テスト結果発表

 勉強会からしばらくが経った。

 ゴールデンウィークという長期休暇前にテストが終わり、あっという間に学校に通わなければならない時になった頃、その結果が張り出された。

 個々の点数はそれぞれ洋紙で渡されるものの、競争意識を高めるために総合の点数は全体に開示される。


 そのせいで、各々の学年の掲示板には人で溢れ返ってしまい―――


「やったー! 三十七位!」


 見た目派手な女の子の可愛らしいガッツポーズが横で見せられる。

 前より成績がよくなったのだろう。この姿を見ていると、教えていた身としてはどこか胸に込み上げてくるものがある。


「前は何位だったんだっけ?」

「八十三位だったかな?」

「おー、凄い躍進」

「つっくん様のおかげですありがとうございます」


 ぺこりと、柚葉が頭を下げてきた。

 往来で人だかりもあるからか、容姿も相まって少しばかり視線が集まる。


「それで、つっくんは何位だったの?」

「んー?」


 そういえば、来たばかりで見ていなかった。

 手ごたえはあったし、そこまで悪い順位ではないと思うんだが―――


『おい、また入江が一位だぞ……』

『そろそろあいつ誰か引き剥がしてくれよ』

『あいつがいる限り、この学年で一位なんで夢物語なんじゃ……?』


 一位だったみたいだ。


「らしいぞ」

「……つっくんは少しぐらい喜びをお見せした方がいいと思うの」

「うーむ」


 って言われても、前回と順位変わってないし。

 授業をちゃんと受けていれば分かる内容だったから、正直嬉しいとかあまりないんだよなぁ。

 あ、そうだ今日の夕飯の献立を考えなければ。


「……赤飯にたいを使った何かで食卓を揃えたいな」

「うん、意外と結構喜んでいるのが分かったよ」


 帰る際、早速スーパーに足を運ばなければ。

 べ、別に喜んでいるわけじゃないんだけど!


「でも、お祝いはした方がいいよねっ! 頑張ったつっくんにご褒美してあげる!」


 順位が分かって、俺達は人だかりから離れていく。


「ご褒美?」

「うん、最近私も料理をお母さんに教えてもらってるからね! たまには私が振舞ってあげます!」

「へぇ、柚葉が料理ねぇ? なんでまた、そんなことを?」


 今まで料理をする気配もなかったというのに。

 一体、どういう風の吹き回しなのだろうか?

 そんな疑問を抱いていると、柚葉は少し頬を赤らめながら顔を逸らし―――


「い、一緒につっくんとキッチンに立てたら楽しいだろうなぁって……」

「な、なるほど」


 真っ直ぐすぎる言葉に、俺まで顔が赤くなってしまう。

 こういう時、本当にどう返したらいいか分からないから困る。


「あ、そういえば今日だったよね? 林間学校の参加者を決めるの!」


 誤魔化すように、柚葉が話題を変える。

 そのタイミングで自分達の教室に辿り着き、扉を開けて中へと入った。


「ゴールデンウィークもテストも終わったしなー。先生も決めとけって言ってたし、残りの日数を考えたら今日だろ」


 柚葉は参加表明するとして、問題は男子の枠だ。

 各クラス、それぞれ女子と男子が一人ずつ。三大美少女と呼ばれるぐらい人気のある柚葉とペアが組めるとなれば、男子は熾烈な争いを繰り広げることになるに違いない。


「柚葉からもらったメリケンサックを持って来たし、大丈夫だとは思うんだが……」

「それ、絶対誰かしらは大丈夫じゃなくなるセリフだよね?」


 まぁ、それは冗談として。

 激しい競争になるのは間違いないはず。


「……柚葉にもお願いされたことだし、なんとかして一枠を勝ち取りたいところではある」


 そのためには、学食を使った買収も視野に入れておかなくてはならないだろう。

 そんなことを思っていると、不意に―――


「つ、つっくん……声に出てる」


 ふと、横から袖が引かれた。

 柚葉の顔は先程以上に真っ赤に染まっており、今からでも湯気が出そうなほどであった。

 ただ、どうしてそんなに赤くなってるのかは分からないが。


「ん? いや、ほんとのことだろ?」

「そ、そうなんだけどっ!」

「そりゃ、俺からしてみればあまり関心のないイベントだが、柚葉のお願いなら叶えてあげたいって思うし」

「~~~ッ!?」


 柚葉が顔を真っ赤にしたまま、何故か俺の胸を叩いてくる。痛い。


「まぁ、っていうわけで任せとけ。なんとか一枠を勝ち取ってみせる」

「う、うん……その、期待してるねっ!」


 柚葉がまだ戻らない赤くなった顔のまま、可愛らしく拳を握って期待を込めた瞳を向けてくる。

 ……この期待、応えられなければ男じゃない。

 詩織さんも「楽しみにしている」と言ってくれたのだ、女の子二人の言葉を無碍にはできない。


「おう!」


 確か、決めるのは最後のホームルーム。

 勝負は、正しくその時。

 来たるべき瞬間までに、色々準備をしておかなければ―――









「っしゃおらァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

『クソッ! 学食一週間分という賄賂を断ったというのに……ッ!』

『結局は入江なのかッ!』

『あの時、俺がグーを出していれば水瀬さんと一緒に星空の下で行動を共にできたのに!』

『『『『『ちくしょうがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』』』』』


 結局、賄賂は失敗した。

 その代わり、熾烈を争うジャンケンで無事に一枠をもぎ取ることに成功した。

 歓喜のあまり思わず雄叫びを発してしまい、敗北したクラスの同胞が床に崩れ落ちる。

 やはり、それだけ重要な一戦だったということだろう。


 ただ、柚葉以外の女子達の視線が何やら冷たかったような気がしたのが気になった。

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