今世の父と母
「父様、母様、トリノです」
「入るじゃもん」
ドアを開けると、そこには父様と母様がソファーに並んで座っていた
「待っていたじゃもん座るじゃもん」
「はい」
2人の対面の椅子に掛けようとすると、待ったが入った
「あらトリノ。貴方は私の隣ですよ」
「ペディ、どう考えても3人は座れないじゃもん」
「アナタが動くんですよ。はい、どいてどいて」
「しょぼんじゃもん」
母様に粗雑に扱われた父様が席を変わってくれる。
長く柔らかな金髪から甘く優しい匂いが漂う。鋭い眼差しだがその奥の碧い目は優しく私を見つめていた。
父様の名は、コメール・ジャモン。
この『ジャモン辺境伯領』の領主にて、『
と……肩書きを並べてみると、筋骨隆々とした無骨で軍人肌の厳つい男のようだが、実際はまるで違う。
実際の父様は実に小さく、丸い。変わった格好が好きで、この国では珍しいシルクハットと金属製ステッキを愛用している。ペンシル髭をいつも撫でながら朗らかに笑っていて、とても強者に見えない。
息子の私でも会う度にギャップを感じるのだから、父様が強いと言われて社交界で信じる人が帝王しか居ないのは仕方ないのかもしれない。
母様の名はペリペティア・ジャモン。
ジャモン辺境伯夫人にして、家中の全てを取り仕切る女主人。そして、私と弟と妹を産んだ人。
父様とは違い生まれつきの貴族で、平民の父様が辺境伯とい異例……いや、異常な出世を遂げた要因のひとつは母様であるらしい。詳しく聞こうとするといつも両親の過去話から始まり、主題に入ることなく延々とイチャつくので詳細を聞くのはだいぶ昔に諦めた。ただ、内陸の貴族出身のはずなのに非常に辺境適性が高い。戦闘民族ばかりのこの地と内陸の政治を繋ぐかけがえのない立場だ。
高い身長と鋭い眼光のせいで誤解されやすいが、本人は愛に生きる情熱家を自称していて、変人の弟と妹も満遍なく愛する人だ。事実、私を机の向かいに座らせるのではなく、隣に座らせて既に抱きしめている。長く柔らかな金髪から甘く優しい匂いが漂い、鋭い眼差しだがその奥の碧い目は優しく私を見つめていた。
「オホン、ではトリノ……」
「ねえトリノ、また新しい洗髪剤を開発したと聞いたわ」
「ふたたびしょぼん……じゃもん」
シュン、と小さくなりつつある父様に苦笑を浮かべながら、母様の質問に答える
「ええ、どうぞ母様。セイレンとモプで実け……試しに使わせています」
懐に入れていた小瓶を出す
途端、母様は顔を輝かせた
「これが新しい洗髪剤です。ちょっと特殊な材料を使っているので、屋敷のメイドたちに試験的に使ってもらっていました」
「まあ!最近セイレン達の髪質が更に良くなったと思ってたのよ!聞いてもトリノからの報告があるまでは自分たちもよく分からないって言うし……今までの洗髪剤とどう違うの?何か光ってるようにも見えるけど」
母様は渡された瓶を掲げたり傾けたりしながら中身を確かめて聞いてきた。
「実はですね……
「ええっ!?」
驚いたのは母様だけでなく、後ろに控えるメイド達も動揺しているようだった。
「それって大丈夫なの?だって、
「もちろんですよ。錬金術で無害化してから更に薄めて調合あります。それに、従来の洗髪剤に比べて潤いと輝きが全然違います。ただ、私も魔物素材を混ぜたものは初めて作ったので、母様にお渡しするまでに試すことが多かったのです」
母様に危険な物を渡すわけにはいかなかったので。とは言わなかったが、母様は満面の笑みで抱きしめる力を強くした。中身出そうです母様。
「流石ねトリノ!魔物素材は多いけど、美容品として実用化したなんて始めて聞いたわ!これも売りに出すの?今までの洗髪剤の生産工程と差し替える?」
「いえ、うちの特産品として出すにはゴールデンボールスライムが貴重素材すぎます。これは、母様のために作ったものなので、遠慮なく使ってください。今後作るものは……贈答用にでも」
「そう……そうね、今でも十分に特産品として成り立ってるから、欲張ってはいけないわね。ふふ、前回の社交でもこの髪を羨んで色んな人に質問されたのよ。これを使えば更に社交で良い立場を取れるわ、トリノのおかげね!」
母様が輝かんばかりの笑顔で褒めてくる。母様のこういう褒めてくれるところが、領民達にも好かれる所以だろう。なんと言うか、きつい見た目に対してほんわかとしたギャップがあるのだ。
……前世を3つも持っているのにろくに愛情を受けた覚えがないからか、こういうのはなんというか、こそばゆい。
「あー、そろそろ話してもいいじゃもん?」
父様がそろそろと話に入ってきた
「あらアナタ、居たの?」
「そろそろ泣くじゃもん!?」
「もちろん冗談よ、ごめんなさい。トリノに話があるのよね」
「そうじゃもん。……その前にペリィはそろそろトリノを離すじゃもん」
「ええー」
「いや、大事な話だからというのもあるけど、そろそろトリノの顔色が酷いじゃもん」
「そう?私の可愛い息子はいつもこんな顔だと思うのだけど」
そうは言いつつも母様は抱きしめていた腕を離してくれた。正直深呼吸をしたいところだが、それは母様が悲しむからやめとけと父様からアイコンタクトが来たのでやめておく。
「さてトリノ。そのゴールデンボールスライムの件じゃもん」
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