第2話 少女の決断

「どうして!どうして裏切ったんだ!」


責めていると言うには余りにも混乱している口調だった。


私はいつもの感情を移さない瞳で、舌っ足らずな声で答える。


「ちがうの。さいしょから私がかんちょーだったんだよ。つかいすての。」


「!!!」


私の言葉に驚く彼らを無視して、魔法陣の中に進む。

軽やかな足取りはカウントダウンのようで、美しいスチルが脳裏を掠めた。


少し、笑いたい気分だったが、やはり表情筋は動いてくれない。


「やはり、あなたが...」


「今まで、ずーっとだましてたの。あなた達が私をうたがわないから。」


振り返って、そう答える。

そして、魔力を魔法陣に流し始めた。前日に眠らずにいたおかげで魔力は豊富ではない。


「...では、なぜ今更裏切ったのですか?これからも共に居て私達の動向を探れば良かったのでは無いですか?」


「めいれいだから。あなた達をここにまねき入れて、せいじょサマを刺す。これが私がうけためいれい。」


「茜はあなたを妹みたいに可愛がってたろ!何も思わないのか!?」


「うん。」


だって、そうしないとあなた達がもっと苦労することになるから。

まったく良心は痛まない。


「どうして...」


血を口から流しながら、あなたはそう言った。

自身に治癒を忘れるくらいショッキングな内容だったのかもしれない。

でも、準備はもう終わった。


「せいじょサマ、ばいばい。」

そう言って私が決められた通りにこりと笑うと、魔法陣から伸びた恐ろしい手が私の頭を掴んだ。


その手から私の全てが奪われていく。

せいじょサマが私を見て酷く動揺しているのがわかった。

彼女には私の声が伝わったのだ。

ゆうしゃさまはせいじょサマを支えたまま呆然と私を見ている。

賢者は何かを唱えていて、騎士様は伺うように悪魔と私を見ていた。


吸い取られる感覚が凄く気持ち悪い。

でも、目の前に君がいたから、私は笑ってられた。


看取ってもらえる。


それが嬉しかったから。


記憶までも奪われそうになったけど、それだけは抵抗した。


そうじゃなくても魔力不足なのに抵抗なんてするから、目からは涙が、口からは血を吐き出す。

その他の場所からも血が流れる気持ち悪い感触があった。


久しぶりに感じた内側からの破壊に私は抵抗し続けられるように強く意識を保つ。

そうしなければ、ここまで来た意味は無い。


死ぬことは決まってた。


そうあって欲しいと思ってた。


ここで死ななければ、後にもっと君を苦しめることになる。


確実に死ねるように魔法陣まで用意したのだ。


ぼやけた視界で、君を見る。

それでも君は私が死ぬのを悲しんでいるように見えていたから。


どうか、私の顔が残りませんように。

二度と誰にもこの赤い瞳が見られませんように。


恐ろしい痛みと共に私の願いが叶えられた。


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