23. 大金は怖いです
船内に戻って下船の準備を終えた頃。
私達は船長に呼び出されることになった。
「この度はリヴァイアサンを討伐して下さって本当にありがとうございました」
「冒険者として当然のことをしたまでです。礼は不要です」
今も男装中だから男の子の声を作って受け答えをする私。
けれど、横にいるクラウスに肩を突かれてしまった。
「礼は貰っておくべきだよ。貴族の腹の読み合いじゃない、俺達は冒険者なんだ」
「そうだった……」
「まさかこれ以上の結果を求めたりはしませんよ。
お礼も着岸後にお渡し致します!」
私達のやり取りを見て、笑いながら口にする船長さん。
この人は見た目は怖いのだけど、性格は穏やかみたいで、穏やかな笑みを浮かべている。
でも、小さい子が見たら泣きそうだわ。
「そろそろ入港なので、私はブリッジに上ります。入港までお部屋でお待ちいただけますか?」
「分かりました」
……というやり取りから、どうして聖金貨の束が生まれるのかしら?
港に着いて商人ギルドに案内された私達の前に用意されているのは、金貨百枚分の価値がある聖金貨が十枚。金額に治すと一千万ダルだ。
これがあればマジックバッグが買えてしまう上に、王都の外れの家を買ってもお釣りがくる。
控え目に言って、商人ギルドの頭がどうにかしたとしか思えない。
ちなみに、私が起こした魔法の余波で海沿いには大波が押し寄せたそうだけど、魔物対策で堤防が築かれているから無事だったみたい。
不安だったけれど、聞いた時は安心したわ。
「これだけでは不満でしたか……?」
「いえ、あまりの大金に放心していただけです」
貴族なら驚かない金額でも、伯爵家の仲では一番貧しかった家で暮らしていた私にとっては驚くほどの大金なのよね。
聖金貨なんて、両手で数えられる回数しか触ったことが無い。
お父様とお母様は王家からの支援のお陰で何度も触れたことがあるみたいだけれど、私にそのお金が回ってくることは
でも、奪ってくる人達とはお別れしたから、この半分は私が自由に使えるのよね……。
贅沢する生活とは無縁だったから、自由に使えるお金が手に入っても使い道に困ってしまう。
貯金してマジックバッグを買おうかしら?
「確かに聖金貨を目にする機会は少ないでしょう。そちらの方は慣れているようですがね」
「よく言われます」
Sランクになると、これが日常になるみたいだから、クラウスはかなりお金持ちな気がするわ。
それから少しの雑談を交わした私達は、商人ギルドを出て冒険者ギルドに入った。
今度はリヴァイアサンの討伐を報告するために。
「この魔石の鑑定をお願いします」
「承知しました」
魔石を鑑定台の上に置くと、担当の人は目を見開いて固まってしまった。
周りを見れば、周囲の人も間抜けな顔でこちらを見てきている。
「あれ、Cランクだよな……嘘だろ」
「SランクとCランクでも、あの魔石は無理だろ。どうなっていやがる」
「弱っているところを偶然倒したのか?」
「あの魔力量でそれは無いだろ」
担当の人よりも先に復活した周りの冒険者たちが、興奮気味に話している声が聞こえてくる。
Sランクの魔物はそれくらい倒すのが難しいという事らしい。
でも、私が倒せたのはクラウスが持っていた魔石があってのこと。決して私だけの功績だとは思えなかった。
「シエルさんとクラウスさんだけで倒されましたか?」
「いや、Aランクが八人いた。彼らの攻撃は一切効いていなかったから、殆どシエルの功績だと言い切れる」
「そうですか。しかし、Cランクの方がほぼ一人、というのは信じがたいですね……」
冒険者の仲にも嘘をついて功績を横取りしようと考える人は居るみたいで、疑いの視線を向けられてしまう。
けれど、同じ船に乗っていた冒険者達もこの場に居て、声を挟んでくれた。
「子供のくせに、と思うのは分かります。だが、コイツはリヴァイアサンを一撃で倒していた」
「皆さんがそうおっしゃるのなら、間違い無さそうですね。
調査の手間が省けます」
どうやら成果が大きすぎると調査が入ることがあるみたいで、証言してくれた人達にお礼の言葉が向けられる。
そして私達に向き直ると、こんなことが告げられた。
「リヴァイアサンの賞金ですが、十億ダルになります」
「そんなに……ですか?」
「シエル、気を確かに」
十億ダルといえば、グレーティア伯爵家が王家から頂いていた支援金の半分で、領地から出ていた利益とほぼ同じ額になる。
クラウスとは折半だけれど、それでも五億ダル。こんな大金を手にするのは初めてだから、恐怖で血の気が引いていく感覚に襲われてしまった。
「本来は千人規模のチームを組んで行うのでこの額なんです。
ですが、現金をすぐに用意することは難しいので、口座に直接入れておきます」
「分かりました。クラウスと半分ずつでお願いします」
「承知しました。振り込みましたので、確認をお願いします」
目の前にお金が出てきたら、失神してしまうところだったわ……。
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