16. 騙されていました
「お待たせしました。こちらでお揃いでしょうか?」
「大丈夫です」
料理が運ばれてきて、そう返すクラウス。
ここは港にあるレストランで、周りには貴族の姿もある。
あのお方は子爵令息で、もう一人のご令嬢は他所の家の方ね。あの子爵令息は婚約者が居たはずなのだけど、他のご令嬢と親密な関係になっているらしい。
ええ、見なかった事にしましょう。
貴族社会は今の私には関係の無い事だから。
料理の方に目を向けると、滅多に見れない海の幸がふんだんに使われていることが分かる。
半分以上魔物だけれど、海の魔物は強いから市場に出回ることは殆ど無い。
平民でも口にすることが出来るのは、きっとここだけだ。
期待しながら口に運ぶと、程よい歯ごたえが返ってくる。
味付けも文句なしで、すごく美味しい。
「
「ええ、本当に
美味しい料理ほど進むものだから、あっという間にお皿の上が空になる。
けれど時間は思っていたよりも過ぎていて、船の時間が迫っていた。
今日の昼食は二人合わせて四万ダル。ワイバーンの牙が無ければ食べれない金額だけれど、クラウスにとっては安い方らしい。
普段はどんな食事をしているのか、気になってしまう。
けれど今は船の時間が先だから、小走りで桟橋に向かう。
空いていたのは二人部屋が一つだけ。
丸二日間の航海だけれど、先週一隻の船がリヴァイアサンという魔物に襲われて沈没したみたいで、明日と明後日は船が出ないのよね。
だから、ここで時間を無駄にするよりも、クラウスと同室になる方を選んだ。
婚約者が居ない今なら、殿方と同じ部屋に泊まっても何も問題ないのだから、文句も言われない。
襲われる危険はあるけれど、ここまで私を守ってくれていた彼なら問題無いと思う。
襲うつもりなら、とっくに襲われているはずなのだから。
「切符を拝見します」
「お願いします」
「どうぞ、ご乗船ください」
パチンと音を立てて穴を空けられた切符を受け取って、船に乗り込む私達。
この船は平民も貴族も乗れることになっているから、中は綺麗に整備されている。
「一〇三号室はここね」
「そうみたいだな」
唯一取れた一等室は貴族向けの部屋だから、中も広々としていて過ごしやすそうだ。
揺れる船の中だから調度品は最低限だけれど、ベッドやカーペットは上質なものが使われていると一目で分かる。
その分料金もお高くて、二人で三十万ダル。
ええ、このままだと破産しそうで不安だわ……。
「そうだ。シエル、これを持っていて。
海で魔物と遭遇したら、戦わないといけない。剣は届かないから、魔法か弓矢で戦うことになる」
「分かったわ。ありがとう」
魔力が少ない私でも、魔石の魔力を使えば攻撃魔法を扱える。
だから、この魔石を使って戦うようにという意味だと受け取った。
「使える属性が分からなかったんだけど、大丈夫だった?」
「どの属性も扱えるから問題無いわ」
「それは便利だな。羨ましいよ。俺は火と風と土しか扱えないからな……」
確かに私は全ての属性に適性があるから、最初は羨ましがられる。
支援魔法などの無属性、治癒魔法や攻撃魔法に浄化魔法の光属性、阻害魔法や弱体魔法に攻撃魔法の闇属性。厄介な幻影魔法や幻惑魔法、それから精神汚染の魔法も闇属性に入る。
火や風、水や土は文字通りの効果がある魔法で、普段の生活でも役に立つ。
火魔法に水魔法の攻撃を当てて相殺するなんて芸当も出来るから、攻撃魔法を扱えないと魔法を使う意味が無いと言われてしまうのよね。
それに私が工夫して自分だけに使えるようになった無属性魔法と治癒魔法は、他人には効果が無いからこれも無意味と言われてしまった。
王家は大量の魔石を用意して私を利用しようとしていたみたいだけど、他の貴族からの評価は底辺そのものだった。
「でも、魔力が無いから普段は何も出来ないの。私からすればクラウスが羨ましいわ」
「無属性魔法は普通に使えていたよな? 魔石さえあれば可能性は無限大なんだ。本当に羨ましいよ」
そんな事情で、私の魔力量を知った人は大抵馬鹿にしてくるのだけど、クラウスは蔑む気配は一切見せなかった。
それどころか才能だの天才だのと
蔑まれるより褒められた方が嬉しいけれど、初めての経験だからくすぐったい。
「そんなに褒めても何も出来ないわよ……?」
「魔石なら沢山あるからな。特に光と闇は使える人が少なくて売れないから、かなり余ってるんだ」
「冒険者でも少ないのね……」
「水とか風なら使い手も多いから、沢山売れるんだけどね」
おかしいわね……。
王妃教育では、魔法を使える人は平民には殆ど居ないと教わったのだけど、クラウスの話を聞いていると違うと分かる。
貴族は最低でも二つ以上の属性を扱えることが殆どで、平民は一属性だけ使える人でも珍しい。
その中で聖女様は全属性を扱えるうえに魔力量も多いからと崇められていたのだけど、今ならそれすらも怪しく感じてしまう。
私に配慮した結果なのかもしれないけれど、ずっと騙されていたらしい。
教育係の王妃様は仕事を押し付けてはきたけれど、面倒見は良くて信頼していたから残念だわ。
それにアルベール王国で良くないことが起きている嫌な予感がしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます