15. side 後手に回る王家
シエル達が王都を出てから数時間後のこと。
王宮では今日も問題が起きていた。
「は、母上……何故それほどまでに怒るのですか?」
「当然です。女性の気持ちを弄ぶ男は許せませんから」
外交から帰ってきたばかりの王妃が王太子に向かって雷を落とし、空気が凍り付く玉座の間。
王妃はシエルのことを可愛がっていたのだから、この反応も使用人達は予想していたものだ。
もっとも王太子と一緒になって仕事を押し付けていたから、シエルから見れば関わりたくないと思われている。
そんな現実には気付かないまま、過ちを問い詰めていく王妃の姿に、使用人達は何も口出し出来ずにいた。
「聖女アイリスと何をしたのですか?」
「夜にこんな風に抱きしめ合いました。そしたら、アイリスが子を授かったと発覚して……」
「抱き合ったというのは、比喩ではなく文字通り抱き合っただけなのですか?」
「そうですけど……」
息子がまだ小さい頃は、確かに抱きしめ合えば子を授かると説明していた王妃。
しかし、王侯貴族なら跡継ぎを確実に残すため、然るべき時期に真実を教わるのが常識だ。
サボっていた王太子は学んでいないから、こんな勘違いが起きている。
「はぁ……。これなら、まだ取り返せますわ。
今すぐにシエルさんに頭を下げて、戻ってもらいなさい!」
「な、なぜですか? 俺はアイリスだけを愛しているんです! 今更婚約を結び直すなど」
王太子が婚約者意外と過ちを犯したという情報だけでも醜聞なのに、相手である聖女が授かっているのは王家以外の人間との子。
これ以上無い厄介事に、王妃は頭を抱えたい気分に苛まれた。
「馬鹿息子! 言い訳せずに行動なさい!」
「は、はい……!」
再びの落雷に、国王と王太子がビクりと身体を震わせる。
国王は無関心を貫いていて、ただ驚いただけ。
けれど王太子の行動は早かった。
すぐに騎士団に向けて、シエルを呼び戻すように指示を出す。
しかし、一時間後に戻ってきた報告は王太子にとって期待外れのものだった。
「申し訳ありません。シエル様はグレーティア家を出ていったそうで、捜索しているところでございます」
「報告致します。シエル様は王都を出て北西に向かったようです。我々の予想では、港町ポートルに向かっているものと思われます」
シエルが行方不明になっている。
その事実に、王妃は再び雷を落とした。
怒ったところで解決しないのは火を見るよりも明らかだけれど、都合のいい話し相手が居ないことの苛立ちをここぞとばかりにぶつけている。
それに耐えきれなくなった王太子は現実逃避に走り、聖女アイリスの部屋に閉じこもった。
保護対象である聖女の部屋に入ることを許されているのは、王太子と侍女達だけ。
目の敵にされている王妃では鍵を開けることも叶わない。
「面倒なことになりましたな……。そろそろお暇を頂きましょう」
こうして、執事の毛根の死滅に終止符が打たれようとしていた。
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