第16話 精霊力測定
今世初めての野外のレクリエーションを楽しんだ夜は、心地よい疲れに身を任せてよく眠れた。
皆なんだかんだお上品で行儀がよく、この歳で夜更かしをしたり羽目を外して遊んだりなどはしないらしい。まあこの世界は娯楽が少ないという理由もあるのかもしれないけれど。
翌日は離宮の大庭園で乗馬体験をしたり、サロンでカードゲームやチェスなどを楽しんだ。
今のところゲームの内容とほぼ同じだ。離宮イベントでは全体マップが現れ、それぞれの場所に釣り・カードゲーム・チェスのアイコンが出てミニゲームが遊べるようになっていた。
そしてそのミニゲームに含まれていない乗馬体験こそが、この離宮イベントの目玉であり好感度上昇を狙うポイントだった。
乙女の夢を体現したような男女ペアの乗馬二人乗り。
現段階で好感度が一番高いキャラの後ろに乗ることになるのだけれど、任意で選べないのが残念なところではあった。
でも同乗した相手の好感度ボーナスが入ることと、確定でスチルが得られることで人気イベントの一つだった。
ピクニックの翌日、その乗馬をしようということになった。その組み合わせはというと、私はディノと、マリーはエイデンとペアになり、ルーク様はお一人で乗られて皆を案内するということになった。
うん、別に嬉しくないわけじゃない。ディノの乗馬は安定していて安心感があったし、友人だからこそ気兼ねなくはしゃげて楽しめた。
でもルーク様と乗れなかったことはちょっぴり……少しだけ残念に思ってしまったことは許してほしい。
そして滞在最終日である四日目は、離宮のサロンで皆とゆったりおしゃべりをしながら時を過ごした。そして最後に再び王妃のもとを訪れ、感謝とお別れの挨拶に伺う。
楽しかった日々は、こうして終わりの日を迎えた。
「じゃあ、二人とも気を付けて」
「また学園でな」
翌日エイデンとディノに見送られ、私とマリーは自分の家の馬車に乗車した。見送る側の二人はまだしばらく滞在して、今度はロイ様のお相手をするらしい。
二つの馬車がゆっくりと動き出し、夏の思い出の余韻を残して帰路についた。
それからの夏休み期間はあっという間に過ぎて行った。
ほとんどは勉強とレッスンに明け暮れていたけれど、一度クラスメイトの女の子を呼んでお茶会を開いたりとリフレッシュもして、なかなか充実した夏休みを過ごしたのではないかと思う。
そして長い休みが終わり、二学期が始まった。
久しぶりに訪れた教室では、しばらく会わなかったクラスメイトたちと挨拶を交わし合う。ひさしぶりに会った男子の面々は日焼けをした人も多く、夏を満喫していたようだ。
「はい、皆さんお久しぶりです。良い夏休みを過ごしていましたか?」
教壇に立ったマルクス先生が挨拶をする。始めにちょっとした雑談を入れた後、二学期の学習予定、それから学園の行事の説明に入った。
今学期には学園二大イベントの一つである舞踏会が学期末に開かれる。
終業式&忘年会的な意味合いの学校行事で、当然ゲームにも登場する大事なイベントでもある。
私はおおよその雰囲気をムービーやスチルを見て知っているけれど、先生の話はしっかりと聞いておきたい。
「……では話はここまでにして、この後の時間は君たちの精霊力の測定をしていきます。自分の力の傾向がわかるので参考にしてください」
これは九月と三月に行われる精霊力測定だ。これもゲームで同じベントがあり、『エレメント値』なるパラメータがその時だけ表示される。しかしそれは攻略キャラの好感度の確認のようなものなので、さほど重要ではない。
でも今はゲームではなく現実で、純粋に自分の能力を測ることになるのだから緊張する。聖女になるにはそれなりに高い精霊力は必要で、自分の中に眠る力を試されるのだ。
果たして結果はどうなるか。
教壇の上には黒光りした丸い晶石が四つ置かれている。霊石だと先生は言うが、私の知っている一般的な霊石はそこに封印された精霊の属性色に光り輝いているはずだった。しかしこれはただの黒い鉱石にしか見えない。
「今は霊石に封じた力が眠っている状態です。一つずつ手をかざし霊石を共鳴させて目覚めさせてください。ではエイデン君からどうぞ」
最前列の窓側に座るエイデンが指名された。特に緊張もない様子で教壇の前に立つと、向かって一番左の霊石に手をかざした。
真っ黒だった霊石が中心部から徐々に朱色が帯びてくる。
マルクス先生は側でそれを見ながら用紙に記録をつけた。
次に隣の霊石に手をかざすと黒色が薄くなり少し透明になりかけただけで終わる。そして三個目に手をかざすと、瞬時に大きく緑色に輝いた。その強い光に周囲が緑色に照らされるほどだ。そして最後の四個目は長く手をかざしても全く変化がなく黒いままだった。
四大守護貴族キャラはゲームでも該当属性の精霊力が高い。だから風の霊石の反応が良いことはわかっていたのだけれど、こうして見る限り意外にも火属性にも適応していることがわかる。
ちなみに火は朱色、水は青みがかった透明色、風は緑、土は黄金(こがね)色に発光していることが一般的な霊石の色である。つまりエイデンは色が変化しなかった土属性の力は全く無いということになる。
先生は四つの霊石に順に手をかざしていくと再びそれは黒色に戻った。そして次にディノを呼ぶ。
ディノも同じように左側から手をかざすと、瞬時に発火したような強烈な光を霊石が放ち、思わず身を竦めてしまった。やはり火の守護貴族のためか反応が強い。
そしてディノは慣れた様子で次々手をかざしていく。次は黒色から変化なし、その次はほんのりと緑色に輝く。そして最後の霊石は中心部だけがやや黄色味を帯びただけに留まった。
そして次はルーク様の番。手をかざすと次々と霊石が発光していった。そこまで強い光ではないものの、全属性に共鳴できていることがわかる。
ルーク様は光の精霊の守護を司る王家の人だからなのだろうか、特化型ではなく万能型であるらしい。
そしてとうとう私の番が来た。緊張して教壇の前に立つ。
結果から言うと、私もほぼ全部の霊石に色が付いた。ルーク様と似ているけれど、ほんのりと色がついた程度で発光というほど強くない。つまりルーク様よりも精霊力が劣っているということになるのだろう。
自分の番を終えてようやくほっと息を吐き、あとは後続の生徒をのんびりと眺めていた。マリーの場合はやや水の力に偏りがあるようだ。こうして何人も見ていくと偏りがあるタイプとオールマイティタイプに分かれているのがわかる。
しかしどちらにしろ皆せいぜい薄く色を浮き上がらせる程度であることを考えると、最初の三人が異常に能力が高いことがわかる。
クラス全員の測定が終わり、その後はマルクス先生からの簡単な締めの挨拶でその日は終わった。
放課後、初めての能力測定で皆浮足立ってるのか、わいわいとにぎやかに感想を話し合っている。
私もみんなと感想を言い合いたかったけれど、今日は一つの目的があったためその場を抜けて教室を後にした。
私は階段を下って先生の職務室のある階に向かう。これまで疑問に思っていたことをマルクス先生に尋ねようと思っていた。
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