第9話【自身を壊して…】

〖その意思を前へ〗

現在、それぞれの場所で戦闘が起こっている。scpが溢れ、誰もが正義を振るっていた。

ー渋谷スクランブル交差点ー

冷たい風が吹き荒れる中、斿貴はその場で慣らし運動をしていた。するとガラッ…と瓦礫を退けてまるしぃの姉が出てくる。姉は口に付いた血を舐めて、大剣を再び構える。斿貴はまるしぃを手で庇う。

「少女よ。彼女はどうすれば良い?」

「…」

正直に言えばまるしぃからして姉は自分の目標でもあったが、嫌いだった。忙しそうで全く構ってくれなかったし、口が悪かった。それでも…それでも姉は今でも目標に変わりはない。まるしぃは勇気を出して、「助けて」と斿貴の背中に強く言った。その言葉に強く応えるように姉に歩みながら背中を指差す。

「あぁ、任せとけ!」

「邪魔…」

大剣を振るい上げ、斿貴へ斬撃を当てる。だがしかし、斿貴の顔を見ればふざけていた顔は一変し、真剣な顔で、姉に立ち向かう。そして姉の懐に潜り込むが、姉は素早く気付いた上で斿貴の腹を大剣で貫く。

「遅い…」

「ッ…!?」

確かに大剣で貫いたはずの斿貴は消え、姉の後ろで佇んでいた。姉は大剣を再び振るが、「その刃はもう届かない」と斿貴は言い、指を鳴らすと大剣に罅が入り、首元にも届かずに大剣は砕けた。そして遂に姉は膝が崩れ落ち、その場に倒れた。その後、斿貴はまるしぃに近付き、傷付いた体を白い光と共に癒し、治した。まるしぃは斿貴の顔を覗くと目で訴え掛けるように視線を姉にずらす。瞬時に理解してはすぐにまるしぃは足を立たせて姉に向かい隣に座る。暗い表情のまま姉はまるしぃにゆっくりと喋り掛けた。

「…私が間違っていたわ。ごめんねまるしぃ…」

そんな姉をまるしぃは優しく抱き締めて涙を流しながら呟いた。

「お姉ちゃんの努力はずっと影で見てたよ。ずっと私の目標だったの…私こそごめん」

そんな仲直りを出来た姿を見て、斿貴は気付かれないように去っていった。

しばらくして、斿貴が消えていることに気付き探したがどこにも彼の姿はなかった。お礼くらいは言いたかったがまた会えると信じてまるしぃは皆と合流しようとスマートウォッチを見た時だった。

ドゴォォォォォォンン!!!

凄まじい音が響き渡り、振動が来る。何が起こったのかわからない二人の前に再び問題が発生する。目の前には『scp-682 不死身のドラゴン』ことクソトカゲが現れた。その気迫は凄まじく、手足は感電したかのように動けず、呼吸も荒い。それでもまるしぃを抱えて逃げようとした姉だがクソトカゲは激怒し、姉の背に前足の鉤爪で傷を与える。姉はその場で転び倒れ、まるしぃは助ける思いで、姉を寝かせ、様々な札で攻撃をした。たが、不死身なだけあって傷一つ付かない。クソトカゲは口を開けて、まるしぃに噛み付く時、夜空に二人の影が映る。そして、一人は手で印を素早く結んだ。

「『漆黒の影よ 天を裂け!』」

『黒命斬!!』"こくめいざん"

するとあらゆる影から黒い斬撃が飛び出てクソトカゲに多段ヒットする。

「もしかして…」

その姿には見覚えある男二人の後ろ姿。

「重い一撃頼んだ!」

「重いって…『大地よ荒れろ』」

「『震電』!!」"しんでん"

その攻撃はクソトカゲの真下の地が割れて、灰色の稲妻がクソトカゲを貫通して天高く昇った。その二人の攻撃を受けてクソトカゲは怯む。そして二人は振り向く。その顔を見て、まるしぃの予想は的中する。ブラパとベッドロックだった。ブラパは姉の傷付いた姿を見てまるしぃに問いかけた。

「なぁまるしぃ。傷付いたこの人は俺が住民避難場所に連れてくよ」

「いいの。私の姉だから、私が連れて行く」

「…わかった」

まるしぃの意見を尊重したブラパはすぐにクソトカゲに視線を移す。その間に姉を連れて、まるしぃは避難場所へと走って行った。

「グルルルル…」

相当怒ってるのかクソトカゲが完全治癒すれば、ブラパとベッドロックに威嚇の牙を見せる。だがもうコイツを倒すことは出来ないことは充分わかっている。ふとボルトが言っていたことをブラパは思い出した。

"ブラパはさぁ、まだ制限解除してないよね。もしそれが使えるなら、きっと『不可能』を無理矢理に『可能』へと変えられるよ"

「…思い出したよボルト。俺も出来るかはわかんねぇけどな!!ベッドロック、下がってほしい」

「いいけど、大丈夫か。相手は不死身だぞ?」

その質問にブラパはキメ顔で返して、印の結び方は更に複雑になる。そして黒い光に朱色の煙を漂わせた鬼の仮面が出現する。それを被ると地面が影の沼となり、そこから鎖がブラパを縛る。それと同時に肋骨のような部位がブラパの背中から生えて、心臓を包み込むように肋骨はブラパの胸部に食い込む。それはとても苦しく支えきれないような黒い力を感じる。そして影沼は完全にブラパに覆い被さると、沼の影は飛び散り、鎖を引き千切る。ベッドロックから見て今のブラパの姿は正に『束縛から解放された鬼』だった。

ブラパはクソトカゲに指を指して強変した威圧ある声で言った。

「『鬼神武核 残穢の鬼面』」

"きじんぶっかく ざんえのきめん"

「さぁ明けぬ夜の始まりさ」


〖変貌を遂げて暗い夜にその眼は怪しく光る〗

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