第10話 血が繋がってないと思いたい

 ここに連れられて来た初日に入った部屋の隣もデジタルな部屋だった。


 デッカい液晶にババーンと通信先の親父らしきおっさんと現地の人が映し出されている。


「お待たせしました。大城戸さま」

「あ、響子ちゃぁん!堅い堅いよぉ〜!」

 氷点下な秘書と能天気なおっさんとの温度差。おっさんがチャラくてイラッとする。


「・・・こちら舜さまです」

 画面のおっさんがカメラにドアップに迫る。

 そんな近付いたらタブレットかPCか知らんけど画面見えないだろ。


「あー、舜!!舜かぁ!ねぇねぇ!茜ちゃんは元気してるぅ??」

 あー、連絡先無かったから知らせてないんだ。って言うか俺って言う息子いるのに連絡先残して無かったのか。


「母は去年亡くなりました」


 そう伝えるとニコニコしてチャラかったおっさんの表情が一瞬で消えてスンってなった。

 一応悲しいのか。


「そっかー・・・トラックに轢かれても死なないと言ってたのに・・・」

 それを言うのは鉄也だ。


「舜は?舜の暮らしは大丈夫か?」

「あー、貯金と保険金残してくれてるんで贅沢しなければ」

「そっかー、茜ちゃんは現実的だったからぁ、賢いよねぇ」

 トレジャーハンターに比べたらみんな現実的だろうな。


「んで大城戸さんは何してんの?」

 物心ついた時にはいなかったから〈父〉って言いにくいよな。

「アーン、せめて峻矢って呼んでくれよぅ」

 おっさんにシナを作られた。コロス。


「茜ちゃんのこと聞いた後に言うのちょっと辛いんだけどさぁ!僕、こっちで迷子になって助けてくれた村で結婚したんだよぉ〜」

 何回目か。

「でねぇ、なんと僕ってば双子のパパになったんだぁ」

 現地で子作りかよ。去勢していけ。

 画面に奥にいた女性と爺さんが小さい子供を抱っこして現れた。

 何か話してくれてるんだけど、全くわからない。

 何語だろう。


「こっちはマットーヤでこっちがサイジョー」

「「・・・」」

 は?


 名前で遊んだのか?


「いやー、日本的な名前がこっちじゃ発音難しいらしくて、提案した名前が全部却下でさぁ。マットーヤにはココモナ、サイジョーにはラクサムってセカンドネームもあるんだぁ」


 あー、多分家族はセカンドネームで呼ぶんじゃないかな。なら〈ユミ〉〈ヒデキ〉でつけても良かったと思う。


 嫁らしき女性はなんて言うか、おっぱい隠しなさい。しか言えない。


「コニチハー、ワタスハ、アハヌナ、イイマス」

 なんと嫁さん挨拶してくれた。


「ハロー?ワタシは、シュン、イイマス」


 英語が使える感じでもないから、俺も何故かカタコトになっちゃった。


「カワイイ・・・××△、シュンヤー、○△×」


 身振りで何か言ってるけどわかんない。


「彼女は舜さまが大城戸さまに似てなくて可愛いと言っています」


 秘書ーーー!?通訳できるの?すげー!!


 親父に似てないの嬉しい!けど可愛いは余分だー!!!


「大城戸さまは三年ほど音信不通でしたがやっとネットがつながる場所に出てこられたらしいです」

 ほー。今時マサイの人もスマホ持ってるのに、大変だね。

 

「で、生存確認しただけ?」

「いえ」

「舜くーん、蘭ちゃんが行方不明って聞いたけどあの子は僕よりサバイバル強いからぁ、心配、ないさー」

 いきなりライオン○ング。

 笑えねぇからな。

 隣で秘書のこめかみがビキってなってるぞ。どうするんだ。この空気。


「でねぇ、僕今無一文なんだけどォー、蘭ちゃんがいないからぁ、舜くんの許可がいるって響子ちゃんが言うのねぇ?」


 金の無心だった。


「何?そっちで稼げないの?」

「なぁんにもないから食べるのには困らないけど、移動とか電気とか色々ねぇ」

「まだインディやってるの?」

「それが生きる意味だからぁ」


 目の前にいたらワンパンしたい。


「姉さんはいつも送金してたの?」

「微々たる物なので」

 姉さんの財産からしたら平気かもしれないけど、ずーっと集ってたなら結構大変な金額じゃないの。


「いくらいるの?」

「とりあえず三百万くらい?」

 お前、そんだけ稼ぐのにどれくらいのかかると思ってんだ。


「大城戸さんは、子供に養育費かかるの知ってる?」

「それくらい知ってるよぉ」

「俺、いま大学生なんだけど、学費と生活費って本来なら父親からも援助あってもいいと思うんだよね。中学高校って結構掛かってたよ」

 簡単に100万単位で言うのムカつくよ。

 母さんが働いて残してくれた金の半分くれって。


「あー、それは申し訳なく思うんだけどぉ、茜ちゃんが僕のことわかってくれてて要らないって言うからぁ」

 困惑顔で言う。

「そっかー、作るだけ作ってあとは知らんってそのアハヌナさんと双子にも言うの?」

「えー、でも僕は定住できないって言ってあるんだよぉ〜、蘭ちゃんならこの子達に定期的に送金してくれるだろうしぃ」


 あかん。完全なダメ親父だ。


 姉さんを当てにし過ぎだ。


「ふーん、でも俺は姉さんじゃないから、その子たちのミルク代と将来的にいる学費と生活費だけ定期的に送金する。奥さんは大城戸さんが稼いで養えよ」


 養う気もないのにガキこさえるのが一番嫌いだ。

 親なら大学までとは言えないけど、高校までは学費払って養う覚悟を決めてから子作りしてくれよ。

 

「舜くん厳しー」

 泣き真似してもダメ。


「他にも兄弟いたりしないよな?」

「いないよ!!」


 世界中で種馬してないか気になって夜しか眠れない。


「やりたいことは自分で稼いでやれ。姉さんが戻ったら送金してくれるかもだから、お宝じゃなくて姉さん探したら?」

「蘭ちゃんはお宝だけどぉ、燃えないなぁ」

 

 俺、この親父に育てられなくて良かったかも。母さんありがとう。


「舜さまの決定ですので、お子様の養育費だけお支払いします」

「そんなぁー」


 秘書がブチっと通信を切った。


「あなたはきっと言いなりでお支払いを許可すると思っていましたが蘭さまとは考え方が違うようで安心しました」


 秘書がいつもより優しい雰囲気になったぞ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る