24. 襲撃されない理由
冒険者ギルドでの報告を終えて、少し早めの昼食を済ませた私達は、今日泊まる場所に向かうことになった。
ちなみに、リヴァイアサンを倒したことで私のギルドカードは銅色から青銅色に変わった。
銀色まであと少し。リヴァイアサンのような魔物と遭遇することはしばらく無いと思うから、コツコツと依頼をこなそうと決めた。
決意を胸にする私の斜め前を進むクラウスは、迷いを見せることない。
けれども道沿いに見えるのは、いかにも貴族が住んでいそうな屋敷ばかり。
宿なんて無さそうだから、クラウスは迷っているのかしら?
ここまでの道は覚えているから引き返すことは出来ても、大丈夫か心配になってしまう。
まるで何度も来たことがあるような動きだけれど、本当に大丈夫かしら?
「よし、着いた」
「どう見ても貴族の屋敷よね……?」
そんな私の心配を
今までの彼の言動や素振りを見ていれば予想のついたこと。
けれど、こんな形で正体を明かされるとは思っていなかったから、この敷地に足を踏み入れるのを躊躇ってしまった。
「ここは俺が拠点にしてる屋敷だ。遠慮せずに入って欲しい」
「クラウスも貴族だったのね?」
「いや、貴族では無いよ。Sランクになれば屋敷の二つや三つ、普通に買えるんだ」
貴族ではない。その言葉を聞いて安心する私。
普通なら貴族と親交を持てた人は喜ぶのだけど、今は貴族と関わりたくないのよね。
だからハッキリと否定してくれて嬉しかった。
彼の正体は何かの事情で隠しているのだと思うけど、所作から貴族との関わりが多い商家の出だと予想した。
商家は貴族に嫌われたら生活出来なくなってしまうから、マナーに関する教育は貴族よりも厳しいと聞いているのよね。
仲が良かった商人さんが揃って口にしていたから間違い無いと思う。
「Sランクって凄かったのね」
「シェルも片足突っ込んでるけどね? 次は何を倒すのか楽しみだよ」
「倒す機会が無いように祈っておくわ」
冒険者カードを銀色にするために功績は欲しいけれど、あんなに怖い魔物と戦うのは避けたい。
だから今の言葉は紛れもない本心だ。
「Sランクと戦うのは命懸けだから、俺も同じ気持ちだよ。Aランクだけでも十分に活動出来るから。
とりあえず入ったらどうだ?」
クラウスも同じ考えのようで安心する私。
けれど手招きされると別の不安が出てきてしまう。
「入った瞬間に黒ずくめの人達が出てきて捕まったりしないわよね?」
「無い無い。この屋敷には俺しかいないから。
不安なら気配を探ってから入って欲しい」
「そうするわ」
言われた通りにしてみると、この屋敷の敷地には本当に誰も居ないと分かった。
周りの屋敷からは強い魔力を感じるから、廃墟というわけでは無さそうね。
「お邪魔しますわ」
「どうぞ」
短いやり取りに続けて、門をくぐる私。
それからクラウスが鍵を開けて中に入ると、飾り気のない玄関ホールが目に飛び込んできた。
装飾品は壁に取り付けられているものだけで、よく貴族の屋敷にある置物の類は見当たらない。
けれど掃除は行き届いているみたいで、埃っぽさは無かった。
これなら快適に過ごせそうね。
見ず知らずの人と一緒なら、全力で逃げるところだけれど、クラウスとなら襲われる心配も無さそうだから安心出来る。
「護衛は居ないのね?」
「襲撃者くらい
「たしかに、クラウスの言う通りだわ」
Sランク冒険者は強い。これは平民でも知っている常識だ。
だから余程の間抜けでも無ければ、盗みに入るという発想にもならないと思う。
「とりあえず、掃除するからそこで待っていて」
「分かったわ」
心配事が吹き飛んだから、言われた通りに立ち止まって様子を窺う。
すると魔法の気配がしたから、思わず身構えてしまう。
けれどその魔力が私に向かってくることはなくて、風魔法と水魔法が混ざり合ったものが床や天井、壁を撫でながら進んでいく。
通り過ぎた後の床は水滴一つ残っていないのはどういう仕組みなのかしら?
でも、これなら一人でも屋敷を綺麗に保てそうだわ。
「すごいわね……」
「ついてきて」
「え、ええ……」
サーッと音を立てながら階段を流れ上っていく水魔法の後を追う私。
そうして案内されたのは、一人では使いきれなさそうな広さの部屋だった。
「内側から鍵をかけられる部屋はここと俺が使っている部屋しかないのだが、ここでいいだろうか?」
「ええ、十分すぎるくらいだわ」
宿代が浮いて、服が
文句を言う理由なんて欠片も無かった。
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