集まる視線
放課後の学校は意外と賑やかだ。
俺達みたいに定例(※猥談会)で残る人間以外にも友達との談笑に興じる生徒、部活動に勤しむ生徒。最近では一年生が入学し、部活動にも活気が出たことからグラウンドでは忙しない声が飛び交っている。
そんなグラウンドが見渡せる校門までの道のり。
そこを、俺と柚葉は歩いていた。
『ね、ねぇ……あれ、水瀬さんじゃない?』
『可愛い……でも、珍しいね。男の子と一緒に帰ってる』
『それに、男の子に腕を引かれて……』
やはり三大美少女とも呼ばれる容姿は目立つのか、歩いているだけだというのに周囲の視線が刺さる。
たまに一緒に帰るのである程度慣れてはいるのだが、どうしてかいつもよりも視線が気になった。
不思議に思っていると、ふと後ろから声がかかる。
「あの、つっくん……腕」
「あ、悪い」
俺は言われてすぐに腕を離した。
視線が気になると思っていたが、そういえば腕を引いていたのを忘れていた。
ここに来るまで恥ずかしさが勝っていたからだろう。ようやく気付いてしまった。
しかし―――
「つっくんがよかったら、私こっちがいい」
柚葉はおずおずと手を差し出してきた。
しっかりと、手のひらを向けるような形で。
「……飴ちゃんなら持ってないぞ?」
「子供扱い!?」
「だが、流石に幼なじみ同士で金銭のやり取りは……」
「お小遣いがほしいって言ってるわけじゃないからね!?」
まぁ、それは冗談として。
恐らく、朝と同じでもう一度手を繋ぎたいのだろう。
嬉しいのは嬉しい。何度も言うが、こんな美少女と手を繋げるなど男は喜ばないはずがない。
「……視線がなぁ」
ただでさえ、今はいつも以上に視線を浴びている。
朝と続けて帰りともなれば、明日登校した際には更にまた噂が立ってしまうだろう。
「……一発ギャグをしたら繋いでくれる?」
余計に目立ちます。
「何故に一発ギャグ?」
「だ、だって一緒にいて楽しい人がいいって……」
それはどちらかというと「楽しい」というより「面白い」だとは思うんだが。
面白い人も好きなのは好きだけども。
「あ、それともビニールな手袋を―――」
「だから俺は別に衛生面を気にしているわけじゃないっ!」
この状況で俺が「ビニールの手袋越しだったらいいよ」と言えば失礼極まりないだろう。
そしてさらに恐ろしいのは、それを文句を言わず自ら許容できる柚葉である。
「はぁ……」
様子が変なのは分かってはいるが、こうも積極的になるとは。
落ち込んで少しシュンとなっている柚葉を見て、少しため息が出てしまう。
ただ、このままずっと生徒達が何人も通る場所で立ち止まっているわけにはいかず、
「いいから帰るぞ」
俺は柚葉の手を取って、そのまま歩き始めた。
「う、うん」
柚葉も俺に引かれるような形で足を進めた。
チラリと後ろを向けば端麗で可愛らしい顔は朱に染まっており、握っているこっちもつられて照れ臭くなってくる。
「あ、そういえばつっくん」
赤くなった顔のまま、柚葉が横に並んできた。
「今日さ、美里さんってお家にいるかな?」
美里とは、俺の姉である。
この前高校を卒業したばかりで、今年から大学生になった。
同性ということもあるのか、柚葉は姉さんと仲がいい。たまにうちに遊びに来る理由の中に、何度も姉の名前が挙がるほどだ。
「あー、帰ってくるとは思うけど、待つことにはなるぞ? 夜ご飯作っておいてって言われたぐらいだから長くはかからないと思うが」
「じゃあ、今日もつっくんのお家行ってもいい?」
行ってもいいって、お前———
「お伺い立てて来るような場所じゃねぇだろ。来たかったらいつでも来ればいいじゃん……俺と柚葉の仲なんだしさ」
「ッ!?」
まぁ、正確に言うと俺と柚葉の仲というよりかは俺の家と柚葉の家の仲である。
というより、昨日も勝手に家に入り込んでいたのだ。もしお伺いを立てなければならないのなら、昨日で普通に注意している。
「(い、今思ったらこれって結構なアドバンテージだよね……? もし、つっくんを狙うライバルが現れたとしても、私が一歩リードしてる……かも?)」
ただ、こうして俯きながらブツブツ呟くのは注意した方がいいのかもしれない。
何を言っているのかは知らないが、ちゃんと前を向いて歩かないと危ないし。
「ん?」
注意とまではいかずとも声ぐらいは掛けようと思った時、唐突にスマホが鳴った。
気になって先にスマホの画面を開くと、そこには「司くんの大好きなお姉ちゃん♡」という、勝手に表示を弄られたであろう相手から通知が来ていた。
『今日さ、柚葉ちゃん来るかな?』
『お姉ちゃん早く用事が終わりそうだから、会えるなら会いたいー!』
『あ、今日のお夕飯はシチューがいいです!』
……今日の冷蔵庫の中身、がっつり生姜焼きの材料しかないんだが。
『お姉ちゃんの要望に応えてくれないと、姉弟の垣根を越えたちゅーをしちゃうぞ♪』
……………………。
「柚葉」
「ひゃっ!? ななななななななな何も言ってないよつっくん―――」
「俺の唇を守るために、買い物に付き合ってくれ」
「待って、何があったの?」
どうやら、困った姉はシチューをご所望らしい。
とりあえず、家族の食欲と俺の唇を守るため、俺は戸惑う柚葉の手を引いて帰路からショッピングモールへと進路を変えた。
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