気づいちゃった?
(※柚葉視点)
リビングから見えるキッチンで、つっくんが料理してる。
どうやら、今日は美里さんの要望でシチューにするらしい。
料理当番は基本的に入江家ではつっくんが担当なの。すっごく美味しい。つっくんって料理もできるし本当にハイスペック———
(わ、私も料理できた方がいいのかな……?)
今までそんなこと気にしたことなかったけど、一緒にキッチンに立って料理したら楽しそう。
それで、一緒に作ったご飯を一緒に食べて……あれ、想像しただけでドキドキしちゃう。
(私って、こんな
意識しただけで一気に顔に熱が昇ってくる。
でも、今はそんなことを考えてる場合じゃなくて―――
「ふーん……ついに、柚葉ちゃん気づいちゃったかぁ」
リビングのソファーで、美里さんが何やら楽しそうな笑みを向けてくる。
私はその対面に座って、何故か縮こまってしまっていた。
「なんで、その……分かったんですか?」
「え、めちゃくちゃ司くんを意識してるから?」
「ぬぐっ!」
確かに、今思えばそうだよね。
自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃつっくんを意識しちゃってるし。
「それでそれで! どうやって気づいたの!? 今までそんな素振りなかったのに!」
美里さんが私の隣に座り、食い気味に尋ねてくる。
「えーっと、たまたま脱衣所に入った時に―――」
「なるほど、司くんの裸を覗きに行った時に背中の傷痕を見ちゃったんだね」
そういう目的じゃないです。
「もしくは、司くんの裸の模写───」
そういう目的でもないです。
「っていうか、美里さんは知ってたんですか? その、つっくんが私の
「そりゃ、知ってたよ~! 流石に家族だしね、司くんが病院に運ばれた時も一緒にいたし」
まぁ、やっぱり家族だったら知ってるよね。
怪我をした時「どうして?」ってなるし、そもそも息子がそんな無謀なことをしたら心配するに決まってるもん。
「ただ、その時執拗に「絶対に柚葉には言わないで!」って言ってたなぁ」
「それは、あれですよね? その時は黙って立ち去るヒーローがかっこいいからとか……」
私としては「すぐに教えてくれてもよかったのに」とは思うんだけど、つっくんの憧れているヒーローがそういう人だから仕方ない。
そういう人に憧れていたからこそ、つっくんは私を助けてくれたんだ。
「あ、あとは……助けたいと思ったから、助けただけって」
恩義を感じてほしくない。そういう優しさがあったから、助けたあとに口止めをしていたって言ってた。
「んー、それもあるけどー」
美里さんは顎に手を当てて少し考え始める。
だけど、すぐにいたずらめいた笑みを浮かべ、こっそり私に近づいて耳打ちをした。
「柚葉が心配するから」
「えっ?」
「確かにそういうヒーローに憧れていたけど、「自分のせいで」って怪我のことに柚葉ちゃんが責任を感じるから言わないでって」
その言葉を聞いて、私の顔が一気に赤くなる。
「司くんが見てたヒーローってさ、ぶっちゃけ名乗って立ち去る系だったんだよね。だから、別に憧れてるんだったら名乗る方が普通なの」
確かに、つっくんが昔「かっけぇ~!」って見てたヒーローアニメは、助けた時にきっちり名乗っていた。
もちろん、ヒーローの名前を言っただけで人間としての名前は名乗ってなかったけど。
「でもね、その子に心配してほしくないとか、笑ってくれたらそれでいいとか。怪我をしてきた時に問い詰めると、不貞腐れたように毎回そう言うの。もちろん、柚葉ちゃんに言ったであろう「恩義を感じないでほしい」っていうのもあると思うよ」
いつもヒーローごっこして無茶して、遊んでいるイメージしかなかった。
昔の記憶だから朧気なところはあるんだけど、つっくんがそう思って誰かを助けていたなんて気づかなかった。
でも、こうして言われたら。
昨日、つっくんも同じようなことを───
(な、なんだよもぅ……)
私は近くに落ちていたクッションを拾い、そのまま顔を埋める。
(かっこよすぎるじゃん)
さっきから心臓がうるさい。絶対に横に座っている美里さんに聞こえてるんじゃないかって思うぐらいには、鼓動が激しかった。
「ねぇねぇ、柚葉ちゃんってさ。司くんのこと好きなんでしょ?」
「………………多分、はい」
「それってさ、昔の
そう言われて、頭の中につっくんの姿が思い浮かぶ。
確かに、つっくんが
でも―――
「分からない、です……」
ただその理由でこんなにも意識しちゃってるのか。
単純に
自分だって、今の状況と自分の感情に整理ができてないし、ついていけてない。
でも、なんとなくだけど。
私はつっくんのことが……その、好きなんだと思う。
「むふふ~、なるほどねぇ~」
美里さんは、顔を埋めている私の頭を優しく撫で始めた。
そして、深くは何も言わず、
「私は柚葉ちゃんの味方だぞ☆」
今の気持ちに明確な答えなんて出ていない。
なるべく早く整理して、つっくんとの関係を改めたいとも、今の自分の態度も変えたいと思う。
けど、今は何故か美里さんの手が温かくて。
不思議にも今の戸惑っている気持ちが晴れて───頑張ろうって、そんな気持ちになれた。
「わ、私……絶対につっくんを振り向かせますっ!」
「いいねっ! 困ったことがあったら言うんだよ? 私も、柚葉ちゃんが義妹になってくれたら嬉しいぜ♪」
きっかけは分からない。
でも、好きなのは間違いないと思うから。
今はまだ幼なじみの枠を越えられていないかもしれないけど、絶対につっくんを振り向かせてみせるっ!
「義妹になったら、一緒に司くんのお風呂覗けるね!」
あとでつっくんに、浴室の施錠についてお話しておこっと。
♦♦♦
(何話してんだ?)
キッチンからリビングが一望できる。
俺が料理をしている間、女性陣二人は久しぶりに会ったということで会話に興じている。
しかし、少し料理に集中して目を離していた間に、いつの間にかクッションに顔を埋める柚葉と頭を撫でる姉さんという構図が完成していた。
そしてさらに少し目を離していると、今度は柚葉が拳を握って気合いを入れていた。どういう話だったのか気にならざるを得ない。
(姉さんがからかったんじゃないだろうな?)
まぁ、柚葉が泣いていなければそれでいいんだけども。
それに、いつも通りの柚葉になっているようで少し嬉しい。
あの可愛い気合いの入れ方はいつも通りだ、間違いない。可愛い。
「ん?」
ふと、ポケットに入れていたスマホが震えた。
誰からだろうか? そう疑問に思って、俺は取り出して画面を点けた。
すると、そこには———
来栖『明日、早速だけど協力してほしいことがあるわ』
この前、連絡先を交換した三大美少女様からメッセージが。
恐らく、協力というのは彼女の
「構わないぞ、と」
何をさせられるかは分からないが、言った発言ぐらいは責任を持とう。
そう思い、俺はすぐに返信をして再び調理に戻った。
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