第3話 少女の伝えたいこと

せいじょさまへ

お手紙、見ていますか?

なんちゃって。

記憶が上手く伝わってるといいな。

刺してごめんね。

でも、これしか方法が思いつかなくて。


あなたも薄々気づいてるかもしれませんが、

私がラスボスの生贄として転生して10年が経ちました。


私は彼女に同化しすぎてしまい、上手く前世が思い出せません。

それでも、大好きだった推しキャラがいた世界だということとストーリーの概要ぐらいは覚えています。


私は上手く喋れない可哀想なキャラで、同情を集め、華々しく散っていく。

そういうキャラであることを思い出したのは3歳くらいの事でした。

しかし、スラムの最下層に既に身を置いていた私は、その運命に抗えるほど強くはありませんでした。


だって、目の前の現実は既に暴力に満ちていて、悲劇に満ちていて、そこから抜け出せるほどの気力も力もありませんでした。


黒幕が私を拾った理由をあなたは知っているでしょう?

何も移さないその瞳を見たからです。


私の心には何時でも虚ろが住み着いていて、結局、同郷のあなたにも心を開けませんでした。


そんな私でも、恋をしたのです。

彼は私の世界を優しさで満たしてくれました。


不器用で無口な彼でしたが、弱い私にはそれでさえ強い光でした。


私は彼を殺したくなかった。


この物語の一番残酷な部分をあなたは知っているでしょう?


一度目に私が生贄になって殺されれば、最終戦でのラスボスが弱体化するし、最終戦に参加しない彼は死ななくなる。


彼が死ななければ、その後もハッピーエンドを迎えることが出来る。


私という重りを捨てれば、世界は素敵で幸せな物語を紡ぐことが出来る。


あなたには申し訳ない気持ちでいっぱいです。

知らない方があなたの心は穏やかだと知っています。

それでも、私がこの記憶を遺したのは、頼みたいことがあったからです。


きっと、ストーリー通り、彼は自責の念によりパーティを抜け王国に帰るでしょう。


できましたら、私の作った彼への贈り物を届けて欲しいのです。

いくつかはあなたのためにも作りました。

可愛らしいデザインにしたのですぐにわかると思います。

場所は昨日あなたが花冠を作ってくれた花畑の土の中です。

あなたなら、見てすぐ分かると思います。

鍵はあなたを刺したこの短剣です。


私が使える魔法の中でもっとも強い魔法を掛けたので、あなたにしか開けなくなってると思います。


最後までごめんなさい。

どうか、お幸せに。


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