金策

閑話休題。

そう、金稼ぎの話だった。金を稼ぐにはどうしたらよいか、まずはそこからだ。

1.奪う。

2.稼ぐ。

3.作る。

現実的な選択肢としては当然2しかないのだが、まあひとつずつ考えていこう。

まずは1.奪う。これは、辺境に位置するうちでは一番やってはいけないことだろう。暴力でも政治でもだ。

倫理観的に駄目なのでは無い。暴力による治安の悪化は、領地の衰退を生む。ただでさえ過酷な環境なのに、商人も冒険者も減るような略奪では、一時的にすら裕福にはならないだろう。

次に2.稼ぐ。真っ当、至極真っ当だ。貨幣経済における理性ある人としてはこの方法であるべきだ。だが如何せん、それで上手くいくならそもそも困っていない。稼げないから貧しているのだ。

そして3.作る。これはまあ実はそう悪い手では無い。無いなら作る、作れば『ある』のだ。

まあ、貨幣を作る金属も無いし、そもそも、帝国貨幣の無断作成は重罪なんだけどね。じゃあ悪い手じゃんね。

結局は2.稼ぐ。ということになる。


当たり前?そう当たり前だ。だが、何事も入口に立った時は様々な選択肢を考えなければならない。

だって、不都合が無ければ奪うことも作ることも十分に有用なのだから。

それを『する』に足る理由さえあれば。


さておき、どうやって稼ぐのかを考える。

稼ぐということは、誰かと交易をして貨幣を貰う、こちらは物を渡すことになる。

必要になるのは、相手が欲しがるもの、かつ他所では価値あるもの……特産品だ。

無いなら作る。貨幣じゃなくて特産品の開発に着手した。

ここで電脳の出番だ。科学革命から宇宙開発まで、電脳にはなんでも入っている。

正確には情報を拾っていると言うべきかもしれない。が、仕組みが全く分からない。いやまあ、電脳に電脳を解析させたら回答はあったんだが。

なんでも、『11次元のタイムニウムと-15次元のチルチルミチールを介しシッテール9989を吸収し世界でまそ変換することで電気信号としている』、らしい

わからん。使えるからよし。


電脳を使っていくつかの特産品を考えたのだが、1番に着手すべきだと考えたのが魔物素材を利用することだ。

『大森林』という危険地帯から獲れる魔物素材はうちの領地の数少ない特産物であり、交易品だ。

魔物の素材は耐久性に優れており、武具としての需要も高い。ならば特産品を武具にするかと考えると……それはちょっと難しい。


魔物素材は、その耐久性と希少性も相まって加工のレベルが高いのだ。うちの領地でそれを産業にするためには職人の数が足りない。腕のいい職人というのは、やはり人の多い帝都を拠点とするものが多く、今のジャモン辺境伯領では誘致が難しい。


それに武具はかさばる。

行商人の少ないうちでは単価だけ高くても大きな稼ぎにはならない。

才防具ともなれば話は違うのだろうが、これまた加工できる職人が居ない。


それから随分とあれこれ考えたのだが、最終的に美容品が1番ではないかということになった。これは当時セイレンと話していて気付いたことだ。


「ねえセイレン、何か欲しいものってある?」


「おかね!」


「うん、お金は私も欲しい。そのお金を稼ぐための案を考えてるんだ。やっぱり、人が欲しいと思うからこそ売れるんだと思うし。他にない?」

「うーんうーん……ふろーふし!」


「4歳の子供が求めるにはちょっと世知辛過ぎないかなあそれは」


「あとねえ、えいえんのびぼー」


永遠の美貌ね、うん。卵のようにもちもちのお肌でそれを言うとお姉さま方お母様世代に怒られるからやめようね。……うん?


いや待てよ。永遠とはいかなくとも、美しくありたいというのは充分な需要になる。

それに、『大森林』の生態系の中でも肉食の魔獣ではなく、植物系の採取で素材が賄えるなら量産の難易度がグッと下がる。……この時点で【電脳】はこの案による各種試算を終えていた。


これなら、いける


「ほかにはねー、わたしがくんれんでどろんこになったからって笑わないし、本にむちゅうで、おひるね中のわたしの足ふんだりしなくて、わたしもおこられちゃうからダメって言ってるのに、お庭からだっそうしたりしない『ごしゅじんさま』がほしいなー」


……ごめん、ごめんて。なるべく控えるから、そのドロッとした目でこっち見るのやめて。


まあ、そういうことがあって美容品の制作に取り掛かったのだ。

今一番の売れ筋はシャンプー洗髪剤だ。

この国では女性の髪は長いのが一般的だ。種族によってはそもそも長くは伸びなかったりもするのだが、そういった種族は美醜の面で人気が無い。

当然競合相手は多いが、それを出し抜くのが植物性魔物素材だ。

ヒポポタマス草、トンガルコーン草、人面樹、どれもこれも大森林の辺りには大量に生えている。

これらを使えば、内地で作られているシャンプーとは比べ物にならないくらいの質と量を確保出来る。


勿論、自生しているものを消費するだけでは無くなってしまう。だから、大森林の入口―――浅層より手前に位置する所で栽培も始めた。当初は毒性のある魔物素材を栽培することに対しての反発がいくつかあったものの、領地での生活が豊かになってきてからはその一切が収まった。人って現金なものである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る