生徒会長
───次の日の放課後。
三大美少女の一人である霧島から「手伝ってほしい」との連絡をもらい、俺は早速身支度をしていた。
どうやら、今日霧島は撮影で休んでいたらしく、集合場所は学校ではなく現場となってしまった。
茜色の陽射しが射し込む教室にはすっかり人の気配がない。
定例の猥談会も今日は休みだし、柚葉は「ごめん、つっくん……きょ、今日は友達の約束があって……!」と、酷く悲しそうな顔を浮かべて先に帰ってしまった。
別に俺と帰ることがマストなわけでもないし、諸々気にしないでほしいのだが───
(にしても、わざわざ外に呼び出しって……これでカメラが俺に向いたらどうしてくれんだ)
用件があるなら、別に日にちをズラして学校で会えばいい。
わざわざ仕事で休んでいる時にまで呼び出さなくてもいいとは思う。
(まぁ、考えられるのは急を要することか、単に外で用件があるのか)
いずれにせよ、発言した責任ぐらいは取らなければ。
集合時間が遅いため残っていたが、そろそろ学校を出なければいけない。
カバンを手に取って、教室を出る。そして、校舎の玄関までの廊下を───
「あっ」
「あら」
歩いていた時だった。
曲がり角から、一人の女性が姿を見せた。
そして───
「〜〜〜ッ!?」
「ん?」
俺は思わず首を傾げてしまう。
その女性は何故か、俺の顔を見るなり驚き、一瞬だけ何かを堪えるかのような顔をした。
しかし、すぐに一つ咳払いをして小さくお淑やかな笑みを見せる。
「ご、ごほんっ! あ、あなたは確か柚葉さんの……」
艶やかなミスリルのようなストレート。お淑やかで上品な雰囲気が漂い、思わず息を呑んでしまうほどの端麗で美しい容姿。
「生徒会長さん?」
「はい、生徒会長さんです」
───
一つ上の先輩で、この学校の現生徒会長。誰もが知っている大手化粧品メーカーのご令嬢であり、柚葉達と同じ三大美少女様の一人だ。
ただこうして面と向かって会うのは初めてだが、霧島以上には見かけたことがある。
柚葉がいるからと教室に来る時や、それこそ全校集会で壇上に上がった時とか。
(にしても……本当に綺麗な人だな)
近くで見ると、余計にでもそう思う。
霧島は美人、柚葉を可愛いと評するのなら、生徒会長さんはそのハイブリッドみたいな人だ。
綺麗なのは綺麗なのだが、どこかあどけなさも残っている。
身長が低いからこそ感じるのだろうが、触れやすい雰囲気というのもあるのだろう。
これで家柄もよく、生徒会長になるほど人望が熱いのだから文句のつけようがない。
「……視線が気になりますね」
いけない、マジマジと見すぎた。
綺麗で見蕩れてしまったが、気をつけないと───
「特に胸元に視線が」
本当に気をつけなければ野生のポリスメンのお世話になってしまう。
「ゆ、柚葉に用ですか? あいつなら先に帰っちゃいましたけど……」
「あら、そうですか。ですが、今日は少し様子を見に来ただけですのでまた日を改めることにします」
「様子?」
「はい、最近何やら様子がおかしいという情報が……」
どうしよう、何故か申し訳なさが胸に。
「ふふっ、と言っても理由はすでに存じてはいるのですが」
まぁ、柚葉はわざわざ話に違う学年へ足を運ぶほど生徒会長さんとは仲がいい。
霧島の時はすぐだったから耳に届いていなかったかもしれないが、二日も経てば柚葉の方から近況報告として教えられてもおかしくはないだろう。
「それにしても、あなたとこうして二人きりでお話するのは初めてですね」
グッと、端麗な顔が近づいてくる。
顔を覗かれているだけだというのに、甘い匂いが鼻腔を擽って思わずドキッとしてしまった。
「柚葉さんから聞きましたよ……あなたが、彼女の
「……そんな大袈裟な人間じゃないっすよ。ただの幼なじみ───」
「いいえ、大袈裟なことではありませんよ」
生徒会長さんが人差し指を俺の鼻に当ててくる。
「同じ境遇だから分かります。来栖さんにとっても、柚葉さんにとっても……私にとっても、自分の
「…………」
「助けられた人の気持ちは助けられた人にしか分かりません。
説教をされている……わけではないと思う。
ただ諭すように、そしてどこか願いが込められた本音のようにも聞こえた。
「……それで、俺にどうしろと?」
「素直に受け止めていただけたら。あの子は今、ただ戸惑っているだけでしょうからね」
そう言って、生徒会長さんは俺から距離を取った。
どこか残念な気もするし、安心してしまった気もする。美少女さんは本当に恐ろしい。
「……優しいんですね。生徒会長だからですか?」
「ふふっ、これに関して言えば可愛い後輩のためのちょっとしたお節介なだけですよ。あとは、単なる打算でしょうか?」
生徒会長さんは踵を返し、来た道を引き返した。
何故か、その背中に俺は思わず───
「あのっ、羨ましいとは……思わないんですか?」
何故、こういうことを言ってしまったのかは分からない。
霧島は「羨ましい」と言っていた。
柚葉の仲がいい先輩だからこそ、彼女に嫉妬心を向けてほしくないとでも思ったのだろうか?
俺の言葉に、生徒会長さんは振り返る。
そして、いつも壇上で見かけるようなお淑やかな笑みを浮かべて、
「私は必ず、私の
キッパリと、言い放った。
「その遅かれ早かれに嫉妬はしません。おばあちゃんになろうが彼がおじいちゃんになろうが、出会ってこの想いを伝えられたら私はそれでいいんです」
まぁ、想いを受け取っていただけたらなお嬉しいんですけどね、と。
恥ずかしそうに小さく笑った。
(凛々しいというかなんというか)
俺は彼女の姿に見蕩れてしまった。
すると、呆然と固まっている俺に生徒会長さんは引き返して───
「私の連絡先です」
「へ?」
「何か柚葉さんの困ったことがあったら、いつでも連絡をください。きっと、幼なじみでは分からない……女の子にしか分からないこともあるでしょうから」
スマホの画面を向けられ、連絡先の交換を促される。
───全校生徒の憧れとも言える、生徒会長さんの連絡先。
高嶺の花からの申し出に戸惑いながらも、俺は懐からスマホを取り出して連絡先を受け取る。
「で、でも……いいんですか? その、生徒会長さんって───」
「詩織でいいですよ」
スマホを口元の当て、少し可愛らしく微笑む。
「実は私、畏まられるのってあまり好きじゃないんです」
それでは、と。
生徒会長さん……詩織さんは、小さく手を振ってもう一度背中を向けた。
俺はその背中を呆然と見送り、廊下に一人残される。
(……マジか)
高嶺の花。
柚葉と霧島とは違って、正真正銘学校全体からの人気者。
そんな彼女の連絡先を、思わず交換してしまった。
いや、それより……最後にキッパリと口にしたあの言葉───
「かっこいいなぁ……ほんと」
力になってあげたい。
烏滸がましいながらも、そう思わずにはいられなかった。
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