第2話 新生児の回避

 子が生まれた報告を受け、ゴブリン集落の酋長は初の我が子を見にやって来た。

❮ギョェ?ギギゴ!!❯

 異種族に見える異形の新生児を一目見て、ゴブリン酋長は咄嗟とっさに拳を叩き突けた、スヤスヤ眠る新生児、しかし異形でもゴブリン、コロッと避ける様に寝返りした。


 出産直後ではあるが、神の加護のお陰か完全に回復している母親は、わが子が安全であることを直感して、成り行きを傍観した。


 酋長は意地になり殺気を込めて、異形の顔をめがけ拳を叩き突けた。


❮ギッ!❯コロリ❮ギョン!❯コロコロ❮ギムゥ!!❯コロコロコロリ❮ムムム?ギャン!!!❯コロリコロコロコロリ。


 熟睡中の新生児は、まるで逃げる様に攻撃される度に寝返りを繰り返した。

 疲れた酋長は❮ギョゲェ!!❯身振りで捨てて来い!と、女に命じた。 


 女は捕らえられた元冒険者だ、徹底的な暴力で完全に従順奴隷として調教したと思い込んでいるゴブリン酋長は、森に行くとき剣を持ち革鎧かわよろいを装備して行くことを許していた。

 集落のゴブリン達は、酋長の所有物である冒険者娘に手を出す者は居ない、物欲しげに眺めているだけのゴブリン達の間を抜けて森に出ていった。


 赤子を森に捨てに行くと見せ掛け、果しない凌辱を耐え我慢の末訪れた二度と無い逃亡のチャンス、女は赤子を抱き全力でゴブリン集落から逃げ出した。


 走り続ける女は呟いた。

「あれ?体が軽い、それに物凄い速度で走れる?」

 軽快に走り続け気付けば、いつの間にか魔の大森林から脱け出していた。



 草原を吹き抜ける、さわやかな風が母と娘を撫でて行った。

 しかし、脱け出せた解放感はつかの間だった。


「あれはグラスウルフの群れ?」

 何かに追われる様に、凄い速度でグラスウルフの群れが母と娘に向かって来た。


 身を守るため剣を抜き、向かって来たグラスウルフを切り伏せて行く。

 5頭切り伏せた所で、グラスウルフは襲う事なく、左右に別れ通り過ぎて行った。

 娘を抱いた冒険者は不思議に思ったが、20頭の群れに遭遇し無事だったことを喜んだ。


 何か向かって来る者に少し緊張したが。

「お前よく無事・・・すげぇな!高ランク冒険者か?」

 走り寄った5人の冒険者パーティーが声を掛けて来た。


「Dランク冒険者セレンだ・・・」

 久し振りに言葉を話たセレンだった。

「Dランクソロ、しかも余裕の子連れか!ベテラン冒険者だな?・・・臭ぁ!!ゴブリン討伐でもしてたか?セレンさん臭いぞ!!」


 5人組は名乗ることもせず、セレンから距離をとった。


「この先に小川がある、俺達が周囲を見張る、身体洗った方が良いぞ」

 鼻が慣れているためか、自分では染み付いた臭いに気付いて居ない。

「そうか!グラスウルフが避けて行ったのは、この匂いのお陰か!」

 ゴブリンはオオカミまたぎと呼ばれ、森の掃除屋スライム以外補食するものは皆無である。


 私が倒したグラスウルフを冒険者達が見てる。

「それはお前達の獲物にすれば良い、やるぞ」

「「「「セレンさん、良いのか?」」」」

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