王子様だってバレた
次回は18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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子供の頃、ヒーローに憧れていた。
かっこいい! よりも、なんというか「誰かを助けられた自分、凄い!」という自己肯定感と承認欲求に憧れていたんだと思う。
そのせいで、昔は色んなことに首を突っ込んで各種方面から怒られたのを覚えている。
たとえば、飼い犬に襲われそうになった見ず知らずの子を庇ったりだとか、溺れている子をプールサイドまで上げようと飛び込んだりとか。酷い時は火事に居合わせてしまって子を助けようとしたりとかしていた。
まぁ、飼い犬はともかく、それ以外を小学生の子供がやったのだ、怒られないわけがない。
しかも、背中には庇った際に大きな火傷はできているし、肩口には飼い犬に引っ掻かれた際の傷は残っているしで、体は成長していくのに傷だけはそのまま。
在り来りで当たり前だろうが、子供の夢を成長している間も抱くとは限らない。
特に「正義のヒーローに、俺はなる!」が続くわけもない。今となっては、思い出すだけで恥ずかしい黒歴史である。
そんな黒歴史が体に刻まれているのだ。後悔……まではいかなくとも、お風呂に入る度気恥かしい思いに駆られてしまう。
だからこそ、あまりこの姿を見られたくなはい。
学校での授業やイベントも、いつも必死になって隠していた。
特に意味合いは違うが、柚葉だけには───
(まぁ、幼なじみであろうが、そう滅多に自分の体を他人に見せることなんてないけど)
高校二年生の春。新しい環境に皆々様が投げ出された頃。
俺───
「……たでぇまー」
家の中からはテレビの音が聞こえる。
両親は基本的仕事で日中いないし、恐らく姉でも家にいるのだろう。
急な雨に対応なんてできるわけもない。そのため、俺はずぶ濡れになったままリビングへと向かった。
すると───
「あ、つっくんお帰りー」
リビングのソファーには、姉ではない人の姿が。
愛苦しい端麗に、小柄でハッキリとしたクビレ。艶やかな金の長髪が特徴的な女の子。
着崩した制服や見た目派手さがあるものの、間違いなく街を歩けば確実に注目を浴びるような容姿だ。
姉ではない誰かがいることに少し驚いたものの、勝手に家にいることに注意などしない。
何せ、家族ぐるみで付き合いのある
「やっぱりびちょびちょだねー、寸前で帰って来れた私の勝ちー!」
「仕方ないだろ……放課後はクラスの男子達との猥談会があったんだから」
「ねぇ、全然仕方なくもない話なんだけど?」
濡れて肌寒さを感じ始めた俺にジト目を向けてくる柚葉。
幼馴染で勝手に家に上がり込んで来ているクセに、ロクに心配もくれない。薄情さんめ。
まったく、そんな性格じゃモテないぞ───
(……いや、普通にこいつめっちゃモテるんだよなぁ)
うちの学校では、誰が呼び始めたのか分からない三大美少女様がいらっしゃる。
才色兼備を体現したような三人の美少女。学校での人気は凄まじく、女子はともかく男子で知らない人はいないほど。
柚葉は見た目からも納得できる通りそのうちの一人で、彼女に好意を寄せる男は数え切れないほど。
しかし、柚葉は過去一度もお付き合いした経験がないという。
本人曰く、ヒーローみたいな人がいいだとかなんだとか───
「んで、今日は何しに来たの? ゲーム?」
「ううん、今日はお母さん達夜勤でいないからこっちでご飯食べに来た……って、それより早くお風呂に入って来たら? 風邪引いちゃうよ?」
「……やっと心配してくれた」
「え、張り倒した方がいいの?」
なかなかファンキーなことを考えるお嬢さんである。
『天秤座のそこのあなた! 今週は運勢最悪! 隠し事が露呈して、一気に人生の岐路に!? 浮気不倫の告白はお早めに決心することをオススメします!』
そんなファンキーなお嬢さんに頬を引き攣らせていると、ふと点けているテレビからそんな声が。
どうやら、今週は天秤座が最悪らしい。俺、天秤座なんだけど。
「占いってさ、基本現実逃避したい人間に向けてそれっぽいこと口にしてるだけだよな」
「いいから早く入って来なさい天秤座」
手をヒラヒラとさせ、風呂へと促してくる柚葉。
確かに、早くこのベタベタ感を拭いたい。
俺はカバンを玄関に置いて、そのまま脱衣所へと向かう。
濡れたYシャツは洗濯カゴへ。制服はクリーニングに出すとして───
(……って、何度見てもやっぱり)
洗面台に映る自分の姿。
姉と同じ遺伝子だからか、そこまでブサイクな顔ではないと思う。
体もちゃんと筋トレして肉付きはいいのだが……問題は、脱いだら分かる傷である。
(これだけは柚葉に見せないようにしないとなぁ)
別にやましいことがあるわけじゃない。
見せたくないのは、もちろんこんな傷を見せて怯えさせたくないというのもある。
加えて、一番の理由が───
(俺が昔助けたってことだけは知られたらマズい……)
昔、火事の現場に居合わせたことがある。
柚葉と遊ぼうと思ってショッピングモールに向かった時の話だ 。
そこで逃げずに、逃げ遅れた柚葉をなんとかして助けた。
向こうは酸欠か何かで記憶が朧気らしいのだが……何故か、俺が庇って背中に火傷を負ったことだけは覚えているらしい。
『私、絶対にその子に会ったらお礼言うんだ! そして、この想いを伝えるの!』
それが自分。きっと、彼女が聞いたら驚くに違いない。
ただ、あの時の俺は「ヒーローは颯爽と駆け付けて颯爽と立ち去る!」的なことが頭の中にあり、周囲の人には黙ってもらうようお願いしてしまった。本人にも「違うところで遊んでたよ」と、馬鹿なことに否定した。
おかげで、今となっては言い出せない状況にある。
(というより、もう今更昔の黒歴史なんて掘り返したくもねぇ……!)
馬鹿みたいにテレビのヒーローに憧れてヒーローごっこを全力でやっていた。マントもお面も買ってもらって、それで困っている人がいたら自分で首を突っ込んでたんだ。これが大人一歩手前までになった人間にとって黒歴史以外のなんだというのか。
「あっ、やべぇ……タオルがない」
今更になって、脱衣所にタオルがないことに気がつく。
面倒臭いが、シャツだけもう一回羽織って部屋まで取りに行かな───
「つっくーん! タオルないでしょ、気が利く私が持って来てやったぞー!」
そう思っていた時だった。
ノックもなしに、勢いよく柚葉が脱衣所に現れる。
そして柚葉は何故か、タオルを手に取ったままこっちを……というより、俺の背中を見て固まってしまった。
「………………」
柚葉の頬に一筋の涙が零れた。
気づかれた、なんてことは言わなくても彼女の姿を見ると分かってしまう。
「……う、うそっ」
この時、俺は何故か少し前に聞いた声をふと思い出した。
『天秤座のそこのあなた! 今週は運勢最悪! 隠し事が露呈して、一気に人生の岐路に!? 浮気不倫の告白はお早めに決心することをオススメします!』
占いなんて、それっぽいことを並べてあたかも身に覚えがありそうな形に言っているだけ。
現実逃避したい人がすがってしまいたくなるような希望的観測を与えているだけ。
占いは、当たるものじゃない。
だが―――
(……マジかぁ)
長いこと隠し続けてきた秘密。
それが今日という日に、露呈してしまった。
彼女を助けたのが俺だということが、バレてしまったのだ。
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