Aの観察日記

@sak_mei

第1話


ふと左に目をやると、いつものように机に顔を埋め、意識をあちらの世界に飛行中の奴がいる。かれこれ30分経過しているが、一向に起きない。



「ん……ぐがっ…!」


と思いきや、変な声をあげてぬうっと起き上がり、右隣の俺にすごい形相で視線を向けてきた。


「……おはよう佐藤くん。今日は購買で新作スタミナ大盛り丼が先着10名で販売するんだった、いや〜すっかり忘れてたよ。この後一緒に買いに行ってくれない?君の奢りで。」


起きて最初に言うセリフそれかよ。てか奢りって……


「お前一人で行け」


「頼むよ〜、今月ちょっとお金なくて‥‥」

「金がないのに高い飯を食うな、アホ!あとこの前貸した3千円………」


「ああ、あれねあれね!明日必ず!えーっとじゃあ、君のお弁当少しもらっても‥‥」


奴の少しもらうは、9割持ってかれる。とりあえずこいつに構うと面倒なのでスルーしよう。


「ねえねえ佐藤くん。聞こえてるんでしょ?お〜い。」


ちなみに僕の名前は佐藤ではなく吉田だ。


僕は無視して黒板に書かれた数式をノートに写す。


「……ん?板書なんて面倒なことしないで、私みたいに睡眠学習してしまえば一石二鳥なのに。」


居眠りの方が効率がいいってことか?まあ、そんな話もたまに聞くが、こいつは一般人の脳みそとは訳が違うので、参考にならん。


「………ちっ。すたみな……諦めるか‥‥」


ついでに会話も諦め、再び奴は眠りについた。



この図々しい性格をなおさず、よくここまで生きてきたなと、俺は一周回って誇らしく思えた。





「…よっしー、またあいつに絡まれてんね?お疲れ。」


一部始終を目撃していた後ろの席の上原は、哀れみの目を俺に向けてきた。


「俺、あいつに目つけられるような事したか?心当たりないんだけど。」


「は〜ん、どうかね。よっしー不良だから、誰かに恨み買われてもおかしくはないかも。まあ、ゆめっちの場合は……気まぐれだろうね。それか友達になりたくて、構ってるんじゃない?笑」


冗談もほどほどにしてくれ…。


「でも、まじで不思議ちゃんだよな、ゆめっち。」


上原は視線を隣に戻し、睡眠学習中の奴を、珍しいものを観察するように見つめた。





奴の名前は『赤城来夢あかぎらいむ』。


突如としてこのクラスに転校してきた。


肩ぐらいまである長髪に透き通るような白い肌、ひょろりと細身の体系は、かなり美しい容姿と言える。

しかしなぜだろう、これまで出会ったことのない人間の雰囲気があり、俺にはそれが少し不気味だった。


授業中はいつも寝ており、たまに調理実習室へ行き冷蔵庫から食料を漁る、ゴミ箱から使えそうなものを物色する、といった奇行が見られる。


最初の頃はよく周りからドン引かれていたが、容姿が特段に良いため、徐々に奴を気にする奴はいなくなっていた。


しかし俺は訳あって生徒会に所属しており、奴の監視係を任されている。


そのため今もこうして隣の席で、数式を映すふりをしながら、



『赤城来夢観察記録』をノートに綴っているのであった。

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