第5話 傷口
数日、私達は進む事が出来なかった。
ストーリー通りに村に留まり、嘆き悲しむことしか出来なかった。
「聖女様。」
部屋であの娘の短剣を眺めているとドアの向こうから賢者の声がした。
「...どうぞ、入ってください。」
賢者が部屋に入ってくる。
いつもの穏やかな笑顔はなかった。
「どうやら、この指輪は私のものではないようです。アーロン様に渡して頂けますか?」
私は驚いて振り返った。
てっきりあの娘は賢者ミロを好きだと思っていたからだ。
「私は、アーロン様に帰るように説得するつもりです。王子である彼をこれ以上この旅に同行させることができません。」
そうだ、離脱するのは、騎士アーロンだった。
忘れてた。
どうしてこんなに大事な事を忘れてたのだろう。
「あなたへの贈り物にも強い守りの魔法が掛けてありますが、この指輪は更に強い守りの魔法が刻まれています。きっと、長い間準備したのでしょう。」
「...ミロ、さん。あの娘はアーロン様の事が好きだって言ってました。」
「そうですか。全く、師匠にはマナ結晶なんてありふれたものを差し出しておいて、困った子ですね。」
そういう割に、微笑みを浮かべていた。
マナ結晶は簡単に作れるものじゃない事を一番よく知っている人物も賢者だからだ。
「どうして、私に指輪を渡すように言うんですか?」
「アーロン様はあなたに気があるようなので、あなたから渡されたら持ち帰ってくれる確率が上がるかと思いまして。」
「...会いにくくなるようなこと言わないでください。」
私は指輪を受け取る。
嫌なことは早く終わらせるに限る。
私は立ち上がった。
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