お天気雨

菜月 夕

第1話 お天気雨

 晴れた夕方、人寂しい廃道に入って歩いていると雨が降ってきた。

 空を見上げても雲一つ無い。狐の嫁入りかな。

 そう思って視線を戻すと遠くに狐達が並んで歩いて行く。

 私の視線を感じたのか一匹の狐が驚いた様にこちらを見たと思うとケーンと啼いて狐達は散り散りに逃げて行った。

 お邪魔しちゃったかな。私のほんのちょっとした気まぐれだったけれど、妙に想い出に残ったシーンだった。


 やったっ。これでボクの嫁入りも解消だ。

 嫁入り道中を人に見られたら不吉なのでその婚約はご破算になる。なんて都合のしきたりがあったもんだ。これであんなヤツの嫁に行かなくて済む。

 ボクの家もヤツの家も古い付き合いで、ヤツとも幼なじみだったけど、小さい頃からヤツには虐められていた。今なら少しは判るよ。可愛い女の子にちょっかいをかけたくなるってオトコノコの心理って。

 だってボクも男の子だもん。生まれた時に間違えられて家のみんなの期待もあったせいか、けっこう大きくなるまで女の子と思われて育てられたし、ボクも疑問なんて持っていなかったからね。 狐の嫁入りの小雨も収まってほんと晴々とした気分だった。


 そのノリで両家の合意で婚約も生まれてすぐには取り付けられていたんだ。

 そうなってしまうとボクが男の子として育ってくると、家の面子とかしきたりでそれをこちらから解消もできないし、ホントを明かす事もできなかった。

 そしてずるずるとこんな嫁入り道中まで行っていた。

 家に伝わる秘薬でオトコの印を極限まで小さくして胸も毒で少し膨らませ、ホンバンは陰間と呼ばれたオネイさんに習った房中術でごまかす予定だった。あんなヤツと決してヤリたくなんてなかったけれど、家のしきたりは中々崩せないものなんだ。

 でもこうして晴れてコトは無くなった。

 それにしてもさっきのオトコの人。優しそうな眼だったなぁ。

 同じヤルんならあんな人がいいなぁ。

 そうだ。是非、お礼に行かねば。ボクの好みはオンナノコとして育ってたからあんな人なんだ。

 ちょっと辛いけど、また秘薬と毒薬でオンナノコになってあの人のもとへ。

 大丈夫っ!オネイさんに習った房中術はオトコノコなんて気づかせない。

 きっとあの人に寄り添ってみせる。ボクはこう見えても齢二百を越している妖狐なんだ。

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お天気雨 菜月 夕 @kaicho_oba

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