22. 綺麗な石
「攻撃が止んだぞ……!」
幻惑魔法に成功すると、早速周りから歓声が上がる。
今私が見せているのは、この海に何も無いという幻惑だけれど、それだけで誤魔化せているみたい。
魔物も知能を持っているけれど、人でも騙せてしまうこの魔法なら魔物も騙せるのよね。
ちなみに、この船は帆船で風の流れに合わせて進んでいくから、少しずつリヴァイアサンの方に向けて進んでいる。
「よし、今のうちに攻撃するぞ!」
「攻撃始めッ!」
クラウスが指揮官よろしく腕を振ると、弓矢や火魔法が一斉に飛び出していく。
私も幻惑魔法はそのままに、火属性の魔石を取り出した。
「おい、なんだよあの化け物……」
「手応えが無いぞ……」
どうやら攻撃は一切効いていないらしく、遠見の魔法でよく見ると当たった弓矢が全て弾かれてしまっている。
弱点の火魔法だって、表面に少し傷を付けるだけだ。
「うーん、手応え薄いな。流石はリヴァイアサンだ」
「クラウスでも無理なのかな?」
他の冒険者に聞かれても大丈夫なように、男の子の声を作って問い返す。
彼の魔法だけは確実に傷を増やしているけれど、致命傷には至らないらしい。
そもそもリヴァイアサンは、本来なら軍を率いて相手にする魔物で、少数で倒した例は聖女様の時だけ。
「時間さえかければ倒せるが、倒し切れるかは怪しいな」
そう言っている間に船はリヴァイアサンの近く間で来てしまった。
魔法は距離が近くなるほど効果が高くなるから、その分傷も増え始めたけれど……これでは倒すことは出来なさそう。
「僕も参加するよ」
「幻惑魔法は大丈夫なのか?」
「うん」
本に書かれていたことを思い出しながら、特級魔法の詠唱をしていく。
けれども、魔法式そのままに詠唱していたら魔力が全然足りない事に気付いたから、効率が上がるように改変して続けた。
「火の魔石、余っていない?」
「まだあるぞ」
改変してみても全然足りなくて、たくさんの魔石を使う羽目になってしまった。
でも、これで攻撃魔法は完成出来る。
効かなかった時のこと、これだけの魔石の金額を考えると恐ろしいけれど、意を決して魔法を放つ。
「全員しっかり掴まってろ!」
「おいおい、リヴァイアサンよりもヤバいぞ」
轟音が聞こえてきたと思ったら、船が大きく揺れる。
特級魔法の余波がこんなに酷いものだとは思わなかったから、背筋を冷たいものが流れていく感覚がしてしまう。
けれどリヴァイアサンは大きな穴が空いて、魔物の気配も消えている。
「倒せたな。今の魔法、すごかったぞ」
「ありがとう。やり過ぎた気がしたけど、大丈夫だった?」
「手を抜いたら倒し切れなかったはずだよ。俺、これでもSランクなんだけど軽々と抜かれた気分だ……」
褒めてくれた後に落胆するクラウスだったけれど、船がリヴァイアサンの隣を通りかかった時、風魔法で亡骸を持ち上げていた。
そして手早く解体していって、中心にある魔石を私に差し出してくる。
「これは倒した人が持っていてほしい」
「うん、分かった」
魔石は一番の貢献者が持っておく。これは冒険者ギルドが決めたルールだから、素直に受け入れた。
想像していたよりも重たかったから身体強化の魔法を使いながら手に取る。
透き通った水色の綺麗な球体。桁外れな魔力が詰まっているというのに、見ているだけで心が洗われそうだわ。
ちなみに、魔石は強い魔物ほど透明で綺麗な球体になるから、これを見ればリヴァイアサンの魔石だと分かる。
魔物の種類の判別には鑑定の魔道具を使うから確実に判別してもらえるらしい。
「今日はお祝いだな!」
「港に着いたら飲むぞ! あ、でも君はまだ飲めないか……」
「うん、遠慮しておくよ」
冒険者のお祝いには興味があるけれど、残念なことに私はお酒に強くない。
だから誘いは受けないでおく。
アルベール王国では十六歳で成人だから私も口にした事はあるのだけど、周りの貴族が十杯以上飲んでいるなかで私はたったの五杯で限界だったのよね……。
その後は足元がおぼつかなくなって、侍女に迷惑をかけてしまった。
こんな失敗をしてからは、お酒はあまり口にしていない。
「あんたはどうだ?」
「仲間が参加しないから、今回は止めておく」
「そうか、分かった。
主役が居ないのは残念だが、航路の安全を願う宴にしよう!」
それから冒険者達は甲板で盛り上がり始めたけれど、私達は下船の準備をしなくちゃいけないから、船内に戻ることにした。
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