14. 馬よりも早く
あれから数時間。
私達は順調に旅路を進んでいた。
手間取ったのは最初のガルムだけで、その後は欠片も苦労しなかった。
けれど驚くこともあった。
「まさかワイバーンに乗って移動することになるとは思わなかったわ」
「この方が早くて楽なんだ。シエルに馬術の心得があって助かったよ」
今、私達はワイバーンの背中に乗って移動している。
ワイバーンを従えたわけじゃなくて、攻撃してきたところを捕まえて背中に乗っているだけ。
ワイバーンからすれば、恐ろしい相手にずっと襲われている感覚になって必死で飛んでくれるらしい。
けれど首が向いている方向にしか飛べないから、身体強化の魔法をかけた状態で首の向きを変えると飛ぶ方向を変えられる。
操り方は馬術に上下の動きが加わっただけだから、言われるままに試したら出来てしまった。
「そうね。でも、最初は怖かったのよ?」
「慣れたら問題無いだろ。振り落とされることも無いからな」
問題は馬の五倍の速さがあることだけれど、これも慣れれば気にならない。
「ええ、馬よりも乗り心地が良いから気に入ったわ」
「追われた時はこれで逃げれば大丈夫だから、覚えておくと良いよ」
そんな風に言葉を交わしながら、山を迂回するために首の向きを少しだけ曲げる。
すると身体が傾いて、思い通りの方向に曲がってくれた。
動かす時に少し揺れるけれど、首をしっかり掴んでいるから落とされたりはしないと思う。
乗馬の方が難しいのよね。
「町には寄るのかしら?」
「いや、また捕まえるのが面倒だからこのまま行きたい」
「分かったわ」
最初の計画で寄る予定だった町を通り過ぎて、先を目指す私達。
それから数時間で目的の港町の近くに来ることが出来た。
「どうやって降りるのよ?」
「地面の近くまで降りたら、首を一気に上に向けるんだ。そうすると止まるから、飛び降りて。
すぐに剣で斬れば素材も手に入る」
「分かったわ」
ここまで運んでくれたのに殺してしまうのは申し訳ない気持ちになってしまうけれど、ワイバーンは危険な魔物だ。
放置していれば誰かが命を奪われてしまうから、降りたらすぐに首を斬った。
「よし、無事に着いたな」
「こんなに早く着くとは思わなかったわ」
ワイバーンの牙もオークの角も集まっているから、港町に入ってからは最初に冒険者ギルドに向かった。
ここも警備は厳重だから身分証を出すように求められたのだけど、冒険者カードを見せたら手続きを飛ばして入れたのよね。
冒険者ギルドの力は侮れないわ……。
ちなみに今も男装中。
そのせいかしら? 王都の冒険者ギルドに入った時と違って、誰からも視線を向けられなかった。
「こういうことね……」
「効果あるだろ?」
「ええ、驚いたわ」
クラウスが言うには、服装の先入観で私は童顔の男にしか見えないらしい。
それに複雑な事情で冒険者になる男の子も珍しくないから、私は少年と見られるだけなのだとか。
声も男の子に似せれば、よほどの目利きではない限り気付かれないと断言してくれた。
「これの確認、お願いします」
受付で試してみると、確かに怪しまれている気配は感じなかった。
「確認しました。
ワイバーンを討伐されたので、シエルさんはCランクに昇格となります。おめでとうございます!」
会話が聞こえていたみたいで、周りから拍手を送られる。
昇格すると、こんな風にお祝いするのが冒険者のマナーらしい。
けれどこんなに簡単に昇格出来るとは思わなかったから、大丈夫なのか心配になってしまう。
降格は懲罰の対象にならない限りは起こらないというお話だけれど、不安だわ。
「ありがとうございます」
「こちら、報酬になりす。ご確認ください」
報酬はワイバーンとオーク合わせて三八万ダル。
折半すると一九万ダルになるのだけど、これは平民が少し贅沢しても一か月暮らしていけるだけの金額だ。
貴族になると一食で消えていくのだけど……。
「確認しました。ありがとうございました」
軽く頭を下げてから、受付を離れる私。
今回の報酬は、これから乗る船の切符代になるから口座には預けないで港に向かうことにする。
昼食が取れるレストランも港にあるから、そこで済ませることになった。
「これはクラウスさんの分よ」
「これはシエルの分だ。今回、オークに関しては何もしていないからな」
「でも、私が危なくないように見ていてくれたのよね? 半分にしないと不公平だわ」
報酬の取り分で少し揉めたけれど、少しお話したら半分で納得してくれた。
今のところ私達の旅は順調なのだけど、この先で何か起こりそうで少し不安だわ……。
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