第8話 手紙
悪魔崇拝者の幹部や教祖を倒し、悪魔のアスタロト公爵を倒し、世界に平和が訪れた。
あの娘との思い出の花畑に訪れる事ができたのは、5年も過ぎた夏の日だった。
「リナ、やはり帰るのですね。」
「はい、あの娘は元の世界に帰してあげたいんです。」
「...あの娘が望まなくてもですか?」
「どういう...?」
ミロは手紙を見せてくれた。
師匠へ
師匠より先に死んでしまう不出来な弟子をお許しください。
最初に師匠に出会った時のことを覚えていますでしょうか?
私が勇者様御一行を殺すように暗示をかけられ爆弾を持って師匠にぶつかりましたね。
私はその時、暗示をとくこともできました。しかし、解いたところで帰る場所もなく、生きる意味もなく、古い記憶に従い賢者ミロに助けられる事だけを知っている状態でした。
助けられたら幸せになれるのかというぼんやりとした疑問を持って勇者様御一行を危険に晒しました。
今でも覚えています。
師匠が私を見た時の驚いていた顔も慌てた顔も。
私にかかっていた暗示も爆弾もあっという間に解除したその手際も。
師匠は私を弟子として受け入れてくれました。
私はそれがどういう事かよくわかっていませんでしたが、償いをするために同意しました。
危険に晒してしまったことは今でも申し訳ないと思ってるからです。
私はてっきり、マナの補給くらいに使われるのかと思っておりましたが、勇者様も聖女様も騎士様もそして、賢者であるミロ様も優しくしてくれました。
勇者様は一緒に遊んでくれたし、聖女様はお母さんみたいに世話を焼いてくれましたし、騎士様は私の事を気にかけてくれました。
ミロ様は私の保護者になってくれて、師匠になってくれました。
何時も私を教え導こうとしてくれました。
魔法が使えるようになると褒めてくれました。
危ないことをすると叱って、心配してくれました。
怖い時は手を引いて私と一緒にいてくれました。
それがとても心強くて、お父さんみたいで凄く嬉しかったです。
私には前世の記憶が少しありますが、全く幸せではありませんでした。
今の私のように両親のいない病気がちの子で、孤児院から引き取られることなく病院に行くこともなく何とか成人になり無理して働き、脅されて結婚し、毎日罵声と偶にある暴力、自分の物は何もない生活をしていました。
だからでしょうか?
初めて感じる皆さんの優しさに救われたのです。
私は、この世界が好きになりました。勇者様と聖女様と騎士様と賢者様がいる世界が好きなのです。
だから、私は死ぬことにしました。
誰一人欠けてはいけないと思ったからです。
私が前世の記憶があるように、また、未来の記憶も断片的に存在します。
私が何度かさらわれた事を覚えているでしょうか?
勇者様一行について行く事ができる私を通して勇者様一行の情報と悪魔を召喚することで不意打ちがしたかったようでした。
さらわれる度に、悪魔の生贄の儀式を進め、私の位置を特定する魔法をかけ続けていました。
その影響で、私は悪魔アスタロトの権能の一部を覗き見ることができるようになったのです。
あの場で私が死ねば、悪魔アスタロトは弱体化します。
マナの多い生贄が生き残れば、私からマナを吸収し、それだけ多くの力を取り戻してしまうのです。
悪魔アスタロトはきっと、私を試していたのだと思います。
変な話ですが、私はアスタロトに感謝してさえいるのです。
役に立つ機会をくれた事を嬉しく思ったのです。
だから、自信を責めたりしないでください。
私は間違いなく皆さんに救われました。
ここからはお願いになります。
私の事が許せないのでしたら、叶えてくれなくても構いません。
まずは勇者様にごめんなさいと伝えてください。一緒に川で釣りする約束は守れそうにありません。
聖女様にはありがとうと伝えてください。お母さんみたいだって言ったら傷つくかもしれないので、言ってはダメです。
騎士様には約束していた指輪を渡して欲しいです。
私が欲しがっていた指輪を買ってくださって、その代わりに指輪を作る約束をしていたのです。
それと、ミロ様の課題であったマナ水晶を全部作ることができたので受け取って欲しいです。
旅が危険であることを知っているので、私の魂の一部を埋め込みました。滅多に壊れないと思うのですが、危険な時には躊躇無く使用してください。師匠や勇者様御一行が危険に晒され、傷つくことは私にとって何よりも悲しいからです。
そして、この手紙が入っていたこの箱に私を入れて、あの花畑に植えて欲しいのです。
初めてあの花畑を見た時、余りに都合の良い場所に感動しました。ここに埋まりたいと思いました。
悪魔アスタロトは私の魂を吸収することなく、この世での活動の依代とするでしょう。
悪魔アスタロトを倒した暁には私の魂が抜けたからのマナ結晶がドロップするはずです。
どうか、それを箱に入れてお墓を立てて欲しいのです。
私が生きていた証をこの世界に残して欲しいのです。
最後まで、面倒ばかり掛けてごめんなさい。
どうか、お幸せになってください。
あなたの弟子ミアより。
「ミア...」
手紙を抱きしめ、私はドロップしたマナ結晶を取り出した。
そして、ミロがあの箱を取り出した。
「私、この近くに住もうと思ってます。ミロもどうですか?」
「ありがとうございます。そうします。」
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