菓子折り

 姉のご要望を叶えるため、スーパーでシチューの具材を買った俺達はようやく家まで辿り着いた。


「そういえば、柚葉って姉さんに会うのは何日ぶりだっけ?」


 ガザガザと、玄関の門を開けながら柚葉に尋ねる。


「え、えっとね……なんだかんだ二週間、かな?」

「ふぅーん……意外と会ってないんだな」

「そ、そうなのっ!」


 確かに、姉さんは大学、俺達は進級でそれぞれ慌ただしかった。

 中々時間が合うことがなく、家族ぐるみの付き合いにしては珍しく会わない日が続いていた。

 だから……だから、だろうか―――


「流石には要らなくね?」


 彼女の腕に、丁寧に包装されたお菓子が抱えられているのは。


「家族にご挨拶だし……」

「もう何年も前に済ませてると思うんだが!?」


 昨日まで家族ぐるみで仲がよかったはずなのに、いきなり距離が開いたような気がする。

 おかしい……これも彼女の中の王子様ヒーローの正体がバレた弊害だろうか?


「はぁ……とりあえず、さっさと中に入るぞ。菓子折りはまた今度ゲームしながらでも食おうぜ」

「ま、待って心の準備が―――」

「いらんいらん。そんな人見知りさんはゴミ箱に捨ててきなさい」


 どこか緊張気味な柚葉を無視して、俺は玄関の扉を開ける。

 すると―――


「司くん、お帰り~!」


 玄関から満面の笑みで出迎えてくれる姉———入江美里いりえ みさとの姿が。


「あっ、それはシチューの具材だね、ルーが見えてる!」


 大学生にもなるのに、なんとも騒がしい。

 ただ、愛嬌ある顔立ちに大人びたほんわかした雰囲気が合わさり、色っぽさと美しさが醸し出されている。

 高校時代も、かなりこの無邪気で人懐っこい性格と端麗な容姿のおかげでモテたのだとか。

 違う学校だったのだが、もしも同じ学校に通っていれば四大美少女と名前が変わっていただろう。


「……姉さんが食べたいって言ったからだろ」

「うんうん、お姉ちゃんのお願いを聞いてくれて嬉しいぞぅ~!」


 お願いというより、脅迫という言葉の方がよく似合う気がする。


「あっ、柚葉ちゃんも久しぶり!」

「お、お久しぶりですっ!」

「ん?」


 緊張気味などこか上擦った声。

 それに違和感があるのか、姉さんは柚葉を見て首を傾げてしまった。気持ちは分かる。


「あのっ、これつまらないものですがっ!」

「本当に渡すのか、それを!?」

「だって、せっかく買ったんだし……」


 確かに、買ったのは買ったが……それ、本当にうちの近くにある和菓子屋さんで買ったやつだぞ? なんだったら、三日前ぐらいに一緒につまんで食べていたものだぞ?


「あらあら~、これはご丁寧にどうも!」

「……姉さんも乗っかんなよ」

「ささっ、あがってよ! 大したおもてなしはできませんが♪」


 そう言って、姉さんはウキウキ気分で柚葉を家に招いた。

 明らかに様子がおかしいのに乗っかるなんて……悪ノリがすぎる。


「……柚葉はとりあえず、一回深呼吸をした方がいいと思う」

「わ、分かった……失礼がないようにしないと嫌われちゃうもんね!」


 多分、落ち着いてほしい方向性が絶妙に違うと思うんだが……もう言うまい。


「あ、そうだ司くんっ!」


 リビングに入ったはずの姉さんが顔を出す。

 そして、我が姉ながら可愛らしいウインクを浮かべて俺の持っているレジ袋を指差した。


「私、お腹空いちゃったから早く作ってほしいなぁ~!」

「……厚かましい」


 何故、毎度のことながら俺が料理をする前提なのだろうか?

 いつも料理は俺が担当しているからといって、自分が要望した時ぐらい自分で―――


「唇が寂しくなっちゃった……」

「さて、今日は腕によりをかけよう」


 姉さんは大学で頑張っているんだ。

 様子がおかしい柚葉にも元気になってもらえるよう、今日は一段と気合いを入れなければ。

 そう思い、俺は姉さんを通り越してキッチンへと向かった。



 ♦♦♦



(※柚葉視点)


(あ、あああああああああああああれっ!? つっくんのお家っていっつもこんな感じだったっけ!?)


 つっくんがリビングの奥へ向かって行ってから。

 ようやく、私は自分がしていることに気が付いた。


(ぜ、絶対におかしな子だって思われちゃう! なんなの、菓子折りってもうそういう関係じゃないし唯一のアドバンテージだったのに自ら距離置いてない!?)


 案の定、つっくんは心配していたし。

 うぅ……ほんと、今日一日こんなのばっか。つっくんが王子様ヒーローだって知ってから、いつもみたいに話すことができなくなっちゃってる。


「美里さんにも変な子って思われてそう……」


 せめて……せめてどっかで挽回しなきゃ!


「柚葉ちゃん、柚葉ちゃん」

「ひゃっ!?」


 そんな決意をしていると、いつの間にか目の前に美里さんの姿が。

 私は一人の世界に入ってしまっていたからか、思わず驚いてしまった。

 とりあえず、私は慌ててめいいっぱい頭を下げる。


「ご、ごめんなさいっ! その、なんかさっきから変な態度で……」

「ううん、全然気にしなくてもいいよ~」


 変な態度だったというのに、美里さんは笑顔を浮かべてくれる。

 というより、なんかニヤついている気が―――


「ねぇ、柚葉ちゃん」


 そして、


「もしかしてさ、?」

「んにゃっ!?」


 いきなり、そんなことを言ってきたのであった。

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