愛とは

「トリノ、『大森林』に入ったじゃもん?ゴールデンボールスライム金色粘液を捕獲したってことはそういうことじゃもん」


「あ、はい。ただ、あれを捕獲したのは浅層ですよ。ちゃんとゴンスとヤンスを連れていきましたし浅層は入っていいと言われていたと思うのですが……?」


「ああ、別に叱ろうというつもりは無いじゃもん。そもそも、この領地が今も潤ってるのはトリノの無茶のおかげなのだから、そこまで過保護にはなってやれないじゃもん」


父様はペンシル髭をちゅるんと引っ張り言葉を続ける。


「問題は、そのゴールデンボールスライムが『深層』の魔物であることじゃもん」


父様は真剣な表情を浮かべて、両手でちゅるんちゅるんしている。


「トリノが上げた報告書は読んだじゃもん、テラ執事が。その上で浅層には問題が無いと結論付けたじゃもん、テラ執事が。生態系に変化なし。臨森部の冒険者ギルドからも『大森林』に異常は見られないと言われたじゃもん」


「…………それならば、いいのでは?ゴールデンボールスライムを見つけたのは、はっきり言って偶然ですし、アレは深層の魔物の中でも逃げ足に特化した魔物だと聞きました。だからこそ私でも捕獲できたのです」


「そうじゃもん、そうじゃもん、その通りじゃもん。我輩も森に入って見てきたじゃもん。……確かに何もなかったじゃもん。


だけど、ゴールデンボールスライムはとっても臆病な魔物じゃもん。確かに各所の報告に異常は見られないけど……なんとなーく嫌な予感がするじゃもん。言うなれば、じゃもん。


勘、勘か。客観的、もしくは数値上に出てこないがあるかもしれない、と父様は感じているということか。元冒険者の父様の勘は無視できるものでもない。かといって……異常が観測されていない以上私にできることもない。


「だから気を付けるじゃもん、トリノ。ツギノスエノにも『大森林』には近づかない様にいつも以上にきつく言い含めてはいるが……トリノは仕事がある故に止めるのも難しいじゃもん。ゆめゆめ、油断することのないようにするじゃもん。」


「わかりました、父様」


うむ。と頷いた父様は満足そうに紅茶に口をつけた。


「それだけですか?」


「それだけとは冷たいんじゃもん。親子の時間のついでに業務連絡しただけじゃもん。ささ、父にもゴールデンボールスライムを捕まえたことを話しておくれ」


甘い菓子、甘い紅茶、甘い両親。この空間には甘い物しかないなと苦笑しながらも、自分の頑張りがこの甘さを守ったのだと誇りに思い、私は父様と母様にゴールデンボールスライムの話をすることにした。

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