25. side 国王の悩みの種

 リヴァイアサン討伐の数刻前のこと、王宮では一つの議論が交わされていた。


「聖女様ならリヴァイアサンを討伐出来るはずです!

ここは我が王国の権威を示すべきだとは思いませんか?」


「思いませんな。聖女様は怪我を治せる稀有けうな存在。もしも万が一があれば、権威を示すどころか王家の失墜にも繋がりますぞ」


「しかし伝記には聖女様がリヴァイアサンを倒したとあります。全ての魔法に秀でている今代の聖女様なら、成し遂げられるでしょう」


 この場に会する貴族の過半数は、伝記を根拠にリヴァイアサン討伐を主張している。

 しかし聖女を養子とし保護しているカグレシアン公爵を筆頭に、反対している貴族も多い。


 そんな状況に終止符を打てるのはただ一人、国王のみ。しかし、どこかの王太子がサボったために溢れかえっている執務から逃げられない状況。

 打開するのは困難かのように思われたていた。


 しかし、この騒ぎを耳に国王が駆け付け、一言だけ発した。


「万が一に備えて軍を動かせば、隣国に隙を見せることになる。ここは冒険者ギルドに任せるべきであろう」


「へ、陛下がそうおっしゃるのなら……」


 まさに鶴の一声で、ピリピリとしていた空気が一転して穏やかになる。

 ちなみに鶴と言うのは、周囲の魔物を従えることが出来ると言われている魔物であり、討伐にはAランク以上の冒険者でないと難しいとされている。


その鶴こと国王は絶対。周囲の貴族達の反応は当然の結果だった。


 しかし国王の内心は、少しばかり違った。


(軍を動かせば出費が増える。そうすれば損をするのは我ら王族、そして貴族だ)


 自らの贅沢のため、に国民の安泰のためにと、この決断を下している。


「陛下。話がお済みでしたら、お戻りください。

 今日中に終わらないと陛下の評価が下がりますよ? そうですね、王家に入る予算が減るかもしれません」


「分かっておる。直ぐに戻る」


 国王の本心を察しているのは、執事達のみ。

 貴族達は、国王が口にした言葉を鵜呑みにしていた。




 しかし、その判断が功を奏したと思える出来事が起きた。


「報告致します! リヴァイアサンの報告があった海から大波が押し寄せ、複数の船が転覆しました!」


 今度は飢饉対策が話し合われていた頃に、そんな報告が入ったのだ。

 続けてリヴァイアサンの反応が消えたという報告も入ってくる。


 魔物というのは離れていても探知の魔道具である程度居場所が分かる。

 けれども、反応がやや遅れていたり、種類や強さまでは特定出来ない欠点から冒険者にはゴミ扱い。


 それでも国防の観点からは重要であり、どの国にも最低でも一つは存在している優れものになっている。


「聖女様を出さなくて正解でしたな。船が転覆すれば聖女様でも無事では済みますまい」


「ええ、陛下の言葉は正しかったようですね」


 貴族達が称賛する一方で、同じ報告を聞いた国王は頭を抱える。

 転覆した船の中に、隠そうとしていた自らの財産が含まれていることに気付いていたからだ。


 大量の書類に財産が失われたという現実。

 この状況に、国王の頭から数本の毛髪が抜け落ちていた。


 その様子に、毛根が死滅寸前な執事がほくそ笑んでいることは、誰も気付かなかった。

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