手料理
「そういえば皆さん、林間学校には参加されますか?」
午前中に勉強がひと段落し、昼食時になった頃。
何やら株の勉強らしい分厚い本を目に通しながら、詩織さんが唐突にそんなことを言い始めた。
「私は参加しますよー! 何かと今後の勉強になるかもしれないし!」
一方で、柚葉はリビングのソファーでテレビを観ながら霧島に膝枕をしていた。
どうしてそのような構図になったのかは分からないが、かなり視界に潤いと幸せを与えるような絵だ。
霧島も抵抗している様子もないため、嫌ではないのだろう……ほんと、どうしてそうなったのかは気になるが。
「くーちゃんは行くの?」
「生憎と、仕事があるから行かないわよ。学業は優先させてもらってるけど、それとこれとは話が別だし」
林間学校は平日ではなくテストが終わってしばらくした土日に行われる。
一応振替休日こそ設けられるものの、ただでさえ仕事で休みがちな霧島が授業を受けられないのは辛いことだろう。
この前、L〇neで大学にはちゃんと行くとかそんなことを言っていたような気がするし。
「流石、現役モデルは違うな」
キッチンで一人料理をしながら、ふと自然と関心が零れる。
念のため言っておくが、こうしてキッチンに立っているのは俺の要望だ。申し出こそあったものの流石に客人に手伝ってもらうわけにはいかないからな。
「んー……まぁ、もう正直モデル業もそこまで注力しなくてもいいんだけれどね」
「そうなのですか? 最近はメディアにかなり顔を出すようになってきたのでは?」
「えぇ、ありがたいことに仕事は増えてるけど……そもそも、私がモデルになったのは少しでも王子様に見つけてほしかっただけなの。ほら、私は顔を見てないけど向こうは見ていたわけだし」
「なるほど、そういうことでしたか」
「ふふっ、見つかった今は正直そこまで続ける理由なんてないのよねー」
そう言って、ニヤニヤとした顔でこちらを向いてくる霧島。
それがどこか気恥ずかしく、思わず視線を逸らしてしまった。
「まぁ、って言ってはいるけどしばらくは続けるつもり。私のアドバンテージってこれぐらいだもの。容姿なんて、この面子じゃ大したアドバンテージにならないわ」
「ふぇっ? そんなことないよ? くーちゃんは、超綺麗だし!」
「……ありがと」
真正面からの柚葉の言葉に照れたのか、霧島はお腹に顔を埋める。
なんだろう……結構可愛い。
「それで、入江さんは参加されるのですか?」
「んー……人足りなかったらやってもいいかなって考えますけど、今のところは参加する予定ないっすね」
まぁ、ちょっと柚葉がどういう感じで引率とかするのか気になるから参加したい気持ちもあるのはあるが。
とはいえ、誰かが行きたいというのなら譲る気でいる。というより、一緒に行動するのが三大美少女様ともなれば男子は枠に殺到するだろう。
「参加すると、一応内申の評価は上がりますよ? 大学に行く上でかなり楽になるかと」
「んー、そうですねぇ」
詩織さんの言葉に、少しだけ唸る。
確かに、大学には行くつもりなので少しでも内申が上がるのなら助かるのは助かる。
「つ、つっくん……行かないの?」
そう思っていた時、潤んでいる瞳が向けられる。
「一緒だと嬉しかったんだけど……」
その瞳を見ていると、なんだか———
「死ぬ気で枠を勝ち取ろう」
「……幼なじみ、強いわね」
「むぅ……羨ましいです」
仕方ない、あんなに縋るような可愛らしい顔を向けられたんだから。
好き嫌いとかそういう話以前に、男としてあの瞳は断るわけにはいかないのだ。
もしかしたら、早速プレゼントでもらったメリケンサックが役に立つかもしれない。
「詩織さんはやっぱり参加するんですか?」
「えぇ、生徒会としての仕事の一環ですので。といっても、直接的に引率する役割ではありませんよ」
「あー、確かに去年も生徒会って一緒にいなかったような?」
引率は各それぞれ上級生が。
生徒会は一年生の面倒というよりかは、全体のイベントの進行を教師に代わって行っていたような気がする。
もう去年のことなどであまり思い出せないが、詩織さんはその立場なのだろう。
「生徒会も大変っすね」
「ふふっ、そうですね。ですが、今回は入江さんがされるということなので楽しみです♪」
「……ッ」
照れるというかなんというか。
霧島然り、そういう言葉を直接向けてくるのだから、何も思わないわけにはいかない。
若干赤くなった頬を誤魔化すように、俺は視線を落として皿を手に取った。
「ご、ご飯できたからテーブルに集合っ! ほれ、早くしないと冷めちゃうぞ!」
楽しそうな詩織さんの視線を他所に、俺は作った料理をテーブルに置く。
今日は詩織さんからもらった
テーブル前の椅子に腰を下ろした霧島や柚葉、詩織さんまでもが並べた料理に視線を落とす。
すると―――
「……これを見たらなんだか自信がなくなるわね」
「……入江さんより稼がないと立場がなくなってしまいそうです」
「うぅ……つっくんに見せつけられた」
「どして?」
想像していた反応とは違い、どうしてか三大美少女様のジト目が向けられた。解せぬ。
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