7.立派すぎる部屋

 先ほど馬車乗り場から案内してくれた獣人達に連れられ、王の間からかなり離れた一室に辿り着いた。


 私の部屋は三階の端っこ。

 以前、来賓として訪れた際に案内された部屋は一階で、三階に立ち入るのは初めてだ。


 ビストニア王城はフロアごとに内装を変えているのか、統一感のあった一階とは違い、三階の廊下に飾ってある家具は高さがバラバラだ。


 花瓶などの割れ物は私の腰ほどの高さに飾られていることが多いが、絵画は瓶と同じくらいの高さに飾られたものもあれば、私の頭よりもずっと高い位置に飾られたものもある。


 低い位置にあるものはともかく、高い位置に飾られた絵は足を止めて見上げたとしても、何が描かれているのか当てることは難しそうだ。


 だがそれは私視点の話であり、今、私を案内してくれている獣人からすれば低い位置の絵はしゃがんだとしても見るのは大変なのだろう。位置がバラバラなのは身長に配慮されているから。案外、全く同じ絵が飾られているのかもしれない。



 思えば家具だけでなく、窓もギィランガ王国より大きめだ。

 だからというわけではないのだろうが、チラッとだけ見えた景色はとても開けていて、キラキラして見えた。


 周りに気を取られている間に目的地に到着したようだ。案内人の一人がドアを開けてくれる。


「こちらがあなたに過ごしていただく部屋となります」

「わぁ!」


 とにかく全てのサイズが大きい。ベッドなんて身体の小さな女性なら二十人は寝られる。

 むしろベッドほどのスペースが用意されて、ここがお前の部屋だと言われても素直に受け入れられる。


 これまで宿泊させてもらっていた部屋は全て人間のサイズに合わせて作っていただけだったようだ。


 窓も大きく、先ほどはよく見られなかった景色もゆっくりと堪能できそうだ。

 家具も色々と取り揃えてくれている。正直、実家の自室より充実している。


「こんなに立派なお部屋をありがとうございます」

「は?」

「立派?」


 予想外のリアクションに、はて? と首を傾げる。すると彼らもまた私と同じ方向に首を傾げた。


 どうやらこれがビストニア王国の普通らしい。

 いや、人質ということを考えると普通以下なのかもしれない。思えば王の間にいた獣人は大柄から超大柄な人ばかりだった。



 一口に獣人といっても種族が細かく分かれる。

 現国王の直系は狼族だが、王族でも種族は様々だと聞いている。それに城内の部屋を使用するのは王族に限定されたことではない。


 エリアは分かれているが、使用人に貸し出された部屋や客人用のゲストルーム、夜会の際に開放されるレストルームなど、用途が異なる部屋がいくつも用意されている。


 目の前の彼らは犬族・猫族・クマ族か。他にも城内には虎や牛、鳥、ネズミ、ウサギ、羊、猿の獣人などが働いているらしい。


 ネズミは身体が小さいイメージなのだが、小柄の獣人は見たことがない。ネズミ科に属するというだけで、そこからさらに細かく分かれていくのだろうか。


 小柄の獣人がいなければ、廊下に飾られていた絵の高さの説明ができない。


 だがギィランガ人と接する際は、威圧の意味を込めて体格のいい獣人のみを配置していたのだと言われれば納得できてしまう。ハイド王子に効果があったかはさておくとして、私がビストニア王国側ならそうする。



 部屋の大きさは身体のサイズにかかわらず一律になっているとか?

 我が国は獣人との交流が少なかった、というよりも毛嫌いしている者が多かったため、獣人に関する資料がほとんど残っていなかったのだ。


 ビストニア王国を筆頭に、獣人が暮らす国を何度も訪れている私ですら、彼らに関する知識がほとんどない。獣人がいる場所でハイド王子から目を離すなんて恐ろしいことはできず、彼らと交流する時間もなかった。


 疑問は残るが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 他にもっと大切なことがある。これほど広ければ隠れ場所も多そうだ。隠密ローブを被ってやり過ごすこともできそうだとプラスに考えることにした。


 部屋をクルクルと見回す私を、彼らは困ったように見守っていた。

 やがておずおずと「俺達もう帰っていいですか?」と声をかけてきた。気を遣わせてしまっていた。



「あ、長々とお引き止めしてすみませんでした」


 ペコリと頭を下げてから獣人達を見送る。身長の高い彼らにとって、私と話すのは首の負担になっていたらしい。揃って首を左右に捻っていた。


 獣人達が去った後、トランクを開く。持ってきた服をクローゼットに詰めるついでに隠れ場所を探そうと思ったのだが――。


「快適な暮らしってなんだろう……」

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