていてその近くに創造主の「ネオン」に戦国時代に死んでいった武士達が使っていた刀の付喪神「刻生」(ときせい)が共に地面に寝っ転がっていた。

「おぅ主(ぬし)。どうしたんだ?」

創造主が一番早くけいぶんの存在に気付くと手を振ってくれた。その声に朱雀達は目を輝かせて飛び付いて来た。

「久しぶりじゃないか主(あるじ)ぃ~」

「私達、寂しかったんですよ。わかってます?」

「全くだよ、もう」

「わっちは全然だけどねぇ」

「ごめんて。く、苦しいからそろそろ離れてほしいな…」

「あ、ごめん」

朱雀達はけいぶんから離れて久しぶりに会えたのが嬉しかったのか離れてからも笑顔でいっぱいだった。そして、創造主の隣に座り込めば自分の手にふと視線を移す。

「…」

「どうしたんだよ。主らしくないぞ!何かあったなら話すと良い。スッキリするぞ」

「ネオンの言うトオリ、話した方がイイ」

「やっぱりお前らにはわかるんだな」

けいぶんは暗い顔をしながら皆を集めて自分の過去を話そうとした。

「主の過去か…何があったか気になるねぇ」

「もし主(あるじ)に辛いコト、あるなら集中してキク」

「私達もだよ~♪」

「ありがとな…あれは丁度今日みたいな何気ない日々から始まったんだよな…」

ーーーーー

 ワイワイと小学校では子供達が校庭で楽しく遊んでいた。一方教室では女子や男子が集まって一人の女子を囲んで弾んだ会話が流れていた。その教室の隅で外をただボーッと見る金髪の少年がいた。その少年こそが小学時代のけいぶんだ。

 けいぶんは産まれた時から両親は黒髪なのに金髪で小学生に上がってからは「金髪野郎」とか「キモい」や「調子乗んな」など罵声をクラスの皆から言われていて最近では弟の「フィート」が産まれてからは俺への愛が雑になっていきどんなに頑張っても適当な返事しか返って来なかったし、弟に全てを奪われた気がした。それが三年間続いて六年生となった今では家族のことなんてどうでも良くなっており現在のような学校生活を送っていた。そんな時、彼女は俺に手を差し伸ばしてくれた。

「おい、何やってんだぁクソヤロウ~」

「金髪だからってモテると思ってるんだよコイツわw」

いつものけいぶんを虐める二人組が囲んで拳の骨をボキボキと鳴らしながら言った。

「ヤバいよ。俺達も巻き込まれないようにあっち行こうぜ」

「そうだね…」

ガタッ!

「ちょっとアンタ達!!」

「あ?」

男子や女子に囲まれていた人気の女子が椅子から立ち上がりいじめっ子に近付く。そして、

「虐めるのを止めなさい!嫌がってるでしょ!!」

「チッ!」

「もう行こうぜ」

いじめっ子が教室から去って行くのを確認して、ため息をしつつも再びけいぶんに視線を移して手を差し伸べた。

「私まるしぃって言うの?君は確かけいぶん君だっけ?」

「だから何だよ…」

窓の外から視線を変えず、冷たい表情でまるしぃに答える。そこでもう呆れてくれるとけいぶんは思っていたが他の奴とは全く違い、頬を膨らませてけいぶんの頬をつねって無理矢理振り向かせた。

「いててててて!?」

「あのねぇ、ほっとけないの!私は、貴方みたいな人も見捨てたくないの!!」

「見捨てるとか知らねぇよ。関わってくんな…」

ムッ!

ギリュィィィ!

「いい加減、離せよ!」

「やだ!私に振り向いてくれるまで辞めないよ~だ」

(コイツ…)

教室にいた皆はコソコソと何か話し始めていたがそんなことも気にせず、まるしぃとけいぶんの喧嘩話が続いて結局の所、昼休みが終わってその後の授業も終わりいざ帰ろうと黒くて傷だらけのランドセルを背負って教室を出ようとしたら後ろから誰かに押されて振り返ればにっこりと笑うまるしぃがいた。

「一緒に帰ろ~♪」

「誰がてめーとなんて…」

「そんなこと言って、本当は嬉しい癖に~」

「嬉しくない(怒)」

ランドセルをバシバシ叩かれて笑われながらも少しだけけいぶんには小さな感情が生まれていた。『幸せ』と言うのだろうか正直わからなかったがついて来るまるしぃに背を向けながら帰っていると丁度人気のない十字路まで来ると急な寒気と辺りが暗くなる。それと同時にまるしぃにランドセルを掴まれては転ばされる。

「痛ってぇな!何だ…」

「静かに!」

「?」

まるしぃの表情は少し青ざめていてとてもふざけているようには見えなかった。何かに怯えるようにその手で口を塞いで目からは涙が出ていた。その時だった。

ズゥゥゥゥゥゥゥン!!

「!!?」

「愚嚨嚨嚨嚨嚨嚨嚨嚨嚨嚨嚨!!」

その目には信じられない光景が映った。六本足?いや違う。六本の手で歩いて背中から二本の脚が魚の背鰭のように並んでいて肌は青く、不気味な黒い目玉をギョロギョロと動かしている化物が十字路の角から現れたのだ。恐怖という感情より不思議な感情が勝っていた。昔お婆ちゃんに怪異という異形で普通は見えない生命体が見えたのだから思わず近付こうと足を立たせようとしたら後ろからまるしぃに掴まれた。

「(何考えてんの!?)」

「(俺、アイツに触れたい!!)」

「(バカ!ちょっと待ちなさい!!)」

まるしぃの言うことを聞かずにけいぶんは飛び出して異形へと手を振った。すると、黒い目玉がこちらを向くと口がないはずだったのにメキメキッと肉が千切れて鋭い歯と目玉が付いている舌が見え口らしきものが現れた瞬間に喰われそうになったが後ろから札が飛んで来て異形に触れると爆発した。

「ビビったァ!!」

「早く逃げるよ!!」

「応!」

そして二人は駆け出して元来た道を引き返していたが後ろを見れば異形が物凄いスピードで走って来ていた。

「愚盧亞亞亞亞亞亞亞亞!!!」

(このままだと追い付かれちゃう!!)

ババッ!

「お前!?」

まるしぃは立ち止まってポケットから札を取り出し異形に立ち向かおうとしていた。だが、足を見れば膝が大きく震えていて額には汗が流れていた。

「いいから、早く行って!!」

(…)

ふとけいぶんの頭の中でお婆ちゃんが亡くなる前に言っていた一言を思い出した。

"おばあちゃん!僕を一人にしないでッ!!"

"何言ってるのよ。私が居なくたってきっとけいちゃんを大切に守ってくれる友達が出来るわ。だから…"

「"友達が困ってるのなら助けなさい"」

「!!?」

その瞬間に体が自然に動いてはまるしぃをおんぶした。

「ちょっと!?下ろして!!」

「惡惡惡惡惡惡惡惡!!!」

(ヤバい!このままじゃ私達!?)

「頭守って!」

ビキッ!バキッ…

「へ?」

その時、けいぶんは屈むと同時に地面に罅が入ると勢いよく地面を蹴り上げ、住宅地の屋根に飛び乗った。

「惡惡惡!!?」

(凄い…ひと一人抱えて屋根まで飛んだ!!いや、どんな脚力してんのよ!!?)

「まだ、逃げたほうが良さそうだね…」

ガシィ…

今度は、異形が家の壁を登り始めた。けいぶんは空かさず走り出して家々の屋根を飛び越えた。

「ねぇちょっと!?貴方何者なの!?」

必死にしがみつくまるしぃがけいぶんへと質問した。けいぶんは俯いた状態で答えた。

「俺は…恵まれない人間だ」

スッ!ザザッ…

気づけば奴の姿はなく、日が暮れた公園に着地した。烏(からす)の声が聞こえ、それ以外無音な公園の地面へとまるしぃを下ろすとふらふらしていた。

「大丈夫?」

「全然平気…だと思う…」

ふらふら歩きながら公園のブランコに座り込みまるしぃは額の汗を手で拭いながらまだまだ元気そうなけいぶんに尋ねた。

「恵まれないってどういうこと?」

「そのまんまの意味だよ」

キィィィ…

けいぶんも隣のブランコに乗っては漕ぎ始めてたけど顔は暗いままだった。

「俺は家族からも学校のみんなからも…誰からも必要とされてないんだよ。小さい頃からばあちゃんに色々教わってたけど今はもう、ばあちゃんすら居ない…俺はまた、一人ぼっちになっちまった…」

「そう?」

まるしぃは惚けた顔をしながらけいぶんを見た。けいぶんはブランコを止める。

「あ?」

「だ•か•ら!この超人気で美少女の私がいるじゃん?」

「勝手に友達扱いすんな」

「あ?今何て言ったぁ!!」

まるしぃはブランコを降りてけいぶんの頬を再びつねり出す。でもけいぶんは少し笑顔でまるしぃはその手を退けた。

「…ちゃんと笑えるじゃん」

「…ふざけてんのに、面白くて…」

笑顔から涙がポツリと一滴地面に落ちてけいぶんは顔を両手で隠した。

「あ、もしかして泣いてる~w?」

「うるせぇ!こっち見んな!!」

「フフフッ。君と居ると何だか不思議な気持ちになるよ」

「そうだな…」

「ねぇねぇ、これからもう卒業式まで後わずかだけど良かったら"親友"になってよ!」

まるしぃは手を差し出して笑顔を向けた。それは今光っている夕日よりもずっと眩しかった。けいぶんは涙を急いで拭い、笑顔でハイタッチを交わした。

「あぁ、いいぜ。なってやるよ!親友!!」


〖たった一つの出会いから…〗

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