第11話 順調な学園生活

 学園生活はいい感じに過ごせている。

 お茶会の約束をした女の子二人とマリーを屋敷に招いたのは正解で、お菓子を囲んだパーティーはお互いにあったわだかまりを解消するには十分だった。


 以前からこの世界に存在しない和菓子っぽいものを職人に作ってもらっていたのけれど、今回はきな粉を使った焼き菓子を作ってもらったらこれが大好評だった。

 興味津々な様子の三人にお菓子のあれこれを話していたら、いつの間にか和気あいあいと会話が弾んでいた。


「マリー、あの時はごめんなさい。十二歳のお茶会の時、自分なりに一生懸命頑張っていたのに選ばれなくて悔しかったの。八つ当たりだったわ」


「私も同じ。今思えばルーク様とあまりお話ししていなかったあなたたち二人が選ばれたということは、きっとうるさく思われたのかもしれないわ。もしかしたらグイグイ行き過ぎたのかも」


 最後に二人は校舎裏での出来事を謝罪した。


 話をしていて途中で気付いたのけれど、この二人は『GG』でライラが登場した時に一緒に現れる『取り巻き女生徒A、B』ではないかと思った。完全にモブだったから顔立ちまで覚えていないけれど髪型に見覚えがあったのだ。

 もしそうだとしたら、今のうちにマリーと仲良くしてもらうことは後々の為にも良かったのかもしれない。


「アネット、エミリア、マリー、今日はとても楽しかった。今度は女子生徒みんなを誘うのもいいわね」


 Aクラスは女子生徒八人、男子生徒十三人の計二十一人だ。女子八人ならギリいける。



 こんな感じでクラスの女子の雰囲気は格段に良くなっていた。同じように男子も最初の頃こそルーク様に怖気ついていた生徒も、ディノとエイデンがルーク様を巻き込んで気さくに皆と話しているうちに、身分の壁のようなものが取り払われていったように見えた。


 入学から三か月経った頃にはクラスが馴染んできて、学園生活にハリが出て楽しくなってきたところだった。




「随分と楽しそうじゃん、ライラ嬢?」


 三限目の刺繍の時間が終わり、マリーとおしゃべりをしながらランチに向かう準備をしていると、外の授業から帰ってきたエイデンがからかうような口調で話しかけてきた。


 風の精霊を守護するジルフィード家の嫡男。若草色の髪が窓から入る風にサラサラと揺れる。


「それはそうよ、精霊祭がもうすぐなんだもの。早く私たちが作った衣装を着て踊る先輩達を見たいなぁー、結構上手く出来たよね? 私たちの刺繍」

「もう力作です!」


 マリーも強く相槌を打つ。


「まじ?……俺はもう舞台の設営にうんざりなんだけどー」

 整った顔を露骨にしかめて天井を仰ぐ。


 そうそう、エイデンはこういうキャラだ。少しチャラくて軽薄な雰囲気のある爽やかイケメン。しかし誰とも気兼ねなく話すわりに、あまり深く人と関わらない。

 その理由にはまあ、ちょっとしたトラウマがあるせいなのだけれど。


「国に繁栄をもたらす、崇め敬うべき精霊への感謝祭を疎かにする不届き者なんて、まさかこのクラスにいないだろうな?」


 ひんやりとした麗しい声が横から聞こえた。


「ちょっと、疎かにするなんて俺言ってないし! 少し準備が大変だなーって思ったくらいで」


 振り向くとルーク様も教室に戻られたところだった。エイデンにわざと冷たい視線を送るルーク様のおちゃめなSっ気を見て、つい顔がニマニマしてしまう。


「王子、ここに人が怒られているのを見てニヤニヤ笑っている不審者がいます!」

「それは君が不真面目だから笑われているだけだ。女子たちの刺繍は見事な出来らしいぞ。我々も頑張らないと」


 その様子を見ながら、私とマリーはクスクス笑う。


「マリーにも笑われた……」


 すごすごと自分の席に戻るエイデンを見ていると、若干ゲームより幼い印象に思える。ゲームの初登場時は、颯爽とヒロインをナンパしにきた女慣れしたチャラい兄ちゃんという感じだったけれど、今はまだそんな様子が見られない。

 というかもしかしたら、私が女扱いされていないだけなのか……?



 そして今話題に出た通り、私たちは精霊祭の準備をしている最中だった。三限目の授業を使って女子は舞台衣装の刺繍と装飾、男子は舞台の設営である。


 精霊祭とは学園創立の年から毎年七月に行われる大きな行事で、これが実質一学期の終業式になる。

 精霊祭はとても楽しみではあるけれど、夏休みに入ればルーク様に毎日会えなくなる寂しさ、そして破滅回避に向けて何も進展のないまま三か月過ぎてしまった焦りがじわりと広がってきていた。



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