三大美少女

次回以降は毎朝9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 改めて説明するが、俺の通っている『私立久我峰高等学校』には、三大美少女が存在している。

 具体的な名称ではなく、単に「学校にめちゃくちゃ可愛い女の子が三人いる!」という理由でいつの間にか誰かが呼び始め、定着してしまった。

 今はまだ分からないが、もしも一学年に超絶美少女がいれば、すぐにでも四大美少女に変わってしまうだろう。

 今のところそのような話はないため、しばらくは三大美少女のままのはずだ。


 そのうちの一人は生徒会長を務め、大手企業の社長令嬢。

 一学年上の先輩で、漂う気品ある佇まいとお淑やかな雰囲気、誰にでも優しく才色兼備という言葉がよく似合うお貴族様のような人だ。


 もう一人は二学年で他クラスの女の子。

 美少女というよりかは美人というべきか? スラッとした体躯に端麗すぎる顔立ち。

 聞けば絶賛モデルとしても活躍しているらしく、最近はメディアの露出が増えてきて知らない人間は少ないのだそう。


 そして、最後は俺の幼なじみである柚葉だ。

 着崩した制服や派手な髪色が特徴的でどこかギャルっぽい印象を与えるものの、明るく人懐っこい性格と愛嬌ある顔立ちが酷く人気。

 同じクラスになれたというだけで、男子達が大騒ぎしていたのを今でも覚えている。


 三人の存在は、すでに学校中で認知されている。

 尊敬や憧憬、想いを寄せる人間はあとを絶たず、柚葉情報によると告白される回数は月に片手の指で治まるかどうかなのだとか。羨ましい。

 それぐらい人気なお三方が―――


『おい、司! お前、朝水瀬さんと手を繋いで来てなかったか!?』

『幼なじみで何もないから今まで許してやったというのに……ッ!』

『ついにデキたのか!? あの男の噂が一切なかった水瀬と!?』


 まぁ、異性と手を繋いで登校してくれば話題になるもので。

 教室にやって来てからというものの、俺は他クラスを含めた男子達に取り囲まれていた。

 なお、柚葉は学校に着くなり顔を真っ赤にしてどこかに行ってしまった。


「ねぇー、流石に僕も驚いたよ」


 隣では、他人事のように呟く、優男という言葉がよく似合う妬ましくも羨ましい顔をしている男の姿が。

 俺の友人であり、一年生の頃から付き合いのある佐々木郁人ささき いくとだ。


「一体、どういう風の吹き回しなの? 仲がいいのは知ってるけど、いきなり付き合いたてホヤホヤのカップルさんみたいになっちゃって」

「付き合ってはいないんだが、今日はどうやらそういう気分みたいなんだ」

「ごめん、どういうこと?」


 俺が知りたい。


「……色々あったんだよ。昨日一日で」

「こっちとしては、たった一日で城が攻め落とされたような話になってるよ」


 俺だってちゃんと説明したいが、俺の過去の黒歴史に関する話などしたくない。

 こいつらに笑われでもしたら、腸が煮えくり返る思いになるのは決まっているのだから。


(それに、俺だってイマイチよく分かってねぇよ)


 本当に誰かと手を繋ぎたかった気分なのかもしれないし、俺と頭の中の王子様ヒーローを確かめる儀式のようなものかもしれない。

 ただ、今までではないであろう行為であることには間違いなかった。


「あ、噂をすれば水瀬さん」


 郁人が教室の入り口に視線を向ける。

 俺もつられて見ると、そこには柚葉が―――


『~~~ッ!?』


 顔を真っ赤にして逃げ出していく姿が見えた。

 しかも、俺と目が合った瞬間に。

 同じクラスなのだが、ちゃんとホームルームまでには戻ってくるのだろうか?


「……なんか、今時の女子高生にしては珍しい初心うぶな反応が見れたんだけど」

「そう思うか?」

「どう見てもそうとしか見えないんだけど」

「やっぱそうだよなぁ」


 でも―――


「好きじゃないって言われたし」

「えー、そうなんだ」

「あの反応を見る限り意識はされてると思うが、今だけだと思うぞ」


 勘違いかな? とは思ったが、あの反応を見るとやはり意識はされているだろう。

 そういうのを考えると、やはり今の柚葉の様子がおかしいのは俺と王子様ヒーローがごちゃ混ぜになって戸惑っているからだろう。


「最近好きになってしまった男の子を見るような反応にしか見えないんだけどなぁ」

「俺もそう思うけど、本当に今だけな気がする。彼女がいない男にとっては辛い反応だがな」


 気にすんなって言ったし、直に幼なじみとしての態度に戻るだろう。


「だから、想像するようなことは起こってないわけ。分かったか、そこで群がる野郎共」

『なんだ、そういうことか』

『それならそうと早く言ってくれればよかったのに』

『おかげで遺書を代筆したのに無駄になっちまったじゃねぇか』


 誰の遺書を代筆したのか気になるところだ。


『おーい、入江くーん』


 その時、ふと男子達の奥から声が聞こえた。

 なんとか顔を覗かせると、同じクラスの女子が手招きしている姿が見える。


『入江くんにお客様だよ』


 はて、誰だろうか?

 とりあえず呼ばれているということで、立ち上がって男子達を掻き分ける。

 すると、何故か教室には俺の周りとは別の人だかりが。

 そして、その中心には―――


「来たわね、入江」


 艶やかな甘栗色の髪。

 凛々しく目を惹く雰囲気と、端麗すぎる顔立ちをしている少女。

 流石の俺も、この女の子の名前を知っている。


『おい、霧島さんだ!』

『ほんと、霧島さんって綺麗だよね』

『流石は現役モデル……俺、この前雑誌買っちゃったぜ』


 ───霧島来栖きりしま くるす

 何せ、同い歳の現役モデルさんで柚葉の仲のいい友人でもあり……柚葉と同じ三大美少女と呼ばれているからだ。


「ちょっと、面貸しなさい。誰も連れてこないで、二人きりでね」


 そして、そんな彼女は親指を後ろに向けて俺へとそう言い放ったのであった。



「……俺、シメられるんです?」

「……言い方が悪かったわ、二人で話したいことがあるの。だからついて来てちょうだい」


 始めからそう言えばいいのに。

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