111. また褒賞のようです

 ネイサン様とのダンスの後、少ししてからクラウスと一曲踊った私は、パーティーの終わりまで他の貴族達との交流に励んだ。

 わざわざ装飾品まで用意したのは、他の貴族に悪い印象を持たれないようにする意味もあったのだから、目的を果たさないなんて勿体無いこと私には出来ないのよね。


「貴女様が噂の聖女様……お会いできて大変光栄でございます」


「聖女だなんて……私はただの冒険者ですから、普通に接して頂けると嬉しいですわ。」

 

 私が聖女だなんていう根も葉もない噂を解くのには苦労したけれど、人脈づくりは成功したと思う。

 クラウスが私でも手が届かないような交渉術を発揮したこともあって、終盤になると八割近い貴族達と友好関係を結べたのだから。


 そうして私達が最後の一曲を踊り終えると、皇帝陛下がこんな呼びかけをする。


「皆の者、今日は大事な知らせがある。

 このパーティーが帝都を魔の手から守り切ったことを祝うとものだというのは、最初に説明した通りだ。しかし、戦いの中で多大なる活躍をした者達が居たことを忘れてはならない。

 これから、その者達に褒賞を与えようと思う。もう少しだけ、お付き合い願いたい。

 褒賞に異論がある者は、その場で手を挙げるように」


 その言葉が終わると宰相様が陛下の隣に歩み出て、貴族の名前を読み上げ始めた。

 最初に呼ばれた人たちは、主に私兵を率いて貢献した方たちのようで、報奨金が支払われていく。


 次に呼ばれた人たちは自らも戦って功績を残した方のようで、報奨金と勲章が授与されていた。

 この時点で報奨金は聖金貨千枚。そんなものが十人以上に渡せる帝国の国力は、やっぱり恐ろしいわ。


「私達、まだ呼ばれないわね?」


「立役者は最後に呼ばれるのだろう。楽しみに待とう」


「報奨金が恐ろしいわ……」


 そんなことをクラウスとお話していると、ついに私達が呼ばれてしまった。


「シエル・グレーティア殿とクラウス・レイノルド殿はフレイムワイバーンの大半を討伐したことが分かっている。彼女達が居なければ、帝都は焼け野原になっていただろう。シエル様に至っては、多数の怪我人を救ったことも明らかになった。

 よって、シエル様には男爵位と聖金貨一万枚を、クラウス様には聖金貨一万枚を授けようと思う」


 ……聖金貨二万枚って、一体どれくらいの額になるのかしら?

 立派な屋敷が二つ建ってもお釣りが来てしまうわ。


 それに、男爵位だなんて。帝国の男爵家は基本的に領地を持たないから、領地を統治しなくちゃいけない心配は無いけれど、帝国であっても爵位を持つのは男性なのよね。

 女の私が爵位なんてものを持ったら、反発が起こってしまうに違いないわ。


「ありがとうございますわ」


「ありがとうございます」


 礼儀としてお礼は言ったけれど、爵位は丁重にお返ししたい。

 誰かが異論を示すために手を挙げてくれれば、考え直してもらえるのだけど……。


 そんな期待をしていたら、五人くらいの方が手を挙げる様子が目に入った。


「貴殿から異論を申してみよ」


「帝都をほぼ一人で守ったという方に対して、男爵位というのは低すぎではないでしょうか?」


「確かに貴殿の言う通りだ。しかし、シエル様はアルベール王国の出身である。あの国は問題が山積み故、不安要素を解消してから格上げするべきだと判断した」


「なるほど、そういう理由なら納得出来ます」



 皇帝陛下の言っている通り、アルベール王国は本当に危険な状態なのよね。

 でも、爵位を頂けるということは帝国の臣民として認められるということにもなるから、王国が崩壊したときのはすごく助かることになる。


 だから心配事が拭えたら、喜んで頂きたいとも思ってしまう。

 でも、少し欲を出してしまったから、爵位が遠のきそうな発言が飛び出してしまった。


「さて、次は貴殿の意見を聞こう」


「はい。シエル様の功績がとてつもなく大きいことは理解しています。しかし、女性が爵位を持つというのは……あり得ないことです。どうかお考え直しを」


「貴殿の言いたいことは良くわかる。我が国では家督は長子かつ男子が継ぐものとされている。しかし、それはあくまでも慣例によるもので、女性が継いではいけないという理由は無い。

 そもそも男子が継いでいた理由は、男子の方が優秀だと考えられていたからだ。しかし、世を見渡してみれば優秀な女性も数えきれないほど現れている。優秀な者を慣例という下らぬ理由で潰す理由は無いだろう」


「確かに、その通りではございます。しかし……」


「気持ちは良く分かる。この提案を妻から受けた時は、余も絶句したものだ。

 しかし、革新出来ぬ国はいずれ滅びへと向かう。この意味が分かるかね?」


「革新、ですか……。確かに、一理あります。

 しかし、常識がこれではシエル様も苦労することになるでしょう」


「シエル嬢に爵位を授けることは公爵と侯爵全員が納得している。苦労はしないであろう」


「左様でございますか……。そういうことでしたら、今は受け入れようと思います」


 皇帝陛下の説明のお陰で私の心配事は拭えたのだけど、予想通り私が爵位を授かることを快く思っていない人もいることも分かってしまった。

 男爵位は帝国の政治に関わるだけの名ばかりの爵位と揶揄されることもあるのだけど、爵位を持っているだけで皇帝陛下からお給金が支払われるようになっているらしい。


 領地を持っている貴族は、領地の税収の一部を皇帝陛下に納めないといけないのだけど、男爵ならその必要もないから、冒険者も続けられる。

 ……お給金を貰わなくても一生暮らせるだけのお金はあるのだけど、冒険者はやっていて楽しいから続けたいと思っているから、男爵で収まったのはすごく助かるのよね。


「他に異論のある者は居ないようだから、これにてパーティーはお開きにしようと思う。

 皆、参加してくれたこと感謝する」


 皇帝陛下の言葉で無事にパーティーがお開きになったから、私達はエイブラム家の馬車で帰路についた。

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