告白現場

(※柚葉視点)


「ふぃ~! いいお湯だった~!」


 夕方までのカリキュラムが終了。

 一年生は入浴を済ませて、夜の肝試しまでそれぞれ自由時間を過ごしている。

 その時間こそ、引率組の入浴時間。

 打ち合わせとか諸々終わり、お風呂に入りてきた私達は施設の廊下を歩いている。


「ふふっ、確かにいい湯でしたね。大浴場など中々入らないので、つい長湯してしまいました」


 隣には、頬を薄っすらと染めたしーちゃん先輩の姿。

 いつもの大人びたお淑やかな雰囲気が合わさって、お風呂上がりのしーちゃん先輩はかなり色っぽい。

 ……この色気、是非ともいつか私も手にしたいんだよ。


「そういえば、柚葉さん」


 少しだけ羨望の眼差しを向けていると、しーちゃん先輩が尋ねてきた。


「いかがですか、今回の引率は」

「うん、すっごい楽しい! って言いたかったけど、やっぱり疲れちゃう……」


 初めてのことで、もちろん楽しかった。

 けど、誰かを引率するってことはこの場を仕切って皆が楽しめるように考えなきゃいけないってこと。

 自分ファーストじゃなくて、生徒ファースト。

 常に気を配っていなきゃいけないから、楽しいのは楽しいけど疲労感がドッと押し寄せてくる。


「柚葉さんは面倒みもよく積極的な性格をしているので、こういうのもすぐに慣れると思いますよ」

「……そう、かな?」

「ふふっ、私だって慣れたのです。私にできて柚葉さんにできないことはありません」


 優しく、しーちゃん先輩が頭を撫でてくれる。

 お風呂上がりだからか、その手がどこか温かくて……元気になるような心地よさだった。


(しーちゃん先輩って、本当に素敵な人すぎる……)


 こうやって気遣ってくれるし、励ましてくれるし、頼りがいもあるし、大人っぽいし、リーダーシップもあって勉強もできるし、綺麗だし。

 同性の私でも思わず唸っちゃうほど、全てが揃ってる気がする。


「……しーちゃん先輩、大好き」

「あら、私も大好きですよ」


 歩きながら、しーちゃん先輩に甘えるように頭を委ねる。

 すると―――


『あの、さ……俺、櫻坂のこと好きだったんだよな』


 曲がり角を曲がる間際、ふとそんな声が聞こえてきた。

 私としーちゃん先輩は思わず立ち止まり、角で息を潜めてしまう。


「(か、隠れちゃったね……)」

「(ですがここで出て行くわけには……お邪魔でしょうし)」


 本当は引き返した方がいいんだろうけど、この道を進まないと自分の部屋には辿り着けない。

 哀しいことに、階段が二つないんだよ。この施設。


「(こういうイベントごとになると、必ず告白のイベントが入りますよね……)」

「(……しーちゃん先輩、どうしてそんな疲れたような顔をしてるんですか?)」

「(実は、先程一年生から告白されまして)」


 凄い、初対面さんも初対面さんなのに。

 流石はしーちゃん先輩だ。


「(……柚葉さんは、告白されなかったのですか? てっきり、同じようなことを受けていそうだったのすが)」

「(んー……私は受けてないよ)」


 確かに、自分で言うのもなんだけど、こういうイベントの時は告白を受けていた。

 実際に去年も同じように告白されたことがあったし。

 でも―――


「(あ、つっくんが一緒にいたからかな?)」

「(……羨ましいです)」

「(あはははは……)」


 こればっかりは何も言えないんだよ。

 だって、私もしーちゃん先輩の立場だったら同じようなこと言ってたと思うし。


『その、ごめんなさい……入学してすぐだから、あまりそういうの考えてなくて……』

『そっか、ありがとうね。それと、時間取らせちゃってごめん』


 ゆっくりと、足音が近づいてくる。

 告白が終わったんだと思う。そのまま逃げたいと思ったけど、急なことだったから逃げ切れずに曲がり角で男の子と会っちゃった。

 でも、その子は少し驚いたけど笑みを浮かべてペコリって頭を下げてくれる。

 ……あっちも気まずいだろうに。感じのいい子だなぁ。


「え、水瀬先輩……と、生徒会長さん!?」


 そう思っていると、今度はちゃんと驚いたような声が。

 その子は、昼間一緒にお話しした愛羅ちゃんだった。


「すみません、覗くつもりはなかったのですが……」

「あ、いえ……そういえばこの道、引き返したら部屋に行けない場所でしたね。こちらこそ、ご不快なものを見せちゃってすみません……」

「不快なことじゃないよ!」


 勇気を出した行為だし、断ったことも勇気がいるし、しっかり向き合ってのことだし。

 本当に、謝らなきゃいけないのはこっちの方だよ……。


「でも、やっぱり愛羅ちゃんってモテるんだね」

「……自分でもよく分からないです」


 そうかな? めちゃくちゃ可愛いし、礼儀正しい子だし。

 少し一緒にお話ししただけの私がそう思うんだから、クラスメイトだったらより愛羅ちゃんの魅力が伝わってるんじゃないかな?


「あの人、道明くんっていうんですけど、クラスでも人気な人なんです。私みたいな日陰者なんて吊り合わないですよ……」


 そう口にした時の愛羅ちゃんは、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。

 ……こういう時、つっくんだったらなんて言って励ますんだろ?

 何故か、私はそんなことを思ってしまった。



 ♦♦♦



『いやー、フラれちまったよ! ダメ元だったけどさ』

『まぁ、仕方ないって! 櫻坂、めちゃくちゃ可愛いもんな!』

『よく頑張った! よーし、今から肝試しまで励まし会だ!』

『ありがとう。にしても、ちゃんと会ってくれるって……ほんと、櫻坂は素敵な女の子だよ』


 ほんと、ムカつく。

 少し可愛いからっていい気になっちゃってさ。

 どうせ、内心じゃ「モテる私、凄い!」とかって私達のこと見下してるんでしょ。


(道明くんに好かれたってだけでも気に入らないのに……)


 ……ほんと、ここは一回自分の立場分からせてあげなきゃ。

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