握力に人生を賭けた俺が異世界では最強でした~精霊石は握りつぶして使うんですよ~

しめりけ

握力と短い話

突然だが大ピンチなので聞いて欲しい。


何、短い話だ。

我輩は鬼切ニギル。美男子美丈夫美握力の三大美を持つ配信者だ。

今日も今日とて、俺の持つ握力こそが世界一の美しさを誇ると信じ、それを配信によって広めていた最中のことだった。


「……9998……9999……10000!ふう……今日はこのくらいにしておくか。みんな!『崖から落ちそうになって片手で掴まったが、実はトレーニングに最適!?』企画の視聴、ありがとうな!」


俺は片手でカメラ、片手で崖を掴んだまま最高のスマイルを浮かべた


「次回は『実家のおにぎり屋でおにぎりをブラックホールまで圧縮してみた!』の企画をやるぜ!是非見てくれよな!」


配信終了を押し、カメラの電源を切る。


「ふっ……流石に崖懸垂1000回を1万回まで増やすのはやりすぎたか」


クレジットチャットという、現金と共にコメントを投げるシステムによる視聴者の無茶振りに応え続けた結果、俺の華麗なる握力も疲労を感じていた。


「さて、帰って動画の編集をせねばならぬな……っ!?」


その時だった。ガコッ!っという音と共に崖が崩れたのは。


(しまった!いくら頑丈な崖であろうが、我輩の握力を1万回も受けたら限界だったか!)


直後、身体に感じる風、そして重力。

ここは数十メートルはある切り立った崖、予感するのは――――――死。


「しかぁし!我輩がこんな危険を考えずにいたとでも思うかぁ!」


カメラ我輩、キャスト我輩なので聞いている人は居ないのだが叫ぶ。危険な配信というのは、人が集まり金になるが、それをカバーするのが当然というもの。


我輩の眼下には、崖崩れにも負けず大地に根を張る樹木が横に飛び出していた!そう、崖から落ちるシーンで何故かよく生えているあの木だ!


「ガシィ、とな!ふはは、こいつに掴まっていれば落ちることは無い!正に完璧なリスク管理よ!」


虎の子のカメラを脇に抱え、反対の手で木を掴む。例え150kgを超える我輩の肉体でも、我輩の握力にかかれば軽いものだ。――――――だからそう、なんというか、危機的状況過ぎて忘れていたのだ。その手で1万回の懸垂を行ったことを。


メキョオ!


1万回の片手崖懸垂、それがもたらすことは何か分かるだろうか。


握力の低下?


いやいや、我輩はそんなやわな鍛え方はしていない。1万回の懸垂位で落下する我輩の身体を支えられないなんて、そんな軟弱な事は無い。


それがもたらしたもの……そう、手加減を間違えたのだ。


大地に根を張り、崖から突き出ることで光合成を諦めなかったタフな樹木の幹も、我輩の咄嗟の握力の前では無力な小枝であった。身体は再び空中に投げ出され、自由落下を始めた。


「まだまだぁ!!うおおおおおおおおお!!」


あと数秒後には地面に叩きつけられるであろうが、最後まで諦めるわけにはいかない。ここは、まだ未完成のあの技を使うしかない。


掌に宇宙ブラックホール!」


説明しよう!掌に宇宙ブラックホールとは自身の掌が自分の握力で握りつぶされてしまうという、矛盾を孕む握力により生まれる超重力の塊である。

これにより、地球の引力よりも強い手の中のブラックホールに引き寄せられることで落下速度を中和し、吾輩は究極握力存在としての一端を世界に示すこととなる!









数秒後、吾輩の身体はバラバラになった。

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