錬金術
「モプ、そこの素材取って」
「は、はい」
「モプ、そこの薬品取って。違う、隣の緑のやつ」
「こ、これですかあるじ様」
「うん、ありがとう。あとはしばらく撹拌して……モプ、ちょっと待ってて」
「……? こうですか?」
それはこの前教えたラジオ体操だね。舞っててと言った訳じゃないが可愛いから放っておこう。
うんしょ、うんしょ、と体操するモプを横目に何をしているかというと、錬金術だ。
私の一番の仕事である。錬金釜という魔道具の中に素材をいれることで全く違うものを作り出すという不思議作業だ。今は植物系魔物素材から毒性を消すための中和剤を作っているところだ。
ここは離れにある自室とつながっている作業場だ。人が寄り付かず、静かでとても良い。決してたまに爆発するせいでは無い。
産業として考えるといずれ他の錬金術師を確保しないといけないのだか、錬金術師と呼ばれるには相応の知識と経験が必要だ。今のところは私しか作れる者がいないのでこの離れで作っている。。
私の場合は【電脳】の知識ががすべて解決してくれている。楽だ。
でもその結果仕事が増える。謎だ。
しばらく無言の時間が過ぎる。釜をくるくる掻き混ぜていると、ラジオ体操を終えてやることが分からなくなったモプが何故かI字バランスを取り出した。パンツが見えているから注意しようかと思ったが、なんだか一生懸命なのでまだ放っておくことにする。
ちなみに、下着についても私が開発して売り出しているものだ。以前はサラシやドロワーズしか無かったのだが、母様名義で生産したらビックリするほど売れた。貴族階級はいまだにコルセットで体型を整えたりするようだが、一般階級には胸が綺麗に見えて、おしり周りがスッキリする下着は非常に好評らしい。
ちなみに、特注でいいお値段がするものとして、魔物素材を編み込んだ冒険者向けの下着も存在する。
これは胸当てと肌着のさらに下に着用するもので、その頑丈さとホールド具合から、これで命が助かったという噂があるくらいだ。噂の発信源は私。
特注下着についても職人がいないため、私が錬金術で作っている。―――素材を入れて混ぜると釜からブラジャーがズルズルとでてくるのだ。非常にシュールである。
モプはついにくねくねしたり、くるくる回ったりしだした。ふわふわでつやつやのの黒髪が広がってまるで……まるでワカメのようだった。
「モプ。そこの瓶取って」
「はあ…はあ……は、はい」
放って置きすぎたか、踊り過ぎで息が乱れている。命令を一所懸命にこなそうとする様は、いじらしくもいたいけで可愛い。素材も瓶も手の届く所に準備しているのについつい呼びつけてしまうのだ。
まあ、流石にそれだけが理由ではないのだけど。
それからしばらくはモプを助手にひたすら中和剤を作り続けた。
「うあー……疲れた。」
ひと段落したのでソファに身体を横たえる。日が高い頃から始めて、夕暮れ時までひたすら釜を混ぜた。魔王時代の終わらない書類仕事を思い出してしまうのでルーチンワークに根を詰めたくは無いのだが……仕事以外のものも錬金したいからちょっと今日に予定を詰めざるを得なかった。
発案者は自分だし、自分がやらなければ今のところ回らないのだから仕方ないのだけど……疲れるとぶー垂れたくなるのは仕方ないというものだ。
と、枕元に真っ黒な毛玉がもふんと座った。
「あ、あの、あるじ様。おひざをどうぞ」
「素晴らしいね、モプ。ちゃんと教わったことを覚えていたんだね」
私は遠慮なくモプの太腿に頭を乗せる。ちょっと汗ばんでいるが、純白のオーバーニーソックスと柔らかな太腿が気持ち良い。モプがえへへと照れているが、褒めて伸ばす方針なのでなんの問題もない。
ぐうたらな生活を目指してはいるが、よく働きよく甘えるというこの時間も悪くないものだ。
ちなみにモプの年齢はよく分からない。
出会った時は何も知らず、話せず、無垢な赤ん坊のようだった。だが学習能力が高く、あっという間にメイド見習いをこなせるようにまでなった。
体格的には同い年くらいに思えるが、種族によって成長速度は違うのでなんとも言えないところがある。
だって、頭から枝生えてるし。
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