学園の三大美少女様を昔助けたのが俺だとバレた。それから彼女達の様子がおかしくなった

楓原 こうた【書籍5シリーズ発売中】

プロローグ

(※柚葉視点)


 私———水瀬柚葉みなせ ゆずはが住んでいる街で昔、大きな事件があった。

 大きくも小さくもないショッピングモールで火災が起きたの。

 全焼してしまうんじゃないかってぐらいの火。火元は建物の中にある飲食店の油に火が点いたことが原因。


 今はもう取り壊されて新しいモールが建設途中なんだけど、当時それはもう大騒ぎだった。

 そして、私は運悪く……そのショッピングモールにいてしまった。


「うぅ……お母さん達、どこ?」


 私はその時、小学二年生ぐらい。

 家族皆で買い物に来ていた矢先で、ちょうどお母さん達とはぐれていた時だった。

 迷子……というよりかは、少しお母さん達と離れて雑貨屋さんを眺めていただけ。

 そのタイミングで何やら騒ぎ出して、私は大勢の戸惑う人達が怖くて休憩所の物陰に隠れていなくなるのを待っていた。


 火災が起きたから、皆が慌てていた。

 その波に乗り遅れ、子供が人目から離れたらどうなるかなんて言うまでもない。


「あ、っい……」


 歩いている先には赤い光。

 周囲は焦げ臭くて、パチパチと燃える音が聞こえるだけ。

 その時の私は、ただただお母さん達に会いたくて本能的にわざと騒がしい方へ向かっていた。

 でも―――


(あ、れ?)


 子供の自分が知るわけもない。

 火事の死因で多いのは火傷よりも一酸化炭素中毒や窒息なんだということを。

 ただただお母さん達を捜して歩いている自分が、体勢を低くして……なんて考えるわけもない。

 煙も吸って、熱にあてられて、次第に意識が朦朧となって……ついに倒れてしまった。


(やだよ……)


 火災による死因なんてことは知らなくても、火の怖さは知っている。

 だからこそ、薄れいく意識の中……私は死の恐怖に襲われていた。

 死にたくないって、怖いって。

 でも、体は思うように動かなくて。意識すら保っていられなくて。


(だ、れか……たすけ、て)


 その時だったの。


『あーっ、クソっ! これはかっこいいヒーローの出番ってことになっちゃうっ!』


 ふと、どこからか声が聞こえた。

 声が現れた瞬間、ゴンッ! っと。お店の中にあった燃えているハンガー掛けが私目掛けて落ちてきた。

 声の人は、咄嗟に私に覆い被さった。


『~~~ッ!?』


 言葉にならない叫び。

 包まれている感触で分かった。その子は自分と同じぐらいの体格で、男の子。それで、今の庇った行為でこと。

 それでも、唐突に私の体がおんぶの要領で抱えられ、口元にハンカチみたいな感触が当てられる。


『ぜ、ったいに……助けてみせる!』


 何を言ってるか分からない。

 この時の私は、もう意識を保っていられるか分からないほどだった。


『それが、かっこいい……ヒーローだから!』


 ―――彼のおかげで、結局私は助かった。

 話によるとその子も助かったみたいだけど……誰もどの子が助けてくれたのか教えてくれなかった。本人希望なんだって。

 恩に着せず、自分だって一刻も逃げ出したいはずなのに、身を挺して私を守ってくれた。


 私は、この日初めて———



王子様ヒーローに出会ったんだよ~!」


 あれから数年後。

 私は無事高校二年生になって、クラスメイトの何人かが変わった新しい教室で過ごしていた。

 教室の中は、朝のホームルームを待つ生徒の姿と、楽しそうに談笑している声が聞こえてくる。

 そして、私の対面には———


「……その話、もう両手どころか両足の指を使っても誰かのお借りしないといけないぐらい聞いたんだが?」


 彼は私の幼なじみの入江司いりえ つかさ。通称、つっくん。

 家族同士で仲がよくて、もう私の人生の中で一番付き合いだ。

 こうして同じクラスになってからいっつも話すぐらいには仲がいい。

 ただ、の子かな?


「つっくん、私のこの想いは一回や二回話したぐらいでは色褪せないのです」

「俺の耳はすでに色褪せてモノクロになってる」


 少しぼさっとした髪をしているつっくん。

 顔は……普通? ブサイクってわけでもないし、どちらかというと整っている方だと思う。

 ただ、こうして私の話をちゃんと聞いてくれない性格はよろしくないと思います。

 まぁ、テストの成績はいっつも学年トップだし、運動部よりも体育祭で活躍できるほど運動神経もいいし、クラスの男子達からの人望も厚いけど……って、あれ? つっくんって意外とハイスペック?

 でも、やっぱり異性としては見れないかな?

 優しいし、話してて楽しいけど、一緒にいすぎて弟感覚が強い。

 それに、私の中ではどうしても王子様ヒーローが一番なんだ。


「私、絶対にその子に会ったらお礼言うんだ! そして、この想いを伝えるの!」


 私は瞳を輝かせながら口にする。

 すると、つっくんは少し視線を彼方の方に向けて───


「い、いつかちゃんと言えるといいっすね……」


 そういえば、つっくんはこの話になるといっつも冷や汗を流してなんか挙動不審になる。

 火事を想像して怖くなっちゃうのかな? 本人に聞いても、いつも「別にそんなことはないんだが?」って言うんだ。

 けど、どっからどう見ても様子がおかしくなるし、本当は怖いんだけど強がってるんだと思う。ちょっと可愛い。


「どこにいるのかなー?」

「ト、トオイドコカニイラッシャルノデハナイデショウカ?」

「私と同じぐらいで男の子っていうのは分かるんだけどー」

「(ビクッ)」

「あっ、あと背中に大きな火傷があるはずなんだよ!」

「(ビクッ)」


 凄い、つっくんがさっきから跳ねっぱなしで面白い。


(でも、これぐらいにしておこうかなー)


 本当はもうちょっと話したいけど、怖がるつっくん可愛想だし。

 私は立ち上がって、つっくんにVサインを見せる。


「私、くーちゃんとしーちゃん先輩とお話ししてくる!」


 ホッ、と。つっくんが胸を撫で下ろした。

 よっぽど怖かったんだなぁ……このかわいこちゃんめ。またしたくなっちゃうじゃん。


「ってか、相変わらず仲良いよなぁ……なに、美少女枠で仲間意識でもあるの?」

「違うよ、私達は同じだからだよ!」


 一年生の時に一緒のクラスになったくーちゃんも、生徒会のお手伝いで知り合ったしーちゃん先輩も、昔男の子に助けられたことがあるんだって。

 たまたまそういう話の流れになって……初めて聞いた時は驚いた。まさか私と似たような過去を持った人がいただなんて。

 同じ境遇の者だからこそ、一年生の頃に仲良くなれたんだと思う。


「っていうか、そういうことならつっくんも仲間意識凄いじゃん。放課後、ほぼ毎日男の子達で何かしているみたいだし」

「あれはただの猥談会だ」

「さいてー」


 はぁ……どうして思春期の男子さんはこうも変態さんなのかね?


「にしても、学年も違うがこんなにも仲がいいと、本当に周囲の男子が喜びそうな構図になるよなー」

「むっ、私その言い方嫌い」


 私は何故か一年生の頃から周囲からそう呼ばれている。

 確かに、自分でも容姿は整っている方だっていう自覚はあるけど、外見だけ見られているようで好きじゃない。何回も受けてる告白も、見た目だったりちょっと話したことあるだけでって人が多いし。

 まったく……見た目無視して優しさと勇気を向けてくれる私の王子様ヒーローを見習ってほしいものだよ。


(あ、そういえば)


 昔、つっくんってんだよね。ずっとヒーローごっこしては怪我して帰ってきてた覚えがある。

 あの子もそんなことを言ってたような―――


(……ないない、つっくんその日違うところで遊んでたって言ってたもん)


 私は首を振って、浮かんだ考えを振り払う。


(でも、本当に会いたいなぁ)


 会ったら、私どうなっちゃうんだろ?

 こんなずっと抱いている想い。きっと、どうかしちゃうかもしれない。

 だって―――


(私の初恋、まだ続いてるもん)


 ……あ、くーちゃん達とお話しに行かなきゃ。

 早く行かないと、ホームルーム始まっちゃうし。


「っていうわけで行ってくるね、つっくん!」


 私はつっくんに向かって手を振って、そのままそそくさと教室を出ていくのであった。












「……毎度のことながら、ほんとバレるんじゃないかってヒヤヒヤする」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次話は12時過ぎに更新!


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