衝撃の事実

 休日に美空と一緒に外を散歩していると、自然公園にラムネを売っている屋台を見つけた。


「あっ、ラムネ」


 美空も気付いたみたいで、声に出していた。


「懐かしい~、買ってくる」

「うん」


 美空は、ラムネを一本買って戻ってきた。


「そういえば、星那ってラムネ飲んだことある?」

「ないかも。美空が飲んでるのを見た事あるくらいかな」


 夏祭りに行った時でも、私はラムネを買った事はない。普通にジュースとかを買う方が多い。別に炭酸が嫌いなわけじゃないけど、何故だか飲んだことはなかった。

 そんな事を思い出していると、美空がラムネの蓋を開けた。炭酸ガスが抜ける音とビー玉が転がる音が鳴り、美空が慌てて手で飲み口を抑えていた。


「ふぅ、危ない危ない……っくぅ~、このキツい炭酸が良いね。星那も飲んでみる?」

「えっ……じゃ、じゃあ、飲んでみようかな」


 ボトル型の飲み物なら、飲み口に口を付けずに飲むことが出来る。そう思って、ラムネを受け取って傾けると、ビー玉が転がって蓋をされてしまった。


「あははは、飲み方も知らないよね。舌でビー玉を抑えて飲むんだよ」

「あっ、なるほど……えっ! 舌で!?」


 美空がそう言うという事は、美空もそうやって飲んでいたという事。前にもお弁当での間接キスで動揺したけど、これはそれ以上に動揺しちゃう。

 私が固まっていると、美空がお腹を抱えて笑い始めた。


「あはははは! ごめん、ごめん。ビー玉をそこの凹みに引っかければ良いだけだよ。まぁ、慣れないと難しいかもだから、舌で抑えて飲むのも有りだよ」

「意地悪……」


 言われたとおり、凹みにビー玉を引っかけて飲もうとするけど、中々上手くいかない。何度か挑戦して、ようやく一口飲む事が出来た。結構キツい炭酸に、顔を顰めてしまう。


「どう? 美味しい?」

「う~ん……美味しいけど、あまりごくごく飲めないかな」

「だろうね。それにしても、間接キスを気にして全然飲めないのは笑ったよ。今更、そんな事を気にする仲でもないのに」


 美空が言っているのは、そのくらい気兼ねしない仲だろうって事だと思うけど、好きな人との間接キスを気にするのは緊張する。まぁ、その事を知らない美空に察して欲しいというのは我が儘だけど。


「そもそも星那のファーストキスは、私が奪ってるし」

「ええっ!? 嘘っ!?」

「ホント。まぁ、星那は知らないだろうけど。あれは……いつだっけ? 四、五歳くらいだったっけ」

「そんな昔のことよく覚えてるね」


 美空の記憶力は本当に凄い。私が忘れている事でも、普通に覚えている。今回は、私は知らない事みたいだけど。自分の事みたいなのだけど。


「少なくとも小学生ではなかった。星那が遊び疲れて寝ちゃった後、星那の部屋で白雪姫を読んでたんだよね。それで、最後にキスで目を覚ますでしょ? あれを実践してみた感じ」

「寝込みを襲われてた……それで、私って起きたの?」

「ううん。起きなかった。何度かしたけど、反応無し」

「何度か!?」


 ファーストキスどころか、何度も唇を奪われていた。しかも、その事を私は覚えていない。嬉しいやら悔しいやらで、心の中はぐちゃぐちゃになっていた。


「あれから童話に対して冷めた気持ちになったんだよね……」

「へ、へぇ~……」

「まぁ、寝てたからノーカンで良いかもね。それに、小さい頃の話だし。まぁ、改めて奪って欲しいのなら吝かではないけど」

「えっ!?」


 まさかの提案に、顔が真っ赤になるのが分かる。きっと今の私は、茹で蛸くらい真っ赤だろう。


「冗談だよ。全くもうこれくらいで真っ赤になっちゃって。初心だねぇ」

「美空!」

「うわっ! 星那が怒った!」


 私をからかう美空を追いかけ回す。体力差と運動神経の差で絶対に追いつけるわけないけど、美空が本気で逃げる事はないので、私の体力が尽きる前に捕まえる事が出来た。


「つ、つかまえ……た……」

「本当に体力ないね。お詫びにジュースを買ってあげよう」

「オレンジのやつ」

「分かってる」


 美空がジュースを買いに行っている間に、私はベンチで座って休む。今日は、ずっと美空にからかわれっぱなしだ。こっちの気持ちも知らないで……

 あそこまでからかわれると、こっちも仕返しをしたくなる。この一年何も意識されない生活を送っていた事もあり、若干不満が溜まっていたのかもしれない。こっちからも積極的なアピールが必要だ。勇気が出ないとか言っている場合ではない。

 私も頑張らないと。うん。明日から頑張る。密かにそう決意した。

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