手料理
とある休日。両親が出掛けている間に、美空を家に呼んだ。遊ぼうという事では無く、今回は私の手料理を食べて貰おうという計画だった。
「お邪魔しま~す」
「いらっしゃい」
「これお菓子ね。お母さんから」
「ありがとう」
美空からお菓子を受け取りつつ、一緒にリビングに移動する。小さい頃から何度も来ているから、美空も慣れたものだ。普通にソファに座る。
「おばさん達は?」
「出掛けてる。夜中に帰ってくるらしいよ」
「相変わらず、仲が良いね」
「おばさん達もでしょ。それじゃあ、しばらくゆっくりしてて」
「ん~、何か食べさせてくれるんでしょ?」
「うん」
今日作るのは、炒飯だ。お昼ご飯なので、あまり凝った料理にはしてない。でも、炒飯だって美味しく作るのは難しい。お母さんからうちのレシピを教えてもらったし、大丈夫だとは思うけど、ちょっと緊張する。
美空は、最初テレビを見ていたけど、しばらくするとキッチンの方を覗いてきた。私がどんな風に調理をするのか気になったのかな。
「怪我しないでよ?」
「分かってるよ」
美空の心配を余所に、調理は進んでいき炒飯が完成した。結構上手くいった。大分パラパラに作れたと思う。具材はネギと卵とウィンナーだけで出来ている。シンプルだけど、結構美味しいはず。味付けもしっかりしたし。味見もした。
「出来上がり!」
「おぉ。結構早いね」
「一品だしね。召し上がれ」
「それじゃあ、いただきま~す」
「いただきます」
美空がスプーンで取った炒飯を口に運ぶ。緊張の一瞬だった。ちゃんと美味しく作れただろうか。
炒飯を咀嚼していた美空は、小さく笑顔を作った。
「うん。美味しい」
「良かったぁ」
美空から美味しい判定を受けたので、ひとまず安堵した。お世辞ではない証拠に、美空は次々に炒飯を口に運ぶ。取り敢えず、美空が美味しそうに食べてくれて良かった。
「星那は、家事に関しては器用だよね。その器用さが運動にも利用出来れば……」
「それは、今関係ないでしょ!? 全くもう……」
「まぁ、何であれ、星那は良いお嫁さんになりそうだよね」
「ふふん。優良物件だよ」
ドヤ顔でそう言うと、美空は小さく吹き出した。
「ふふっ……確かにね。今の内に予約しておこうかな」
「ふぇっ!?」
思っても見なかった返しに、動揺してしまう。そんな私を気にせず、美空は炒飯を食べ進める。そんな美空を見て、私も食事を再開する。少しだけ顔を赤らめながら。
昼食を一緒に食べた後は、リビングで少しテレビゲームをしてから部屋に移動した。そして、私が買った雑誌を二人で一緒に読む。いつも通りの休日。
手料理を振る舞うというアクセントを加えてみて、少しでも美空に近づければと思ったけど、まだ遠い。
────────────────────
それから数日後。登校の待ち合わせ場所である最寄り駅で、美空を待っていると、ちょっとだけ息を切らした美空がやってきた。いつもはもう少しゆったりと来るのに、今日は急いで来たみたいだ。
「そんなに急いで、どうしたの?」
「ふぅ……まぁ、そこまで急ぐ必要はなかったんだけど、早めに渡しておきたいなって思って」
「渡したい?」
「そっ。これ」
美空は鞄から袋に入ったクッキーを取り出して渡してきた。
「えっ、ありがとう。でも、何で?」
クッキーを貰えた事は嬉しいけど、その理由が分からなかった。
「この前、星那の料理を食べさせて貰ったでしょ? その事をお母さんに話したら、お返ししないとっていうもんだから、クッキー作った。まぁ、ほとんどお母さんが手伝ってくれたけど」
美空は、私よりも家事が苦手なので、本当に頑張って作ってくれた事が分かる。それに、美空のお母さんが手伝ってくれたのなら、味の心配もない。
「いただきます」
袋を開けて、クッキーを食べる。ほどよい甘みが口の中に広がる。
「うん。美味しいよ」
「お母さんにアドバイスを受けながら、星那の好みに合わせて作ってみたからね」
「へぇ~、そうなんだ」
確かに、この味は私の好みに合わせてある。ほぼドンピシャと言っても過言ではない。
「嬉しいな」
「喜んで貰えて良かった。偶にはやってみるものだね」
美空は、笑いながらそう言う。私が喜んだからほっとしたみたい。美空も可愛らしいところがある。これが、私を意識してくれた結果なのなら、もっと嬉しいのだけど……
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