バスの中で
(※柚葉視点)
目的地は片道二時間ほどにあるキャンプ場で行われるらしいの。
例年うちの学校が使っているからか、結構設備も整っている。去年、そのせいで一年生の時に無駄に興奮してはしゃいじゃったのを覚えてる。
でも、今日ははしゃぐ立場じゃなくて引率する立場。
ほどほど交流して、ちゃんと皆が楽しく過ごせるようまとめていかないと―――
(ふふっ、やっぱり楽しそうだなぁ)
バスの中は楽し気な声が響いている。
新しい環境になって少ししての林間学校。ある程度話し相手もできている頃合い。
こうしてイベントごととなると普段あまり話したことのない人とも話せるから盛り上がっているんだと思う。
残念ながら私達や三年生は一番前に座っているから、後ろの様子なんてあまり分からないけど。
なんか、去年もこんな感じだったなぁ……懐かしいや。
確か、あの時はつっくんが「カラオケ大会するぞー!」ってクラスの皆を巻き込んで盛り上げてたっけ?
「…………すぅ」
私の横では、早速寝ているつっくん。
昨日のおねむががまだ残ってるっぽい。爆睡だ。
(最近つっくんにはお世話になってるし、この時ぐらいは寝かせてあげなきゃ)
だって、今日は私のために参加してくれたんだもん。
本当は私もつっくんとお話していたかったけど、到着するまで寝かせてあげよう。もちろん、着いたらちゃんとおこしてあげるけど。
私は一年生の楽し気な声を耳にしながら、そのまま流れる窓の景色を眺める。
すると、バスがガタッと揺れ───
「…………んぅ」
「〜〜〜ッ!?」
その拍子で、つっくんの頭が私の肩に……ッ!?
(つ、つっくん!?)
つっくんが起きる様子はない。
私の肩に頭を乗せたまま、気持ちよさそうに寝ている。
不意に訪れた好きな人からのスキンシップ。一気に私の心臓が激しく高鳴った。
い、いつもの私だったらここでテンパって離れてしまいそうだけど……つっくんを寝かせたげるためにも我慢しなきゃ!
も、もちろん嫌ってわけじゃないけど!? むしろ、嬉しいっていうか……ッ!
(っていうか、つっくん可愛い……)
いつもはかっこいい感じなんだけど、今は子供のように無防備で愛らしい顔をしている。
少し前まではつっくんの寝顔を見ても何も思わなかったのに、今じゃこんなにも魅入ってしまう。
お部屋にお邪魔した時は「失礼かな?」って見ないようにしてたけど―――
「ふふっ」
起こしちゃいけないから、そーっと。
どうしてか、頭を撫でてあげたくなったから優しく頭に手を添える。
こうしていると、私がお姉さんみたいだよね。最近じゃ、甘えてばかりのような気がするからなんか新鮮だ。
「あーっ、やっぱり二人って付き合ってるんですね!」
そんなことをしているその時。
後ろの座席から、二人の女子生徒が顔を出してきた。
「な、なななななななななんで!?」
いきなりのことに、思わず驚いてしまう。
すると、その二人の女の子は何やらいたずらめいた笑みを浮かべてつっくんの方を見る。
「えー、こんな姿見せられて付き合ってないって方が難しくないですか?」
「まさか、先輩方がこんな堂々とイチャイチャしてるなんてー」
た、確かにこの姿を見られたらそんな勘違いされちゃうかもしれないけど……ッ!
「つっくんとは、その……幼なじみってだけだから」
もちろん、付き合えたらって思ってはいる。
ただ、今はまだそんな関係じゃなくて私の片想いってだけで。
「へぇー、幼なじみなんですね。でも、幼なじみでも相当仲いいですよね?」
「私も幼なじみいますけど、もう全然仲良くないですし、話してないですもん」
「そうなの?」
「ですですっ!」
つっくんとは距離が開いたことはあまりない。
そりゃ、毎日一緒に登校したりとかはしなかったけど、家に遊びに行ったり学校でも話したりしていた。
正直、幼なじみってそういう関係のものなんだとばかり……。
「っていうより、水瀬先輩って本当に可愛いですよね!」
「ほんと、すっごい羨ましいです! 顔も小さいし、肌もすべすべそうだし」
「あはははははは……」
正面から褒められて、苦笑いを浮かべながら少しだけ照れてしまう。
「水瀬先輩って絶対モテますよね? 彼氏とかいないんですか?」
「え、いや……私、今まで誰ともお付き合いしたことないし……」
「うっそ!? そんなに可愛くて優しそうなオーラ出てるのに!?」
だって、私の中では王子様が占めていたから。
ずっと
それが意外だと思われたのか、二人は本当に驚いたような顔をした。
でも、すぐに何か納得したような顔をし始める。
「あー、でも入江先輩みたいな人が横にいると他の男子にあんまり目がいかないですよね」
「ふぇっ?」
「え、めっちゃかっこよくないですか? 聞けばスペックもヤバいらしいし、何よりさっきのあれ!」
「あれ?」
私は思わず首を傾げてしまう。
「ほら、水瀬先輩のことで男子が騒いでた時ですよ! 入江先輩、さり気なく水瀬先輩を庇ってくれたじゃないですか! 分かる人には分かりますよ!」
「ねー、それ思った! すっごいさり気なくやるし、ちゃんと皆に向かって釘刺してたところとか見ていてこっちまでキュンってきちゃった!」
「わ、分かるっ!」
二人の言葉に同調する。
やっぱり、傍から見ていてもかっこいい姿だったよねっ!
「そうなんだよ、本当にさり気なく守ってくれるんだよ! それに、つっくんって人が頑張ってる姿とかちゃんと応援してくれるし、困ってる人がいたら体を張ってまで絶対見捨てたりとかしないの! あと、ちょっとお馬鹿さんなところもあるけどそこがまた楽しいし、逞しくて思わず寄りかかって甘えたくなるし、たまに向ける柔らかい目と笑った顔が胸が締め付けられるほどギャップがあってよくて―――」
そこまで言って、口が止まる。
だって、後ろの二人がすっごいニヤニヤした顔でこっちを見てくるから。
ここで、ようやく私は我に返る。
そして、思わず興奮して話していたことに恥ずかしさを―――
「へぇー、ぞっこんなんですねー」
「水瀬先輩、かわいー!」
もちろん、私が悪い。つっくんの話が出て、自然と口が開いちゃったから。
それでも、まさか自分もここまでヒートアップするなんて思わなくて。
「うぅ……!」
バスが到着するまでの間、私の顔はずっと真っ赤に染まっていた。
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